声優とスタッフの選定について
─キャスティングは、どういったところに注目しますか?
尾崎 スタジオ事情、メーカーの意向、宣伝的な事情などを除けば、純粋に作品に合っているかどうかですね。コンテを描いて音響監督さんに作品のイメージを伝えたら、あまり小うるさくは言いません。コンテには表情とかをていねいに描いて、自分のやってほしいイメージを提示するんですが、どう感じるかは役者さんにまかせるようにしています。自分はそこまで完璧だと思っていないので、役者さんから上がってきたものに対しても、受け入れる幅を持とうと思っています。
新人さんでもベテランさんでも、作品のイメージに合っていればいいと思っているので、最初から「絶対、この役者を」というのはあまりないです。オーディション時はリストを見ないで、誰かわからないまま、声だけ聴いて判断しているんですよ。それでも、ベテランのうまい方があたったりするので、「やっぱりこの方、力あるんだな」と思う瞬間があります。
─スタッフの選定基準は?
尾崎 自分の考えに近い人、あとは、スタジオに迷惑をかけない人、ですね。やっぱり仕事なのでスケジュールを破ったりとか、ほかのスタッフの足を引っ張る人とか、うまくても暴走する人とかは、いらないかな。こいつの1カットのせいでほかが全部止まっちゃうとか、ほかのスタッフのプライベートな時間がなくなっちゃうとか、そういう度を越した人はいらないですね。
─コンペは行いますか?
尾崎 僕がやってほしい人は、直接お願いしています。初めての人でも実力があって、自分に傾向が近そうだなと思えば、お声がけさせてもらっています。スタジオやメーカーから新人起用の意向があったりすれば、コンペを行うこともあります。
─「少女終末旅行」でキャラクターデザインをされた戸田麻衣さんは、「装神少女まとい」(2016)でご一緒されています。
尾崎 そうですね。「装神少女まとい」の時に戸田さんが何ができるのかを見ていましたし、「装神少女まとい」も「少女終末旅行」も、WHITE FOXの吉川綱樹さんがプロデュースされていたので、すぐに話がまとまりました。「少女終末旅行」のキャラクターは、ほかの人では作れなかったと思うし、戸田さんだからできた作品だと思います。
─「少女終末旅行」のコンテは、尾崎さんはもちろんのこと、「TERRAFORMARS」、「Re:ゼロから始める異世界生活」、「装神少女まとい」などでご一緒された、おざわかずひろさんも描かれていますね。
尾崎 おざわさんには4本描いていただきました。ほかにも川村賢一さんと迫井政行さんに、1本ずつお願いしています。おざわさんはベテランの方で、自分も何度か仕事をさせていただいて、信頼が置ける方ということでお願いしました。とにかくマメにていねいにやってくれる方で、内容もイメージショットとか工夫される部分があって、おざわさん自身も「こんなにやるとは思わなかった」とおっしゃっていましたね(笑)。テレビシリーズのコンテはできれば2~3人でローテを組んで、あんまり人数増やしたくないんですよ。あと、描けるところは極力自分で描きたいというのもあります。
監督になっても、肌感覚を失いたくない
─尾崎さんはコンテと演出をセットですることが多いようです。
尾崎 今はアニメ業界全体で、コンテと演出を違う人がやるケースが増えています。でも、僕はそういう仕事の仕方はできるだけ避けてきました。乱暴な言い方をすると、「やり逃げコンテ」は描きたくないんです。「正直、俺様はハリウッド映画級のコンテを描く自信はあるんだよ」、こんな言い方はどうでしょう(笑)。すごいのはいくらでも描けるけど、アニメーションって予算と期間とスタッフの力量が一致しないと実現できないので、夢見心地のコンテじゃなくて、実現できることも考えたうえでのコンテを描いてほしいんですよね。描いた人間が想像どおりに形にする責任を負うという意味でも、できるだけコンテと演出はセットで請けるようにしています。
─原画、3DCG、美術設定も兼任されることがありますね。
尾崎 いろんな要素がありまして、まず単純に絵が好きなので、自分がやりたいということ。あとは、作画と3Dが混ざったりとか、難しいカット内容でなかなか流れがよくならないものとかは、原画と3Dと撮影と自分でまとめてやることがあります。あと、設定が足りないけど1カットしかないところは、予算の都合もあるので、自分で拾って「1点ものだから、僕が描くよ」という形でやったりしますね。
もうひとつ、肌感覚を失いたくないというのもあります。やっぱり僕らは監督とはいえ、企画営業者じゃなくて職人なので、常に実作業をしている人間の苦労や楽しいことを肌で感じていないと、ズレていっちゃうんじゃないかなと思っています。特にアニメーションは手描きの文化が続いていて、やっぱり体を張らないといけない要素が残っているんですよね。
─音響監督にご興味は?
尾崎 やれればやりたいですね。ただ、現実はそんなに甘くないし、監督権限で周りに迷惑をかけるのは避けたいので、やるとすれば、音響スタッフさんのどなたかにサポートしてもらいながらの機会がいただければ、でしょうか。
─そのほか、お仕事で心がけていることはありますか?
尾崎 日常の中からイマジネーションをふくらませたいというのがありまして、休みの日をしっかり取って、そういう日常の時間に触れていたいんです。人が感動する物語を作るのであれば、感動する日常に接してなきゃそういう感動ってわからないと思うんですよね。
「少女終末旅行」のように、自然の美しさや情緒的なものを伝えたいのであれば、実際に廃墟の場所を見たりするのが大事なのかなと思っています。僕は偶然にも以前、1人旅で長崎県の軍艦島や池島炭鉱を旅しにいったことがありまして、その時の「誰もいないところは、こうなんだな」とか、「人がいたと思うと、喜びや悲しみなどの生命を感じるな」とか、そういった感動を映像に取り入れることができたと思います。
初演出作品が初監督作品
─キャリアについてうかがいます。尾崎さんの撮影監督時代は過去のインタビューで語っておられるので、監督・演出を目指すことになった経緯を教えていただけますか?
尾崎 北海道の田舎出身で、もともとこういうプロの仕事ができると思っていなかったので、たまたまアルバイトでサテライトのペイントの仕事を始めた時は、こうしたことをやれているだけで楽しかったですね。でも、上京してからは「自分の作品を作りたい!」という気持ちが強くなってきて、それを目標とするんだったら、演出とか監督になるしかないよね、と思うようになりました。
─上京後は撮影監督をしながら、演出家デビューを狙っていたわけですね。
尾崎 設定制作をやりながら誰かについたり、作画出身で画の技量からスタートするとかが一般的なんでしょうが、3Dや撮影の出身の僕の場合はレールがなかったので、今ある仕事で認めてもらったうえで、希望を聞いてもらおうと思っていました。ほぼ相手にされませんでしたね(苦笑)。「そもそもデジタル部門のお前が、何言い始めるんだ」という、冷たい現実でした。
サテライトの次にお世話になったマッドハウスでは、りんたろうさんや川尻さんの作品などで撮影や3Dの仕事をしていました。両者とも、イメージの提案があると真っ先にこちらに直接やってきて熱弁していたので、当時は王様の勅令が出たかのように、必死でいいものを作ろうと試行錯誤していました。
その後、仕事がひと息ついた時に、たまたま従来の作画アニメと3Dアニメを制作するという構想のもと、A-1 Picturesという会社ができると聞き、初期スタッフとしてお誘いを受けました。3Dという専門分野を生かせばそこから演出になれるんじゃないかなと思い、スタジオを移ることにしました。その流れで作ったのが「NECRO DRAGON」(2007~08)です。社内で「3DでPVを作れないか?」という話が持ち上がり、誰も手を上げないので、僕が以前から温めていた「NECRO DRAGON」を提案してみたところ、当時の社長が許可してくれたんです。
「NECRO DRAGON」が転機になって、尾崎は演出やりたいんだな、作品をやりたいんだなと認知してもらえるようになりましたね。遠回りになっちゃったんですけど、結果的には自分のやりたいところに向かっているので、よかったと思っています。
─アニメ演出はどのように勉強したのですか?
尾崎 実写映画が好きなので、実写のメイキングを観たり、映画関係の洋書、アートボードなど参考にしていました。たぶん、いいものもいっぱいあるんでしょうけど、アニメ論とかを読むことはあまりないですね。アニメだけからアニメだけをだと、映像の幅が狭くなっちゃう気がするので。しかし、どちらかというと中学から大学にかけて、テレビ、映画、ビデオに明け暮れた毎日が、今の演出に一番役に立っています。
─「NECRO DRAGON」は、フル3DCGアニメなんですね。
尾崎 セルアニメみたいな3Dアニメは、僕がやる前から「APPLESEED」(2004)とか試行錯誤されていましたが、当時は卵状態でした。「APPLESEED」もCG寄りで完全なトゥーンではなかったので、僕はテスト的な意味合いで、完全トゥーンの「NECRO DRAGON」を作ってみたんです。
ちょっと早すぎたんでしょうか、あんまり伝わらなかったですね(苦笑)。2007年のアメリカのAnime Expo、2008年のフランスのJAPAN EXPOでデモとして流した後は、お蔵入り。本編制作には至りませんでした。今はNetflixとかAmazonとかHuluとか配信系が出てきて、コンテンツの作り方が変わりつつあるので、今のタイミングならよかったのかもしれないですね。当時、「日本のアニメファンだけにスポットを当てるのではなく、北米、ヨーロッパ、アジアをマーケットとしたコンテンツ」と主張しましたが、あまり相手にされませでした。機会があれば、どこかで実現したいなと思っています。チャンスを待っています(笑)。
─初演出作品が、初監督作品なのですね。
尾崎 90秒ほどのものを2本作ったんですが、僕の企画ということもあって、音楽以外の役職、つまり監督、キャラクターデザイン、美術、3DCG、撮影、編集などを全部ひとりでやる羽目になっちゃいました(笑)。