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初めて“キャラクター”として認めてもらえたタチコマ
──オレンジのCGは、トゥーンシェイド(セル画のように輪郭線を入れる処理)が主体ですね。
井野元 原則的に、すべてトゥーンシェイドです。「ゾイド」以前はトゥーンではないCGがアニメで使われていましたが、「違和感がある」ということで、風当たりは強かったと思います。 ですが、「攻殻機動隊」でタチコマを作ったとき、初めて「よかった」と言ってもらえたんです。つまり、視聴者がタチコマに感情移入してくれた。作画だろうとCGだろうと関係なく、物語世界のひとりのキャラクターとして認めてもらえたわけですね。タチコマ以来、視聴者の視点に立って、視聴者が何を求めているのか意識しながら作る――そのスタンスは、ずっと変わっていません。ブレていないはずです。
──今年、「コードギアス 亡国のアキト」が完結しました。後半にいくに従って、どんどん情報量が増えていった感じがしましたが?
井野元 赤根和樹監督は、「前回と同じことはやりたくない」タイプの方なので、要素を足していった結果、情報量が増えたところはあるでしょうね。 アニメのロボットの見せ方に関しては、どんどん形式化してきていると思うんです。大張正巳さんのようなスーパーロボット的な見せ方ですとか、ミサイル発射だったら板野一郎さんの真似をすれば、確かに喜ばれはするんですけど、様式化されすぎて歌舞伎のような世界になってしまっている。そこで「自分だったら、どうするだろう?」と考えるわけです。自分は、タチコマを3年半も動かしてきた人間です。普通の人は、4足歩行のロボットに何年間も動かすなんてあり得ないわけで、それは自分だけの体験なんです。「アキト」に出てくるロボットは4足歩行という点では、タチコマの延長線上にあります。 「アキト」も最初のころは自分も動かしていましたが、後半は若いスタッフに任せています。僕の経験をうまく噛み砕いて、スタッフが自分たちのスキルで作り上げてくれたのが「アキト」最終章です。
──「アキト」のロボットの動きは、リアリティとも、また違うんですよね。
井野元 「マクロスF」(2008年)のとき、「マクロスなんだから、とにかく速く動かせばいいんだろう」というムードがあったのですが、目で追いきれないほど速くしてしまうと、視聴者は拒絶反応を示すようです。その経験があったので、口をすっぱくして「これ以上、速くし動かしてはいかん」とスタッフを抑えながら、一番気持ちいい動きはどのあたりなのか――そのバランスや落としどころを「アキト」では探っていきました。 もうひとつ、作画パートとなじませることを考えるだけでなく、金属だったら金属らしい質感を入れる。嫌味のない程度に、CGにしかできない表現も積極的に入れていく。何でもかんでも、トゥーンシェーダーでペタッとなじませず、CGならではの可能性を探ってもいいんじゃないか……と思って作ったのが「アキト」ですね。 それと、ロボットではなく「アキト」として見てほしい。ロボットが傷ついたら「アキト、大丈夫かな?」と心配になるような人間的な存在にしたい、と思って作りました。
視聴者がCGに抵抗感がなくなった理由
──仕事としては、やはりロボットが多いのですか?
井野元 それが、ここ2~3年はキャラクターが増えてきているんです。現在は、6割ぐらいがキャラクターでしょう。そうは言っても、体にメカの付いているキャラクター、メカっぽいキャラクターも多いですけどね。「基本は作画で、戦闘シーンだけCGキャラクターにしたい」というオーダーの延長線上で、キャラクターを作っている感じです。最近は、作画でアクションの描ける人を確保するのが難しいのかもしれません。
──「アクティヴレイド -機動強襲室第八係-」(2016年)は、オレンジさんがCGを担当されていますね。
井野元 「アクティヴレイド」は、CGのスーツを着たまま日常芝居をするようなシーンも多いので、カット数が増えて大変なんです(笑)。……ここ最近、つくづく思いますけど、最近はCGのカットが、どんどん増えていくんです。予算は昔と同じなのに、カット数だけが増えていく。それでは対応しきれないので、そろそろ何か手を打たないといけませんね。クライアント側に「CGなら楽だろう」「簡単に作れるだろう」という誤解があるとも思います。
──アニメにCGが導入されはじめた90年代末期に比べると、視聴者側には、もはやCGに抵抗感がなくなっているように思います。その理由は何でしょう?
井野元 古い世代よりも、新しい世代が増加しているからではないでしょうか。アニメーションと一緒に育って、「作画でなくちゃ絶対にイヤだ」という世代は45歳以上だと思うんですよ。その世代は、だんだんアニメを見なくなるし、ソフトも買わなくなっていく。新しい世代はゲームで育っていますから、子供のころにゲームで親しんだCGがアニメに入ってきても、それほど違和感をおぼえなくなってきている。そうした世代間ギャップは、確実にあるでしょうね。 ですから、見る側もCGに抵抗感がなくなってきているし、作り手側としても「CGにはもっと可能性があるんじゃないか?」という空気を感じています。それに答えられる体制を目下、準備しているところです。具体的には、3年前には会社にいなかったプロデューサーや制作、事務職を雇い入れています。事務すらいなかったんですよ、3年前は(笑)。また、デジタル作画やデジタル美術のできるスタッフも集めました。美術さんもモデリングを覚えて、自分で描いて自分で動かすことができるようになれば、仕事のクオリティがアップしますから。
──そうした新しいスタッフを増やして、丸ごと1本、CGで作品をつくろうという動きは?
井野元 テレビか劇場かはさておき、いま一生懸命、作っているところです。いつ見せられるかというと、少なくとも今年ではないですね(笑)。うまく形になればいいんですけど、作っていて、とても楽しいですよ。
(取材・文/廣田恵介)