なぜ今、「モスピーダ」なのか? 監督・メカデザイナーの荒牧伸志氏が、80年代メカのロマンを語る!【アニメ業界ウォッチング第69回】

2020年09月26日 12:000

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メカデザインだけやっていても、作品をコントロールすることはできない


── 「モスピーダ」の企画段階では、「降下機兵ベクター」というタイトルで、戦闘機に変形するロボットを荒牧さんと柿沼秀樹さんの2人で描いていますね。

荒牧 はい、最初は私と柿沼さんの2人でロボットの変形システムを考えていました。最終的にレギオスのベースとなったデザインは、柿沼さんが描いています。裏を明かすと、ロボット形態と戦闘機形態を別々に描いてプレゼンして、「本当に変形するの?」と代理店の人に聞かれたので「変形します!」と即答したんです。ところが、「じゃあ、来週までに変形することを証明してくれ」と言われて……。一応、「これなら変形するはずだ」と考えてはいたんですが、確証があったわけではなかったので、そのあとが大変でした。帰ってきてから、柿沼さんと徹夜で……その頃はCADなんてありませんから、方眼紙に「ここがヒンジで、このパーツが移動して」と一生懸命図面を描いて、プレゼン用のラフな木型を大学の後輩に頼むことにしました。

── えっ、大学の後輩に?

荒牧 大工の息子で、ロボットの変形玩具みたいなものを木で作れる後輩がいたんです。それほど精密ではないけど、なにしろ作るのが早い。ですから、新幹線で岡山まで行って朝から打ち合わせして、また1週間後に新幹線で受け取りに行きました。

── その木型で、プレゼンが成功したわけですね?

荒牧 いくつかの代理店や玩具メーカーさんのトップの人たちにプレゼンして、学研さんが乗ってくれることになり、「モスピーダ」の企画が成立したわけです。若輩ながらプレゼンの現場に立ち会えたことで、アニメ番組がどう決まって、どういうお金の流れで成り立っているか、いい勉強になりました。「モスピーダ」の場合は、主役メカの玩具が売れることが経済的な成功を握っている……と理解できたので、そういった意味で責任も感じるようになりました。

── ストーリーには関与しなかったのですか?

荒牧 ストーリーは、まだ脚本家の皆さんが参加する前は、柿沼さんが主導で話し合いながら考えていました。人類が異星人との戦いに敗れて火星へ撤退して、地球奪還作戦を計画する。地球では残党兵たちが戦っていて、火星からの援軍を待っている。地球降下作戦が決行され、作戦は失敗するが主人公たちは何とか生き延びて、彼らが旅をしながら異星人がなぜ地球へ来襲したのか探る……、という大まかなプロットをアニメの制作スタッフに渡して、その後はおまかせでした。柿沼さんの考えた第1話は、月面で火星から戻ってきた地球奪還軍が予行演習する話で、かなり渋い雰囲気でした。

── 柿沼さんによると、米ドラマ「コンバット」のように泥臭いミリタリー物を想定していたそうですね。テレビでは、かなりマイルドな雰囲気になりました。

荒牧 ええ、期待していたものとかなり違ったので、当時はかなりシュンとなりました。ですが、アニメ番組をつくるうえでの教訓はたくさん得たような気がします。

── テレビが始まってからも、ゲスト出演するメカを柿沼さんと荒牧さんは描いていますよね。

荒牧 ええ、もちろん。だけど、バイクがパワードスーツに変形する概念を玩具開発の人や、アニメ制作のスタッフに理解してもらえず、苦労しました。脚本には「モスピーダのコクピットに飛び乗った」などと書かれていました。でも、ひとつずつきちんと具体的な資料や画像をつくって、イメージをできるだけ多くのスタッフに浸透させる必要性があるんだということに気づかされました。また、監督の山田(勝久)さんが書いたラフコンテを清書させてくれたので、調子に乗っていろいろ変えてしまい、すごく怒られてしまったこともありました。


── どういう部分を変えたのですか?

荒牧 第1話冒頭で、ホリゾントという地球側の降下輸送艇が出てきます。そのブリッジが、「宇宙戦艦ヤマト」のように広々としていたので、コンテの清書段階で狭くて細長いスペースシャトルのコクピットみたいに直したんです。カット割りもレイアウトも変えてしまって。それで作画監督の宇田川(一彦)さんに、「こんなことは二度と起きないようにしてくれ」と静かにでしたけど、きつく言われてしまって。あのときは、反省しましたね(笑)。

── 第1話では、主役メカのモスピーダの変形カットに毎回使えるようなバンクがなくて、シーンの中で普通に変形していますね。

荒牧 そう、プロデューサーから、「マクロス」のバルキリーのように一瞬で変形するのがカッコいいんだと言われて、最初はああいう演出だったんです。だけど、バルキリーが瞬間的に変形するのは、すぐれた変形玩具があるから説得力が感じられるわけです。放送当初はまだ玩具が発売されていなかったモスピーダの場合、それじゃあまずいだろうと思いました。そこであわてて、バンクとしても使えるようなモスピーダの変形シーンの絵コンテを切ったりしました。
それから、「ライディングスーツを先に着ていないと、モスピーダが変形してもパワードスーツとして装着することはできない」という設定も伝わりづらかったです。普通の服の上からモスピーダは着用できないので、ライディングスーツを着るシーンを必ず先に入れてくださいと何度もお願いしました。

── レギオスでは、そういう齟齬は起きなかったのですか?

荒牧 レギオスは、モスピーダと比較すれば大丈夫でしたけど、飛んでいるレギオスと地上を走っているモスピーダが同じ速度で移動しているシーンが何度か出てきましたよね。だから、戦闘機とバイクを一緒に出すのは無理があるって、最初に言ったのに……(笑)。いろいろ好き勝手なことを言いましたが、アニメーターの皆さんは私らのデザインをよく描いてくれたと思います。おかげで、こちら側に何が足りなかったのか学ばせてもらえました。メカデザインだけでなく、もっと制作現場に深く関わらないと作品をコントロールできないんだと、「モスピーダ」を通じて理解できました。

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  • (C) タツノコプロ

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