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原画から総作監さらに演出家へ転身
――吉田さんはマッドハウス制作の「HUNTER×HUNTER」(2011年)で長く作監を担当してらっしゃいましたが、それまでのお仕事は?
吉田 いろいろな作品に関わりました。原画をやった後に作監になった作品が「はじめの一歩」(2000年)です。アニマックス大賞の「スーパークマさん」(2002年)では、メインキャラクターデザインをやりました。その後、「F-ZERO ファルコン伝説」(2003年)、「牙 -KIBA-」(2006年)、「蒼天航路」(2009年)と総作監をやらせてもらいました。さらに何本か各話作監をやった後に「HUNTER×HUNTER」です。
――総作監をやったあとで、各話作監を担当することもあるんですね。
吉田 ある程度のキャリアを積んだ人が後輩の仕事を見て、密にディスカッションしながら30分の作品をいっしょに作り、でき上がったらみんなで白箱を見て感想を言い合う……、そういうファミリー感が、スタジオ・ライブ社内にあったんです。
――とは言え、なかなか動画から総作監まで、順調に上れないと思うのですが?
吉田 芦田さんに「お前、やってみろ」と指をさされると、どんどん原画や作監を担当させてもらえるんです。そういう意味では、スタジオ・ライブからキャリアをスタートできたのはラッキーでした。
――作画監督は人の絵を修正するという、また特殊な職能が求められますね。
吉田 確かに人の原画を直すのも仕事ですが、1本のフィルムの意味を自分好みに流していくのが作監の快感なんです。たとえば、片手を持ち上げる芝居であれば「上げ幅」はこれぐらいにしようとか、目線を移すときにためらいがちにするとか、逆に早くするとか。あるいは、アクション・シーンもので空手のような型にはまっていたものを、スマートに見せるようコントロールするのも作監の役目なんです。それまでの動きの流れの中で、きれいにキックが決まっていると「あっ、よかった」と満足感を得られるのが作監です。アニメーションに関わるうえでは最も密度が濃く、満足度の高いポジションかもしれません。
――演出に近い立場のように感じるのですが、演出と作監はどう違うのでしょう?
吉田 演出さんは、作品の大枠をきちんと提示する仕事です。アニメーターが自由に演技できる筋道をつける役ですね。イエスとノーをきちんと提示して全体の指揮をとり、1本のお話のベースをつくるのが演出。それに対して、作監はどうニュアンスを拾って最終的な絵にしていくか、フィニッシュの部分をまとめあげる仕事です。
――吉田さんは「HUNTER×HUNTER」の途中から絵コンテと演出を担当していますが、自分から希望したのですか?
吉田 そうですね、うっすらと希望を伝えておいて、それを汲んでもらった形です。ただ、長く作画をやってきたので、作画から演出に移るとは、なかなか言いづらい。というのは、作画は作画で仲間意識があるので「作画から抜ける」と見えてしまうんです。みんな、職能に対するプライドがありますからね。
――最初は、絵コンテから入ったのですか?
吉田 いま、「うしおととら」でお世話になっている西村聡監督の絵コンテの処理を手伝うところから始めて、シリーズの後半ではひとりでコンテを切るようになりました。
――コンテを切ると、その話数の作監はできないわけですよね。それは気になりませんでしたか?
吉田 もし能力が高ければ、きちんと作画を見たうえで演出をする二足のわらじを履くこともできるでしょう。しかし、僕の能力では作画を見ながら演出の仕事をするには時間がかかりすぎる。そう判断して、完全に演出のほうへ舵を切ったわけです。
――すると、作画は完全にやめてしまう覚悟で、演出になったんですね?
吉田 はい。やるからには演出1本でいこうと思っていました。「長年の作画のノウハウがあるのだから、いざとなったら、その能力を武器として使いなさい」と、周囲からアドバイスをいただきました。そうは言っても、演出というのも広大な知識の必要な技能ですから、いったん作画のことを忘れないと、身につかないだろうと思っています。
――演出になったとき、師匠はいたのですか?
吉田 いま現在、鍛えられている最中ですね(笑)。「うしおととら」は準備期間もありますので、「この脚本に対しては、こういう演出でなければ適切な表現にならない」と明確な指針を教えてもらっているところです。
――吉田さんは各話演出として「うしおととら」に参加しているんですよね?
吉田 そうです。テレビアニメの場合、平均して6班ぐらいが平行して制作していますが、そのうちの1斑を受け持っています。
――すると、第1話の演出を担当したら、次は第6話ですよね。1クールものだと、なかなかがっちり作品に関われないと聞いています。
吉田 僕の場合、1年以上放送の続く作品にばかり関わってきたので、逆に1クールものや2クールものの感覚がわからないんですよ。幸運にも、音響さんや声優さんとも話をして、「こういう作品を作りました」という実感をもって終われることが多かったんです。
――その中で、人脈もできていくわけですね。
吉田 そうですね。長いこと付き合っていれば、個人の資質とは関係なく連帯感は高まりますので。