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2000年代以降の玩具化によって、時代に即したアップデートが可能に
── 荒牧さんがデザインした「メガゾーン23」(1985年)、「AKIRA」(1988年)など、「機甲創世記モスピーダ」の後に、SFアニメでバイクメカがちょっとした流行になりますね。 荒牧 放送当時、「モスピーダ」の玩具が商売として成功したかどうかはわからないんですけど、私自身はバイクは大好きです。バイクは人の目線に近くて、パーソナルな感じやスケール感を伝えやすいところが魅力です。アニメのメカとしても、掘り下げて描写しやすいですよね。バイクがパワードスーツになることで、さらに人と融合して一体化する。ある意味、究極のメカではないかと思います。だけど、玩具としてはフィギュアとメカスーツが一体化する必要があり、ポーズをとらせづらいなどの問題を抱えています。だからこそ挑戦のしがいがあり、技術の進化によって最近になっても玩具化してもらえるのかもしれません。
── 「モスピーダ」の玩具の監修やデザインも、積極的に手がけられていますよね。 荒牧 今回の新プロジェクト「GENESIS BREAKER」も、実は玩具がキッカケのひとつになっています。当時、商品開発で痛感したのは、デザイナー側のコンセプトを商品設計する職人さんに理解してもらわないと、魅力ある商品にはできないということです。コンセプトと商品開発の技術が両輪として機能して、はじめて心を動かすメカになる。進化しつづけるガンプラもそうだし、タカトクのバルキリーもそうだったと思います。自分だけが勝手にデザインを描いても、玩具にするときの形状やスケール、材質や生産性、価格設定もトータルに考えて商品化しないと、コンセプトを実現できないと身にしみてわかったんです。
── 2008年に、CM’S(シーエムズコーポレーション)やメガハウスといった玩具メーカーから、モスピーダの変形玩具が一気に発売されましたね。 荒牧 私にとっては、やまとというメーカーから「メガゾーン23」の変形玩具が発売されたことがエポックでした。その設計チームが、2009年にビーグルという会社から出たモスピーダを設計したんです。これがよくできていて、それまでにないスタイリッシュなデザインと変形機構を持っていました。モスピーダを新しくアレンジして商品化してくれて、このメカにはまだ可能性があると自分なりに感じることができたんです。当時、SNSが普及しはじめていたので、設計チームの人と直接連絡が取れて、T-REXの前野圭一郎さんたちと知り合うことができました。
その少し前に、バイク形態のモスピーダを1/1サイズで作りたいというナンディ小菅くんという人が現れて、そのときにモスピーダのデザインをアップデートする機会がありました。その流れで、当時出版された「モスピーダ」の設定本の表紙にもアップデートしたデザインのイラストを描いたんです。2017年に、その表紙のデザインをベースにして、千値練さんが新たにモスピーダの変形玩具を出したいと提案してくれました。「昔のモスピーダとはずいぶん違う形なので、ファンの反応はどうだろうか」と心配していたのですが、前野さんによる精緻で考え抜かれた設計もあって、商品は好評だったそうです。
私もT-REXさん、千値練さんとデザインをやりとりするのは楽しかったし、続けて発表した「ブロウスーペリア」も評判がよかったようです。タツノコプロの担当者さんも若いのに、まだ生まれていない時期のこの作品に一生懸命に取り組んでくれたので、「このチームで何かやれないか」と、強く思いました。
それならば「モスピーダ」という作品をベースにして新しい企画をやってみようか、という話に発展したわけです。タツノコプロさんから柿沼さんにも声をかけてもらったら、彼もサイドストーリーとしてやりたいことがあると言っている。だったら、みんなで集まって公式にスタートさせましょうという話になったんです。
── すると、千値練さんが発売した玩具が新プロジェクトの出発点なんですね? 荒牧 はい、千値練さんが商品化することは大前提です。柿沼さんがストーリーを考えて、それに合わせて私が第1弾のデザインを進める、という流れです。そのサイドストーリーがどういう形で発表されるかは、まだわかりません。海外のファンから「新しくアニメが始まるの?」とよく聞かれるのですが、まずは商品企画から、ということです。
── 「モスピーダ」は、海外で大人気ですよね。 荒牧 ええ、ありがたいことです。南米のファンも熱いし、ヨーロッパのファンも熱い。Facebookでいきなり、海外のファンの皆さんからフレンド申請がたくさん来ます(笑)。同じように海外から「『バブルガムクライシス』の版権はどこが持ってるの? 実写映画にしたいんだけど」なんてメッセージも来ますし、「『メタルスキンパニック MADOX-01』を実写で撮りたい」という奇特な海外の方もいます。
── 80年代のロボットアニメは、特別な人気がありますね。 荒牧 受け手も送り手も、一緒くたになって盛り上がってピークを迎えた時代だったんでしょうね。そのときの熱量が、いまだに人を引きつけるのかもしれません。そこに何か私にもできることがあって、みんなで楽しめるのであれば、やれるだけやっていきたいと思っているんです。どこまでやれるのかは、わかりませんが……。おかげさまで、「モスピーダ」という作品は数奇な運命を歩みつつあります。
(取材・文/廣田恵介)
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