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▲ 第2会場 兵庫県立美術館
地方美術館の学芸員たちの“横のつながり”で、展覧会は実現した
山口 実は、サンライズに話を持っていった時点で、開催する美術館は4館に増えていました。私と工藤さんだけが盛り上がっているように見えては、説得力がないように思ったので、興味がありそうな学芸員に声をかけていったんです。まず兵庫県立美術館、静岡県立美術館が加わり、サンライズへうかがう直前に島根県立石見美術館、最後に富山県美術館の参加が決まりました。しかも、それぞれの館の学芸員が、単に開催するだけでなく展示内容に参加したいと言ってくれました。ここまで学芸員が主体的に進める企画展は、アニメなどサブカルチャー系の分野では、なかなか例がないと思います。富野監督とは2~3回ほどお会いして、説得しようと試みました。たとえば、安彦良和展だったら安彦さんの絵を集めれば開催できますよね。今回の場合、絵コンテやモビルスーツのラフスケッチを展示するのか、富野監督にも展覧会のイメージがつかめなかったのでしょう。お互いに、様子をうかがっている感じでした。サンライズのご担当の方も「最終的に、監督がどう判断するかですね」とおっしゃっていました。
── 何が決め手になったのでしょう? 山口 展覧会は、今年決めたから来年すぐに開けるというものではありません。美術館のスケジュールもあるし、準備に時間もかかります。まして、6つもの美術館が集まることは近年ではまれですから、その重さをわかってほしいと監督にお願いしました。
── 劇場版『Gのレコンギスタ』(2019年~)の公開とタイミングを合わせたわけではないのですか? 山口 『G-レコ』と重なったのは、完全に偶然です。強いて言うなら、2019年は最初の『機動戦士ガンダム』放映開始から40周年なので、そこに重ねられたら……とは思っていました。それと、福岡市美術館は2019年に40周年を迎えて、リニューアルオープンすることが決まっていました。せっかくならば、ガンダム40周年と福岡市美術館40周年を重ねたい。リニューアルオープンの第1弾ではなく、第2弾としてアニメ関連の企画展を開催すれば、お客さんの意表をつけるとも考えました。開催の順番は2019年に福岡市美術館、兵庫県立美術館、2020年に島根県立石見美術館、静岡県立美術館、富山県美術館、2021年に青森県立美術館。巡回中に、さらに新潟市新津美術館と北海道立近代美術館が加わりました。
▲ 第3会場 島根県立石見美術館
── 計8つの会場で同じ資料や絵画を展示する手間は、さぞかし大変だっただろうと思うのですが……。 山口 今回の場合は、各美術館の出資したお金を神戸新聞社にプールして、全国を巡回するのに必要な輸送費、サンライズなど各版権保持者への版権使用料、資料の額装など展覧会全体にかかる費用をその原資の中から捻出しています。事務作業を含めて、巡回全体の運営の中心になっていただくメディアが必要で、それを今回は神戸新聞社にお願いしたわけです。作品の管理、展示設営、広報、そして会期中の運営(監視員の雇用や観覧料など収支の管理など)を行うのが各美術館の役目です。
── あくまでも、美術館が主導した展覧会だったわけですね? 山口 はい、こうして学芸員たちだけで企画する展覧会は美術展では普通なのですが、先ほど言ったようにアニメの展覧会では珍しいと思います。学芸員同士の横のつながりもあって、青森県立美術館の工藤さんは、島根県立石見美術館の川西由里さん、静岡県立美術館の村上敬さんと「トリメガ研究所」というユニットを組んでいて、美術からサブカルまで横断するような企画をすでにやられていました。ですから、工藤さんから川西さん、村上さんへの連絡はスムーズでした。また、兵庫県立美術館で「超・大河原邦男展」を企画した小林公さんには、私から電話しました。小林さんと同館の岡本弘毅さんは大河原展のときにサンライズから大量の資料を借りた経験があるので、アドバイスしてもらって助かりました。富山県美術館は最初に「成田亨 美術/特撮/怪獣」を企画した美術館で、当時の担当だった方は東京の美術館に移ってしまったのですが、同館の若松基さんは富野ファンだと聞いていたので、打診してすぐにOKしてもらいました。ただ、若松さんもまた富山県水墨美術館に異動してしまって、とても苦労されていましたが。
── 地方の美術館同士が連携して、これだけの規模で実現したということですね? 山口 「あえて東京での開催は外したのだろう」と勘繰られるのですが、とんでもありません。私から東京での開催を希望して、東京の大手新聞社や有名な美術館にも話をしていました。ところが、どちらも途中で降りてしまい、東京での開催は実現しませんでした。こういう文化発信は東京発の場合が多いのですが、要するに自分たちが中央から発信したかったのかもしれません。私たちのような地方の美術館が主導するのは、東京の方たちからすれば、あまり面白くなかったのかもしれませんね。
▲ 第4会場 静岡県立美術館