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アルバムの裏テーマとして「人生」があるんです
── 続く新曲は「Bad Temptation」。堂島孝平さんの曲ですね。 安野 この曲に関しては、私からお伝えしたことは何もなくて、堂島さんとプロデューサーさんとでアイデアを出し合って作っていただきました。バンドサウンドで、楽器の数が少ないからこそ1つひとつの音が尖って聞こえるというか、ミュージシャンの方のテクニックが光る曲になりました。曲調的にはマイナーで、そこが病みつきになるポイントかなと。難しいメロディですが、練習してなじんでくると逆にしっくりきて、ボーカルでもほかの曲にはない味わいが出せたと思います。
── 歌詞が描いているのは男女の恋愛ですが、男子が不甲斐ない感じなんですよね。逆に主人公の女の子は強くて、「月が奇麗」という月並みな口説き文句には、簡単に引っかからない。 安野 ふふふふふ、そうですね(笑)。「お決まりの口説き文句なんて、いらないわ」という感じの女性像です。この曲は、今までの堂島さんの曲よりキーが高くて、それもまた女性らしさを醸し出していると思います。キーチェックのときに「ひとつふたつ下げる?」と提案されたんですけど、いや、このままで歌いますとお答えして。強くて、でも危なげな一面もチラ見えする女性像を表現するには、高めのキーが合うと思ったんです。
── 危なげな一面というのは、どういうところですか? 安野 主人公の子は20歳前後の若い子だと思うんです。それで若さにおごって、ちょっと調子に乗っちゃってるんですね(笑)。今、自分は世界で最強だと言い切れちゃう若い女の子の無敵さや傲慢さを、パワフルなサウンドに乗せて肯定している曲なんだと解釈しました。だから歌い方も「小生意気な感じに」というディレクションをいただいて(笑)。小憎らしささえもかわいらしく見えるという女の子の魔性を表現しようとがんばりました。堂島さんの曲に合わせて、演じきることができたと思います。
── 続いては、「波間に消えた夏」。西直紀さんの作詞、安部純さんの作曲、倉内達矢さんの編曲です。 安野 仮詞の段階では夏というワードは入ってなかったんですけど、この曲は真夏の曲であってほしいなと思って、要望をお伝えしたんです。人生を四季にたとえると、夏というのは青春を謳歌する年代だと思うんですね。人生の記憶に残るような鮮烈な夏、まぶしく輝くシーズンを描いて、そのさなかにいる人たちを全力で応援する曲にしたいんです、とお願いしました。
── そんな曲を、どんなお気持ちで歌ったんですか? 安野 男女のひと夏の出会いを描いた歌詞になっているんですが、私はその物語の語り手というか。まっ青な海を前にした2人の青春の1ページを眺めては、「まぶしいね、いいね!」と応援している気持ちで歌いました。
── サビのメロディが面白くて、一度終わったかに思えて、もう1フレーズ続くんですよね。 安野 この部分、すごく気持ちいいですよね。過ぎゆく夏を名残り惜しみつつ、でも必ず過ぎ去っていくという儚さも感じられて、切なくなります。みなさんの心の中の青春、人生の夏の想い出を思い出す際のお供にしていただけたらうれしいなと思います。
── 続いては「エトセトラ」。先ほどうかがった通り、yuigotさんに発注して生まれた曲です。 安野 すごく不思議な曲を書いていただけたと思います。yuigotさんには直接お会いする機会があったんですけど、どんなお気持ちでこの曲を書かれたのか、尋ねるのを忘れてしまいました。
── 作詞は児玉雨子さんで、この曲の主人公も若い女の子なのかなと思いました。 安野 児玉さんには私から「リセット」「再スタートを切る」というキーワードを出させていただきました。一度失敗したりつまづいたりしてイヤになっちゃったけれども、もう一度がんばってみようかなという思いを表現した曲にしたかったんです。たしかにこの曲の主人公も若い女の子で、でも、この子なりに挫折を経験しているんですよ。傷ついてしまったけど「もう一回がんばろう、もう一回がんばろう」って奮闘する姿に、勇気をもらえる曲になったんじゃないかと思います。
── ワンピース、ミュール、指輪と女性らしいアイテムが歌詞に散りばめられているんですけど、その中にスニーカーという言葉が混ざっていたりするんですよね。そこにも若さを感じました。 安野 少女と女性の狭間にいる子なのかなって思いました。今回のアルバムは女心を歌った曲が多くなった気がするんです。今まで以上に、女性のリスナーさんにいいなと思ってもらえるアルバムになったんじゃないかなと思います。
── お話をうかがっていると、日々生きていく中で感じることが各曲のキーワードになっているような気がします。 安野 そうなんです。このアルバムの裏テーマとして「人生」というのがあって。いろいろな人生の瞬間を切り取りつつ、すべてを肯定するアルバムにしたいと思っていました。たとえば「宇宙の法則」は未知なる私、まだ形が定まっていない、これから出会っていく私。「世紀の祝祭」のハメを外したお祭りも人生に必要だし、シングル曲の「おんなじキモチ。」はご飯を食べようという曲で、これも人生には必要ですよね(笑)。
── なるほど。となると10曲目の「OUTな夜」も人生のいち場面と言えるような気がします。作詞はサエキけんぞうさん、作曲・編曲は倉内達矢さんです。 安野 これはすごく曖昧な曲ですよね。あえて答えを出さないという感じの。人生にはそんなときもあるのかなって。歌詞は、夜の繁華街をふらふらと歩いて、目に付いたものに心ときめかせているような感じで、文章として意味をなそうとしていない、言葉遊びみたいな内容なんですよね。私も快楽におぼれるような感覚で歌いましたし、完成した曲を聴いたときはサウンドの洪水が病みつきになって、10回くらい連続で再生してしまいました。こういう夜感のある楽曲が好きだなあ、ずっと歌いたかったんだなあと幸せな気持ちになって、サエキさんと倉内さんに、ありがとうございましたとお伝えしたいです。