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細田版「ハウル」への参加と挫折
中村 緊急事態になって、「誰か演出助手やれるヤツいないか?」と言われたので、パッと手をあげて「やります!」
──だけど、中村さんは東映の社員ではなかったんですよね?
中村 そうです。だけど、超法規的事態なので、超法規的に、僕が演出助手になれました。3~4本やると、演出助手が楽しくなってきて、同時にやっていた制作進行はやめたくなってきました。東映の場合、演出助手が予告編をつくるんです。そこで、いかにいい予告を作れるかが登竜門になっている。「デジモンアドベンチャー02 ディアボロモンの逆襲」(2000年)から体制が変わって、幸運にも、僕が絵コンテから予告を作ることが出来たんです。だけど東映では当時、演出を新しく採用する方針はありませんでした。それで、タツノコプロに転がり込んだわけです。
──それ以降、ずっとタツノコの社員なんですか?
中村 いえ、タツノコは二度、やめているんです。「The Soul Taker~魂狩~」(2001年)に参加したとき、ちょっともめてしまって、自分からやめました。「もう、アニメの仕事はやめよう」と家で布団をかぶっていたら、「中村く~ん、ジブリに来ない~?」と細田守監督から、電話があったんです。細田さんは「ディアボロモンの逆襲」の予告を見て、僕のことを覚えていてくれたんです。「ハンバーグでも食べに来ない~?」と誘ってくるので、食べ逃げしてやるぐらいの気持ちで行ったんですけど、つい「やります」と、軽い気持ちで引き受けてしまったんですよね。それが、「ハウルの動く城」でした。
──残念ながら、企画が頓挫してしまった細田版「ハウル」ですね。
中村 そうです。演出助手として参加して、後に監督捕になりました。スタジオ・ジブリ時代は、すさんでいた僕の気持ちが潤されるぐらい、ていねいなアニメづくりを体験させてもらえました。同時に、最大のくやしさを味わいました。アニメ業界に入ってから、二度泣いたことがあって、二度目が細田さんの「ハウル」が飛んだときなんです。そのとき、「将来、どんな役職についても監督をクビにはしない、監督の味方でいよう」と心に誓いました。
──では、「ハウル」のあと、タツノコに戻ったんですね?
中村 ええ、その日の夜に「中村くん、クビになったんだって?」と、さとうけいいち監督から電話がかかってきました。それで、タツノコに行ったら、もう僕の机が用意されていて、「鴉 -KARAS-」に参加することになりました。
──第一話の絵コンテ・演出ですね。
中村 ところが、第一話の予算超過の責任をとって、またタツノコをやめることになってしまったんです。「もう二度とやらない」とくさっていたんですけど、「鴉 -KARAS-」第6話で「どうしても演出してほしい」と頼まれて、復帰しました。いろいろありましたが、それから後は、タツノコをベースにしています。「モノノ怪」(2007年)の制作は東映、「つり球」(2012年)はA-1 Pictures制作ですが、すべてタツノコを通して請けた監督作です。タツノコの社員になったのは、実はこの2年ぐらい。社員になったほうが窓口がはっきりするし、お互いに都合いいだろう……と思ったんです。
創作和食のお店として、何を目指すべきか?
──社員になって、よかったことは?
中村 最大のメリットは、配偶者控除がある……本当は、なくなったほうがいい、古い制度だとは思っているんですけどね。フリーランスでいると、国民健康保険や年金、市民税など、配偶者の分まで払わなくてはならないんですよね。ですから、もしタツノコをやめても、すぐ会社を立ち上げると思います。
もうひとつ、今までわからなかった経営者や営業サイドの人たちと、少し深く付き合えるようになりました。社外の人間には話してくれないことまで、聞かせてもらえるんです。それは、自分の人生にプラスになっています。
──全般的に、アニメの企画はマーケティングの概念が薄い感じがしているのですが、いかがでしょう?
中村 確かに、市場を意識することは必要です。だけど、お客さんが見たことのないものを提示するのが、僕らの仕事でもあります。いま、お客さんは何を見たいのかわからなくなっていて、見せられて初めて「これが見たかったんだ」と気づく――そういう時代に突入していると思います。アニメ全体が供給過剰で、同じ期に似たような企画が散見される。それと、深夜アニメの存在意義がなくなってきていると思います。深夜アニメを作るメリットがなくなる瞬間が、いずれ来るだろうと思います。簡単に言うと、製作委員会システムでアニメをつくっても、もうからなくなる。野球にたとえると、三割打者が一割しか打てなくなってしまう。つまり、野球にならなくなる。
ですから、ちゃんと稼げるスキーム作りが重要です。それには誰がお金を持っていて、誰をスポンサーにすべきなのか、情報をつかまないといけない。同時に、エンドユーザーにとって、特別な1本になり得るアニメをつくる。その2つの視点が、必要なんだと思います。この1年ぐらいの間は、誰がそのスキームを見つけるかの競争になるでしょうね。それと、ユーザーさんたちの声を無視してもいけないと思います。
水島精二さんに「俺はファミレスだけど、お前は創作和食の店みたいだ」と言われたことがあります。それなら、常連さんを大事にして、常連さんがお客さんを連れてきてくれるお店にしたい。それが、僕にとっては、ちょうどいいバランスなのかも知れません。
(取材・文/廣田恵介)