ホビージャパン社が本格的スケールモデルを展開しはじめた理由、誰もが憧れる「74式戦車」プラモに搭載された超絶ギミック開発の舞台裏【ホビー業界インサイド第86回】
プラモデルはほかの工業製品と異なり、古い金型も再生産される。だから、後悔したくない
── この74式戦車のキットは、砲塔のゴツゴツした鋳造表現もリアルですね。
高橋 ところが、この質感を出すのが大変でした。昔のプラモデルではできたことが、最近の3D-CAD設計では難しい場合もあるんです。3D-CADは座標で設計するため、鋳造のようなランダムな表現は膨大なデータ量になってしまうのです。各部の溶接の跡も同様です。どうやったかというと、鋳造や溶接のテクスチャをCGで再現して、それをCADで使えるデータに戻しているんです。今まで試したことのなかった方法なので、結果がどうなるのかわからず、金型業者さんに何パターンか実際に金型を彫ってもらいました。それなりにコストがかかるのに、よくそこまでテストしてくれたと思います。本当は、もっと賢いやり方があるのかもしれません。今後の課題ですね。それと、砲身の付け根のキャンバスカバーもひと工夫しています。
── 砲身が上下に動く部分にある布ですよね。やわらかい布も、表現が難しそうですね。
高橋 はい、キャンバスカバーは何種類かパーツを用意しています。どういうことかと言うと、可動ギミックによって車高を変えるなら、砲身が仰角や俯角を向いていないとおかしいからです。射撃姿勢が変わったのに、砲身が上を向いたままだったら、何のために姿勢を変えたのかわからない。矛盾してしまいますよね。ですから、少しずつ角度の違うキャンバスカバーが付いています。こうしたパーツを軟質樹脂にすると接着が難しく、経年劣化でボロボロになってしまいます。考えた末、自然に見えるようにプラスチックで成型することにしました。砲身の角度に合わせて、形状の異なるパーツを選んでもらう方式です。
── なるほど。ところで、かなり大きな零戦の模型も発売するようですが?
高橋 この零戦は「1/32 零式艦上戦闘機五二型」、プラモデルではなくダイキャストの完成品です。ダイキャストは素材自体が高価なので使う個所を少なくするのが通例ですが、この製品は使いすぎです(笑)。ダイキャスト製の零戦は海外メーカーからも発売されていますが、「これははたして零戦なのかな?」と首をひねるものが多いので、徹底的に調べました。零戦の製品化は「やらないほうがいいんじゃないか」と思うぐらい大変でしたが、おかげで詳しくなりました。まだ発売は先ですが、この零戦はオススメです。
── 資料集めも大変なんですね。先ほどのりゅう弾砲「FH-70」や「74式戦車」も取材したと思いますが……。
高橋 現物が日本にある以上、取材しないわけにはいきません。私自身が自衛隊の出身なのでわかるのですが、取材を申し込んでも何か月も待たされます。緊急事態に備える組織ですし、1日単位で訓練の日取りが決まっているわけです。取材日が決定していても突然の事故や災害、天候にもスケジュールが左右されます。その日が雨なら、またフリダシに戻ります。ようやく取材できたとしても数時間で各部の計測、色、マーキング類、箱絵やセールスに使える写真を撮らねばなりませんから、ある程度の知識とノウハウのある人間が2人以上必要です。私は現役やOBの自衛官とコンタクトがとれますので、それで短時間の取材で間に合わなかった分をカバーしています。
── プラモデルの開発が、そこまで大変だとは思いませんでした。
高橋 私は妥協しないつもりでも、各段階で業者さんにお願いしないと製品はできません。ですから、私のほうもある程度は金型・成型・印刷などの知識がないと、交渉ができないわけです。知識がなければ、業者さんへの発注や折衝、修正指示ができませんよね。無論、業者さんにも事情があるでしょうから、「本当はこうなるはずだったんだけどな」「もうちょっと、こうならないかな」と、希望がかなわずに悔やむ部分が出てくることもあります。業者さんを完全にはコントロールできませんから、せめて僕だけでも全力でやるんです。プラモデルは家電などほかの工業製品と異なり、50年前の金型でも再生産したりしますよね。私の死んだ後も、長く世の中に残る製品ですから、後悔したくないんです。他社さんのプラモデルを見ていても「これは身を削ってつくっているな……」と、尊敬してしまう仕事ぶりは、箱を開けただけで伝わって来るものもあります。その担当者がどんな気持ちで開発したのか、何となく分かるんです。そうした仕事が評価されて、新しい模型ファンが増えていくと思うんです。
── 今後、プラモデル化したいものは?
高橋 形だけでなく機構が面白いものなど、プラモデルにしたいものは山ほどあります。だけど、私にとって面白いものって、どれも売れなさそうなんです(笑)。しかし、どこのメーカーも同じようなものばかり出していると、選択肢がなくなってお客さんが飽きて離れていってしまいます。ですから、たまには変化球を投げる必要があるでしょうね。
(取材・文/廣田恵介)
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