ホビージャパン社が本格的スケールモデルを展開しはじめた理由、誰もが憧れる「74式戦車」プラモに搭載された超絶ギミック開発の舞台裏【ホビー業界インサイド第86回】

2022年11月27日 09:000

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「74式戦車」の“姿勢変更機能”を実車そっくりに再現! 複雑すぎる可変ギミックへの挑戦


── 可変というと、牽引されて走行している状態と射撃時に展開した状態が、完成後でも再現できるという意味ですよね?

高橋 ええ。現在では、各部が可動するスケールモデルはほとんど見かけませんが、かつてのレベル社などのキットは、可動するものもありました。可動部分をなくして、移動状態か射撃状態かを選んで固定するようにすれば、開発する私も楽です。しかし、それでは面白くないですよね。スケールモデルに、凝ったギミックを仕込んではいけないというルールはありません。それに、せっかく価格の高いプラモデルを買って、「実物は可変するのが特徴なのに、模型が可変しないとつまらないのではないか?」と、個人的には思っています。
これはたとえ話ですが、時速300キロ出るオートバイを買ったとします。公道ではそんな速度は出せませんが、「300キロ出せる」事実こそが、そのオートバイの価値のひとつですよね。たとえパーツを接着して固定したとしても、「実際には可変する」という仕様が、このプラモデルの商品価値の一部だと思うのです。

── シリーズの第2弾が、FH-70と合わせるためのフィギュアセットですね。これは、実際の自衛隊員を3Dスキャンしたのでしょうか?

高橋 いいえ、技術的には3Dスキャンも可能なのですが、榴弾砲に合わせるフィギュアには向いていません。砲のまわりで動く躍動感が求められますし、砲と服が接触する部分もありますので、ポーズだけ写真に撮って原型師(CG原型)の方に造形をお願いしました。

── そして、第3弾が74式戦車ですね。これなら、ミリタリーにうとい私でも見おぼえがあります。

高橋 74式戦車は陸上自衛隊の装備のなかで、今でも人気ナンバーワンだと思います。自衛隊マニアではない一般の方から見ても、形のカッコいい戦車はわかりやすいのでしょう。今、戦車のフルキットを開発すると、そこそこの一軒家を購入できるくらいのコストがかかりますが、このキットはぜひとも日本のプラモデルメーカーが開発すべきだと思いました。というのも、盛んに新キットを開発している中国や東欧のメーカーでは、どうしても情報精度が落ちるからです。74式戦車だけは、海外メーカーより先にキット化したかったんです。


── 74式戦車といえば、サスペンションの可変機能によって、車高や姿勢を調整できるんですよね?

高橋 はい、バラバラになった履帯を連結していく組み立て方式にしたのは、車高を調整するギミックのためです。もし車高が変わるギミックを再現しないのであれば、履帯はシンブルな部分連結にして、すべてを別パーツに分けることはなかったと思います。そのほうが、開発費も安くてすみます。しかし、実物の74式戦車の一番の売りは油気圧による姿勢変更ですから、新金型でプラモデル化するにあたり、その機構を再現せず、選択式にすることはあり得ません。このキットは、すべての転輪が上下に動くだけではないんです。実車同様に、誘導輪が前後にスライド可動します。誘導輪が転輪の変化と連携して前後に動かないと、履帯がゆるくなるか、逆に強く張りすぎてしまうからです。


── 転輪と誘導輪がシンクロして動くギミックなんですね。そんな複雑な仕組み、プラモデルで再現するのは大変だったと思いますが……。

高橋 このようなギミックの模型が世の中にあれば、それを真似すればすみますよね? 私たちも多分、参考にしたと思います。しかし、この世にないギミックですから、4回は設計をやり直しました。モックアップ(試作品)を作ってテストしてみたのですが、材質は3Dプリンタ出力品のレジンですから、製品に使うPS樹脂とは摩擦も精度も異なります。それでも、最初に試作した方式ではうまく可動しないことがわかったので、あらためて設計をし直しました。その段階からさらに大きく機構を考え直しましたが、それでも再現度は微妙でした。それ以上はどうにもならないので金型へ進み、さらに2回ほど修正を加えました。そこまで設計に難航した複雑な連動ギミックですが、ユーザーさんがパーツを組み立てるのは簡単なんです。また、標準姿勢で固定したい方のために簡易タイプのパーツも入っています。開発にはいつも大変な思いをしていますが、「この程度でいいや」と妥協すると、後々まで心に引っかかってしまうんです。大変なのは一時のことなので、全力で取り組むようにしています。

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