アニメーション監督・尾崎隆晴 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第24回)

2018年06月23日 17:000

写実の中のイメージショット


─尾崎さんの求める映像の方向性は?


尾崎 平均的にバランスの取れた映像を、ていねいに作ることです。キャラに寄り過ぎたり、音楽に寄り過ぎたり、美術に寄り過ぎたりするのではなくて、総合的なクオリティを維持したものって少ないのかなと思います。もちろん、それがすべての作品に正しいとは思っていませんよ。キャラだけ見せている作品でも、視聴者が「うん」と言った瞬間にいい作品になるわけですから。


─ご自身の演出で、特徴的だと思うところは?


尾崎 イメージショットを写実の中に大胆に取り入れていくところ、でしょうか。あくまでアニメーションは絵なので、本当の写実は実写にはかなわない部分があったりします。そこで、イメージ的で現実にはありえないようなショットを、キャラやドラマの感情を抽象して表現したりします。観ている人間を飽きさせない程度ではありますが。そればかりやっているとエンターテインメント性が欠けて商業的ではなくなるので、注意はしています。といいながらも、ちょっとアート志向なのかもしれないですね。


─「少女終末旅行」(2017)の第9話「生命」には、そうしたイメージショットが使われていました。


尾崎 タイトルが「生命」なので、生命をフラッシュバックで入れて、生命を考えてほしいという意味合いで入れました。その場合、生命そのものを見せるんじゃなくて、生命以外のものをわざと入れたんです。「水が流れる」とか、「水滴が落ちる」とか、「振動でボタンが揺れる」とか。


生きものが生きているのは誰でも想像できるんですが、生きものじゃないものを生きているかのように想像する。生命の定義ってそれなのかなと思っていて。ものや環境そのものにも何か意思があるかもしれないというところを、実際のロボットなどを交えてやってみました。すごくいい題材だったので、楽しんでやりました。

 

音の構成を考えた「少女終末旅行」


─そのほかに、演出面でこだわっておられることは?


尾崎 カメラレンズの使い分けと、あとは音のリズムですね。よくカット割りは「イマジナリーラインを基礎にして」というのがあるんですけど、僕はそれよりも音のリズムで描いているんで、意外とそこを崩しちゃったりしているところがありますね。絵で見るとつながっていなくても、曲を聴いたらつながっている。音の要素はとても重要で、いつも波形で考えていますね。ただし、失敗すると、単なる流れの混沌を導きかねないので、注意が必要です。


─「少女終末旅行」の第5話「雨音」は、まさに音の生かされたエピソードでした。


尾崎 ありがとうございます。これはかなり音を意識して作っていましたね。音を知らないチトとユーリが、「これが音楽なんだ、気持ちいいね」と気づくまでの話なので、どちらかというと絵のカット割りよりも、音をどこに入れていくか、音の構成を考えていました。音響監督さんや効果さんにも力を借りて、音楽のほか、SEにもこだわりました。


実は、これは5話だけじゃなく最初から仕込んでいまして、1話の1滴の水滴音から始まっています。それが中間でバラバラといろいろ混ざってくる、でもまだメロディにはなっていない。いわゆるオーケストラをやる前の、調律の段階です。それが集まって準備ができて、曲になるのが5話のエンディング以降で、5話は音に対する目覚めの話なんです。

 

「Re:ゼロ」や「ファイ・ブレイン」のカメラワーク


─「Re:ゼロから始める異世界生活」(2016)は第17話のみ参加されていますが、スバルの心の動きに応じて画面が振動したり、魚眼レンズになったりと、他の話数とはひと味違った画作りになっていました。


尾崎 「Re:ゼロ」はコンテだけだったので、どちらかというと監督の渡邊政治さんをはじめ、演出さん、その他実作業に関わったスタッフの方々の力量によるものと感謝しております。アニメは実写と違ってカメラ撮影ではなくアニメーターの描く画になるので、コンテに描かれたことが再現できるかどうか、毎回すごい不安なんですよね。コンテを形にするうえでのスタッフの力量というのは、かなり気になるところです。


カメラレンズやアングルは演出的にとても重要で、心の描写をする時はレンズを開いたり、客観する場合は引いて望遠レンズにしたり、場合によっては混ぜたりもしますね。実際のカメラでは絶対にできないアングルやパースも使ったりします。


今は誰が観てもわかるように説明が多かったり、段取りをきれいにやっている作品が多いんですが、それが多過ぎると想像力とか、人に対するコミュニケーションが損失してしまうんじゃないかなって思います、極端な話ですけど。アニメがアニメたる理由って、究極的には、そこにあるワンショットの画で説得できるか、パッと見たときに直感的に何を感じさせるか、というところだと思っているんです。心に残る1枚というのは、語らずとも何か人を感動させる不思議な魅力を持っているものなんです。


─「ファイ・ブレイン 神のパズル」第3シリーズ第17話(2014)では、幻覚の中でエニグマ大統領がかつての恋人ラヴーシュカと抱き合い、カメラが回転しながら大統領の瞳にズームアップしていくシーンが大変印象的でした。


尾崎 眼はわかりやすいので、結構使いますね。セリフや演技もあるんでしょうけど、一番強い説得力を持つのは、キャラクターの眼なんです。眼の輝きや潤いを見れば、生きた眼と死んだ眼の区別が簡単につきますよね。そういう意味では、デフォルメし過ぎて眼にハイライトの無いキャラは、結構難しいですね。


─「少女終末旅行」のアニメ版キャラクターには、ハイライトが入っていましたね。


尾崎 原作はアップになった時にたまに入っていましたが、基本は眼にハイライトがありません。原作ファンの方でも好き嫌いがあるかと思いますが、アニメでは入れさせていただきました。コミックだとそのままでいいキャラクターになっているんですけども、映像にした時は動きとか曲とかSEとかが入ったりするので、その時にうまく眼のブレがないと演出しづらいところがあるんです。


─「TERRAFORMARS」には過激な表現もありましたが、そのあたりにご抵抗は?


尾崎 まったくないですね。残虐シーンを見せるのは、キャラクターの心情や、善悪の対比、心の傷の衝撃、ドラマの感情などを引き出すためのもので、いたずらにそれ自体を悪ふざけで入れているわけではないのです。残虐シーンだから残虐なのです。痛々しいものも含め、そこで判断できるのが人なのかなと。しかしながら、それによって不愉快な思いをされる方もいるので、規制を無視しているわけではないんですけれども、表現者なので、そういうのは極力隠さずに見せていきたいなと思っています。

 

原作と脚本に対する姿勢


─マンガ原作の場合、原作者が考えたコマ割りがあるわけですが、尾崎さんは原作絵をどのように活用されますか?


尾崎 自分が演出家としてやりたい映像とか、アングルとか、流れもあるんですけど、原作ものの場合は、原作ファンを第一に考えて作っています。コミックの印象的なコマやアングルって、結構読んでいる人の頭に残っているので、「これ、原作のアレだよね」というところは意識しています。一方的に自分のやりたいものだけ全部盛り込んじゃうと別作品になって、観ている人もすんなり入らないと思うんです。


「少女終末旅行」の場合は、僕の好みのアングルと遠くないな、映像の流れで描いているなと思ったんです。コミックながらに寄り絵と引き絵をバランスよく使っていて、奥行きの空間を大事にしていて、自分と相性がいいなと感じました。キャラばっかりじゃなくて風景の引き絵があると、キャラがその空間でどういう生活をして、どういうものを見ているか、世界観というのを共有、理解しやすいんです。


─脚本と違う内容や構成にすることはありますか?


尾崎 演出するうえで足りないものは、自分で足したりしています。ただ、シナリオの本筋を変えるつもりはまったくありません。シナリオ会議にも出ていますし、ライターさんのやりたいこともあるので、コンテで大胆に足したりすることがあったとしても、ライターさんの意図にそぐうように調整しています。


「少女終末旅行」でもちょっとした挙動とか、コンテを描いている流れの中で、シナリオにないものが出てきたりしました。単に振り向くんじゃなくて振り向く間に何か考えさせるだとか、どっちのキャラクターを先にしゃべらせるかだとか、しゃべっている時にしゃべっているほうにカメラを置くか、わざと外して聞いているほうにカメラを置くかだとか。カットによってテンポが変わってくるので、映像で流れを作るのとシナリオで流れを作るのは、やっぱり違ってくるんですよね。

 

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