【新作ゲーム】S.M.A.、AIの学習機能など当時の最新技術が盛り込まれた意欲作──17年ぶりの移植となる「ザ・ランブルフィッシュ2」インタビュー

2022年10月08日 20:000

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アーケードで人気を博した格闘ゲーム「ザ・ランブルフィッシュ2」が、PS5、PS 4、Nintendo Switch、Xbox Series X/S、Xbox One、PC(Steam)の各プラットフォーム用として、2022年12月8日に発売される。尖ったシステムで知られる、格闘ゲームファン好みの作品だ。

本作は、「痛みが伝わるビジュアル表現」「攻防2種のゲージを使った駆け引き」が最大の特徴。

キャラクターに攻撃を当てると、服が破れたり、サングラスが外れたりといった「パーツクラッシュ」(いわゆる部位破壊)が発生。キャラクターたちはボロボロになりながら戦うことになる。格闘技で戦う際の痛みが伝わってくるのだ。

もうひとつの、ディープな特徴が、攻防2つのゲージの存在である。攻撃的な行動で溜まる「オフェンスゲージ」と時間経過で溜まる「ディフェンスゲージ」が存在。各ゲージは、それぞれ攻撃的な「オフェンシブアーツ」と、防御的な「ディフェンシブアーツ」に使う。

チャンスに「オフェンシブアーツ」を出して大ダメージを与え、攻め込まれても「ディフェンシブアーツ」で切り返せるという独特の駆け引きがあり、ほかの格闘ゲームとはひと味違った体験ができるのだ。

 

そんな「ザ・ランブルフィッシュ2」が、コンシューマハードに初めて移植される。2005年の発売から17年ぶりの移植をきっかけに、同作のプロデューサーだった伊東正剛氏と、メインプログラマーだった田中義幸氏に、移植の理由やオリジナル版の開発秘話を聞いた。

  

「ザ・ランブルフィッシュ2」のメインプログラマーを務めた田中義幸氏(写真左)、プロデューサーの伊東正剛氏(写真右)

 

――よろしくお願いします。「ザ・ランブルフィッシュ」シリーズについて、いろいろ聞かせていただければと思います。

 

伊東 「ザ・ランブルフィッシュ2」の開発サイドのプロデューサーを担当していました伊東です。

 

田中 「ザ・ランブルフィッシュ2」ではメインプログラマーとしてバトルシステムを作っていた、田中です。

 

――アーケード版の「ザ・ランブルフィッシュ2」が2005年の発売で、コンシューマハードへは17年ぶりの移植となります。この移植がスタートしたきっかけについて教えてください。

 

伊東 かなり時間が経ってからの移植なので、我々としても驚いています。以前から3gooさんには移植の打診をいただいていたんですが、我々としてもなかなか動きが取れず、移植を担当してくださる会社さんも見つからなかったんです。今回は3gooさんがいい会社さんを探してくださったことが、直接のきっかけになります。

 

 

――これまでにも移植の話はあったけれど、いろいろな事情で実現していなかったと。

 

伊東 社内ではずっと移植や続編「ザ・ランブルフィッシュ3」をやりたいという話は出ていたんですけれど、なかなか条件やタイミングが合いませんでしたね。

 

――2004年にオリジナル版がサミーのアーケード向けシステム「ATOMISWAVE」用に開発され、2012年にはアーケード用のダウンロードサービス「NESiCAxLive」向けに調整を施した「ザ・ランブルフィッシュ2 for NESiCAxLive」が配信されています。今回移植されるのはどちらなのでしょう?

 

田中 「~for NESiCAxLive」ですね。

 

――もともと「ザ・ランブルフィッシュ」シリーズが立ち上がったのはどういう事情があったのでしょうか? 先ほど、続編を作りたいというお話がありましたが、やはりオリジナルIPの格闘ゲームということで、思い入れの深いシリーズなのでしょうか?

 

伊東 思い入れは深いですね。もともと私は大手メーカーで格闘ゲームを作っていた人間です。今のディンプスへ移った後、サミーさんが「ATOMISWAVE」という新システムを出すという話を聞き、新しい格闘ゲームを立ち上げるチャンスだということで作ったのが「ザ・ランブルフィッシュ」シリーズだったんですね。
新しい格闘ゲームを立ち上げるといっても、当時の格闘ゲーム界は、今でいう“覇権”タイトルがシッカリとユーザーさんをつかんでいて、普通に作ったのでは人気を獲得するのは難しい状態でした。新しい見せ方が必要だと考えていたところに、「S.M.A.(Smooth Model Animation)」という仕組みはどうか?という提案が田中からあったんです。S.M.A.は、人体なら腕や胴、頭といったパーツに分割し、これを組み合わせて動かすという手法です。パーツごとに絵を描き換えられるため、服の一部が破れるといったパーツ破壊など、面白い表現ができるんじゃないかということで採用されました。
「とにかく新しい格闘ゲームを作りたい」という思いが乗っかったのが「ザ・ランブルフィッシュ」なんですよ。

 

 

――確かに、ユニークな表現が実現されていたと思います。胴に攻撃を当てると服が破れたり、頭に跳び蹴りを食らわせると目つきが豹変して本性を現す者がいたり……と、プレイの面白さとキャラクター性の表現、その両方に寄与しているシステムだと感じられました。当時は、単に勝つだけでなく、できるだけ多くのパーツを破壊して勝つといった遊び方もしていましたし。

 

田中 当時のメインプランナーから上がってきたコンセプトは「傷ついてもなお戦い続ける格闘家たち」というものでした。これをATOMISWAVEで表現するにあたり、S.M.A.を使おうということになったんです。当時は3Dグラフィックの表現力が向上していて、1年経つと別物になるというくらいの時代でした。そうした中だったので、ATOMISWAVEの3Dは当時最先端のシステムより優位なわけではありませんでした。そのため、3D格闘ゲームを作るよりは、S.M.A.を使った2D格闘ゲームのほうがいいんじゃないか……という判断もあったんですね。

 

――「ザ・ランブルフィッシュ」シリーズを見ると、パーツ破壊と格闘ゲームの相性のよさを再認識します。なぜパーツ破壊をフィーチャーした格闘ゲームがあまりないのでしょう?

 

伊東 これまでの2Dゲーム基板でパーツ破壊をやるとしたら、破損後用に全身の1枚絵を用意しないといけなかったので、容量的にもなかなかやれる表現ではなかったんです。でも、2Dと3Dを融合したS.M.A.なら、破損したパーツのテクスチャ(※)を切り替えるだけでいい。

 

※注:3Dのパーツに被せる「皮」や包装紙のようなもの。たとえば、円柱があったとして、木の模様を描いた皮(テクスチャ)を被せると、その円柱は木に見える。同じ円柱でも、鉄のテクスチャなら、鉄棒に見える。

この場合は、手や足といったパーツに対し、通常は「服が破れていない状態」の皮を被せておき、パーツ破壊が起これば「服が破れた状態」の皮に切り替えればいい。従来方式だと、服が破れた場合、新たに全身の絵を描き直したものを用意しなければならない。しかし、S.M.A.なら服の破れた部位だけ皮(テクスチャ)を切り替えればいいため、効率がいい。「2Dと3Dを融合したS.M.A.」とは、「ザ・ランブルフィッシュ」の画面は見た目2Dの絵のようだが、実際には3Dの板状ポリゴンのパーツを組み合わせて2Dっぽい絵を作っているということ。

 

田中 デザイナーさんは、破損前と破損後を全て別々に描かないといけないので、かなり大変な思いをしていたようです。

 

 

――なるほど。パーツ破壊をフィーチャーした作品があまりないのはそうした事情によるものだったんですね。

 

伊東 挑戦したおかげで新しい表現ができましたし、発売後も移植版を希望されるお声を多くいただきましたので、今はやってよかったと思います。

 

――S.M.A.がキャラクターデザインに影響を及ぼしたところはありますか? たとえば「部位破壊の表現を生かしたデザインを作ろう」ということになったとか。

 

伊東 そういうわけではなかったですね。たとえば「ヒカリ」と「カヤ」は袴をはいているんですが「袴でパーツ破壊ってどうしようか……」と悩んだ記憶がありますし。

 

 

田中 シリーズを通してキャラクターの原案はいろいろな人が出しているんですが、2D格闘ゲーム的な作り方をする人、パーツ破壊を重視する人とさまざまでしたね。デザインを担当しているYUKINARI・Zが考えたのは後者で、“金魚鉢を被った着物の女性”でした。頭がパーツ破壊すると金魚鉢が壊れるんです(笑)。ヘビースモーカーという設定で、金魚鉢にたくさんのキセルが刺さっているところもインパクトが強かったんですが、登場時には顔が見えないと……ということで、残念ながら没になりました。

 

――全然アリなデザインに感じられますね。続編での復活に期待しています。「ザ・ランブルフィッシュ」を出した後の反応はどういったものがありましたか?

 

写真左から、Nintendo Switch版のコレクターズエディション、通常版。PlayStation 4版の通常版、コレクターズエディション。コレクターズエディションには前作「ザ・ランブルフィッシュ」の移植版も付属。右端のガーネットフィギュアは、パブリッシャーである3gooの代表取締役であるディ・コスタンゾ ニコラ氏の私物で、「ザ・ランブルフィッシュ」が発売された当時のもの。「ザ・ランブルフィッシュ2」の移植は氏のラブコールで実現したという

 

伊東 当時人気のあった先行の格闘ゲームには追いつけなかったという印象はありました。新しい作品だけに、キャラクターもどうしても少なくなってしまっていて、ほかのシリーズものの格闘ゲームには20~30体のキャラクターがいる中、「ザ・ランブルフィッシュ」は10体でしたから。また、対戦したい方はなかなか相手が見つからず、逆にCOM戦で練習したい方は乱入されたりと、新作あるあるな状況もあったように思います。
ただ、プレイヤーさんからの反応は、時間を経て尻上がりによくなっていきました。2つのゲージを始めとし、バトル中に取りうる選択肢が多く、対戦しがいがあり、長く遊んでいただけるものにはなっていましたから、じょじょに浸透していったのだと思います。今この3gooさんの移植版を遊んでみても、改めて「面白いな」と思いますし(笑)。

 

田中 今回の移植版はネット対戦ができるので、私も早くプレイしてみたいですね(笑)。

 

――「ザ・ランブルフィッシュ2」は翌2005年に発売されていますが、制作は早い時期に決まったのでしょうか?

 

伊東 かなり早い時期に決まりましたね。キャラクターも増やしていきたかったですし。ただ、S.M.A.は2Dのよさを表現しつつ、3Dの知識も求められるシステムだったので、制作できる人があまりいないんですよ。本当はもっと多くのキャラクターを作りたかったんですけれど。

 

田中 「ザ・ランブルフィッシュ」の反省を生かして、ギャラリーの方の目を惹くようにもしています。それというのも、ゲームに慣れてくると「オフェンシブアーツ」を使わない、地味めなバトルになりがちだったからです。そこで「オフェンスゲージ」「ディフェンスゲージ」のストック数を増やし、使い道などを調整することで、「オフェンシブアーツ」も使う派手なバトルとしています。また、バトルの中で何もできなくなる“詰み”の状態に陥らないよう、移動起き上がりの「グラウンドリカバリー」、空中で攻撃を避ける「ハイエアーダッジ」など行動の選択肢を増やしています。

 

 

――確かに、「オフェンシブアーツ」をコンボに組み込むと威力が激減するという点は指摘されていましたね。ここを改修して、3つに増えたストックで派手な「オフェンシブアーツ」をどんどん出せ、火力としての実用性もあるものとした。

 

田中 実はS.M.A.の描画システム自体も「~2」では開発ツールから作り直しているんです。

 

――素人目から見ると、続編は初代作に作り足すような印象を受けますが、そうではなくてかなりの手間がかかっているわけですね。

 

田中 実は「ザ・ランブルフィッシュ2」にはAIの学習機能が実装されているんです。これは開発時と実際のプレイ、その両方で役立っています。開発時はAI同士に試合をさせ、強化学習(※)によって効率的な動きを覚えてもらい、ここにプランナーが最終調整を加えたものが、それぞれのキャラクターの行動パターンとなっています。

 

(※)注:強化学習……AIが行動すると、その効率に応じた報酬が与えられる仕組み。AIは、より高い報酬を得られる(=効率的な)行動を取るようになっていく。

 

――現在のゲーム開発では、AIによる自動テストプレイが注目を集めていますが、2000年代初頭にそうした取り組みをされていたわけですね。

 

田中 具体的には、相手に与えたダメージが大きい行動、AIが受けたダメージが少ない行動が評価されています。今のAIと比べると原始的ではあるんですが、結構な効率化ができました。

 

 

――より多くのダメージを与え、自分のリスクが少ない行動が高く評価され、次の試合でもまた使われていく。ダメージが評価基準になっていると、キャラクターの動きが最適化された、画一的なものになりそうな気もしてきます。「その人らしさ」というか、キャラクター特有の戦法や動きのクセといった要素はどうやって表現しているのでしょう?

 

田中 「教師あり学習」とでもいうべき輔佐をしていて、そのキャラクターらしいコンボをあらかじめAIに教えた状態から試合をさせ、強化学習を行っています。これはAIをゲームに使う難しさではあるんですが、AIが強い=ゲームが面白いというわけではないため、最終的にプランナーが調整を行っています。いわば、職人とAIのハイブリッドですね。

 

――なるほど。キャラクターらしさを持った状態から、AI同士の戦いで磨かれていくわけですね。

 

田中 実際のプレイでもAIが使われています。プレイヤーさんがよく狙うコンボを学習し、切り返しを狙うんですよ。

 

 

――確かに、同じコンボを繰り返していくとじょじょに対応されていったという記憶があります。AIが学習するとなると、ゲームをプレイし続けると無敵になってしまうのでは?

 

田中 学習結果は1プレイで破棄されるので、AIが無限に強くなるということはありません。

対戦相手は1試合ごとで別人に変わるのに、学習結果は共有している……ということにはなってしまうんですが、「プレイヤーの試合が中継されているのを見て研究したんだろう」という裏設定が存在します。

 

――ある意味でリアルですね。先ほど「ザ・ランブルフィッシュ3」をやりたいというお話がありました。今回の移植版の評判次第では、続編が期待できたりするのでしょうか?

 

伊東 やりたいという思いはありますし、チャンスがあれば「ぜひ!」といったところですね。ナンバリングを続けて「ザ・ランブルフィッシュ3」とするのか。それとも、今だからこそできる表現方法を追及したものとするのかはわかりませんが。

 

 

――期待しています。では最後に、今回の移植版で初めて「ザ・ランブルフィッシュ2」をプレイされる方にメッセージと、オススメのキャラクターをお願いできますか?

 

田中 ゲージが2つあったりして、一見難しそうには見えるんです。でも、実は攻撃と防御にそれぞれゲージがあるということでわかりやすいシステムにはなっています。3gooさんから初心者向け動画などを公開されるので、そちらもチェックしてみてください。コレクターズエディションには「ザ・ランブルフィッシュ」の移植版と、YUKINARI・Z描き下ろしのパッケージがありますので、ぜひ手に取ってみていただければと思います。

初めて遊ぶ方にオススメなのは、「アラン」でしょうか。使いやすい必殺技が多く、横への判定も強いキャラクターです。「カヤ」もゲージの溜まりが早いので、「オフェンスゲージ」の使い方を覚えるのに適していますね。

 

 

伊東 もとのアーケード版を知らない方もおられるでしょうが、当時盛り上がっていた対戦の雰囲気を感じてプレイしていただければ。ロールバックコードを使ったネットワーク対戦モードや、条件をさまざまに設定できるトレーニングモードもありますから、新たに触れる方も遊びやすいと思いますね。オススメは「ガーネット」です。足技しか使わないキュートなキャラクターとなっています。

 

――ありがとうございました。

 

 

(取材・文・撮影/箭本進一)

 

【製品情報】

■ザ・ランブルフィッシュ2(パッケージ版)

対応機種:PlayStation 4(無料アップグレード対応)、Nintendo Switch

価格:3,480円(税別)

 


■ザ・ランブルフィッシュ2 コレクターズエディション(パッケージ版)

対応機種:PlayStation 4(無料アップグレード対応)、Nintendo Switch

価格:6,980円(税別)

 

 

■ザ・ランブルフィッシュ2(ダウンロード版)

対応機種:PlayStation 5、PlayStation 4、Nintendo Switch、Xbox Series X/S、Xbox One、PC(Steam)

価格:3,200円(税別)

  

発売日:2022年12月8日

ジャンル:対戦格闘ゲーム

対応言語:日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、中国語(簡体字/繁体字)、韓国語

開発元:株式会社3goo

発売元:株式会社3goo

公式ホームページ:http://www.therumblefish2.com/

 

©Dimps 2004-2005 / ©3goo K.K.

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