前田庸生監督との出会い
─転機になったお仕事は?
尾崎 「NECRO DRAGON」も転機なんですが、一番の転機はCGのテクニカルディレクターだった前田庸生さんに東京まで引っ張ってもらったことですね。「東京国際ファンタスティック映画祭」で受賞したポスターも見てもらって、「絵が描けるなら、『メトロポリス』(2001)の3Dの仕事もできるんじゃない?」と誘っていただいたんです。前田さんに誘われなければ、サテライトのアルバイトが終了してさようならだったから、別の人生を歩んでいたと思います。
3Dはほぼ独学でした。前田さんには仕事のチャンスをいろいろと投げかけてもらいましたが、ソフトについては「マニュアルこれだから」と言って、本を指さして終わりでした(苦笑)。当時は、シリコングラフィックスのワークステーション、IndyやO2を使っていて、コマンドベースで非常にやりづらかったですね。CG専門の教育や経験がない中で「自分でやるしかない」という体質が身についたのは、このおかげかもしれません。絵が描けるというだけで、こんなチャンスを与えてくれた前田さんには感謝のひと言です。
─「少女終末旅行」で印象に残っているシーンは?
尾崎 先ほどお話した5話の雨音の構成はうまくいったなと思います。あと、1話の中で個人的に気に入っているシーンがありまして、廃墟から外に出て初めて星を見るシーンがあるんですけど、暗闇にいたんで夜でもまぶしく見えたんですね。その時のワンシーンを自分で撮影して見本を作ったんですけど、夜を光で表現したんです。夜なんだけど、ガーッと真白く明るくしたんです。そこのところは観ている人からも「キレイだね」と言ってもらえたので、うれしかったですね。ああいったシーンは、監督によって「夜なのに、なんで思いっきり明るく光ってるんだよ!」と切られちゃうかもしれないので、自分で監督・演出やったからできたのかなと思っています。
─息抜きでしていることは?過去のインタビューによると、バイクをお持ちだとか。
尾崎 北海道の大学の時からバイクが好きで、東京に来てからもしばらくは持っていたんですが、7~8年くらい前に売って、今は自分の足で旅行をしています。「少女終末旅行」の時は、バイクのころを思い出しながらやっていましたね。雨音が好きなのは実はそこで雨に叩かれながらカッパを着て、カッパを忘れた時にはビニールを上からかぶって、バイクを走らせていたんです。キャンプ場に着くと、テントにあたる雨音を聞きながら、一夜を過ごす。最高のひと時です。
─今でも旅行はよく行かれるのですか?
尾崎 最近は行けなくて、ストレスになっているんですが……(苦笑)。年に1回はどこかへ行きたいなと思っています。行く時は1~2週間くらいまとめて休みを取って、ブラブラと出かけますね。以前は、1~2か月に1回、バイクで遠出していたんですよ。
作画のよさを残したオリジナル作品を作りたい
─アニメーション監督に必要な資質能力とは?
尾崎 いくつかありまして、まずスタッフの能力を引き出せること。ディレクションという意味で方向性を示し、彼らのモチベーションを上げて、持っている能力を最大限に引き出すことです。
あとは、日常の観察力ですね。アニメ作りだけにスポットを当てるんじゃなくて、日常生活の感受性やコミュニケーションの敏感さも持たないと。歳を重ねると危ないんですが、俺様至上主義になりがちなんで、ベテランの演出家の方も気をつけたほうがいいと思います。
─今後挑戦したいことは?
尾崎 オリジナルで1本、原作、脚本、監督できれば幸せかな(笑)。フル3Dを目指していたころもあったんですけど、今はこだわっていません。自分でコンテを描いたり原画を描いたりしていると、やっぱり作画の魅力って捨てきれないところがありまして。これから3Dの作品は増えていくと思いますが、完全移行ではなくて、作画のよさは残し続けたいですね。
─オリジナルアニメが実現した際には、フィギュア制作のほうもいかがですか?
尾崎 そうですね(笑)。自分の原型でやれれば、おもしろいなとは思いますね。
─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
尾崎 僕としては観ている人と一緒に想像力を育みたいと思っているので、これからも想像力を豊かにして、いろんなアニメを楽しんでいきましょう!
●尾崎隆晴 プロフィール
アニメーション監督、演出家。北海道北見市出身(生まれは函館だが、1年で移住)。札幌大学卒業後、一旦は自動車会社に就職し、保険代理店業務に従事するも、将来的に自分の得意なことを生かしたいと退職。1998年、「東京国際ファンタスティック映画祭」でのポスターコンクール受賞を契機に、サテライトでアルバイトを始める。サテライト札幌スタジオでペイントや3DCGの経験を積み、上京後はサテライト、マッドハウス、A-1 Picturesで「HIGHLANDER」(2008)、「宇宙ショーへようこそ」(2010)、「世紀末オカルト学院」(2010)、「戦姫絶唱シンフォギア」(2012)などの撮影監督を務めた。フルCGアニメ「NECRO DRAGON」(2007~08)で演出家デビューを果たし、「TERRAFORMARS」(2014)で助監督、「ファイ・ブレイン 神のパズル」(2014)、「灰と幻想のグリムガル」(2016)、「逆転裁判 その『真実』、異議あり!」(2016)、「Re:ゼロから始める異世界生活」(2016)、「装神少女まとい」(2016)などで各話の絵コンテ・演出を担当。監督作品には「NECRO DRAGON」、「PERSONA5 THE ANIMATION THE DAY BREAKERS」(2016)、「少女終末旅行」(2017)がある。現在は、大人気ライトノベルを原作に持つ「ゴブリンスレイヤー」の監督として、ファンから熱い視線が注がれている。
※TVアニメ「ゴブリンスレイヤー」 特設サイト
http://ga.sbcr.jp/sp/goblin_slayer/anime.html
※TVアニメ「少女終末旅行」 公式サイト
http://girls-last-tour.com/
※TVアニメ「PERSONA5 THE ANIMATION THE DAY BREAKERS」 公式サイト
http://www.aniplex.co.jp/p5a/
※TVアニメ「TERRAFORMARS」 公式サイト
http://terraformars.tv/annex1/
(取材・文:crepuscular)