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今のアニメスタッフは、とても優秀。だからこそ、僕はやっぱり「鬼滅を潰す!」
富野 どうしてアニメの制作スタッフをナメていたかというと、かつて、僕自身が原画を描かねばならないようなずさんな現場を経験しているからです。今のアニメでどうしてトレス線がこんなに力強くはっきり見えるかというと、それはデジタル機器だとかプリンターだとかの性能のせいだけではないと思うんです。鉛筆の線のタッチひとつで表情を出せるし、雰囲気のある絵を描ける。そのレベルのアニメーターが、何十人も育ってきているんです。みんなが、きちんと自己表現しています。そういう意味では、作品ってやっぱり、時代がつくるものなんです。
── 今回の『IV』「激闘に叫ぶ愛」はキャラクターたちの喜怒哀楽が激しくて泣くシーンも多いんですけど、感情を引きずらずにサラッと見られます。 富野 そう、カットごとにあまりがんばられても困るんです。アニメの絵だからってフィックスでがっちり描くのではなく、今のアニメーターたちは“流して”描く。つまり、動画になったときに自分の描いている絵がどう見えるのか、とてもよく理解しているんです。
やっぱり絵を描くのはアニメーターの仕事であって、演出サイドがああしろこうしろなんて、口が曲がっても言えません。新人アニメーターの中には、『G-レコ』だから手伝いたいと言ってくれる人もいて、彼らの今後が楽しみでもあります。
30年ぐらい昔と明らかに違っているのは、たとえば美術大学を卒業した人が、アニメの背景を描くために平気で業界に入っています。彼らはほかの仕事をよく見ていて、「いつまでもああは描かないぞ」「俺ならこう描く」と、態度がはっきりしています。特に『G-レコ』の映画版の製作に入ってからここ3年ぐらい、その傾向は顕著ですね。セル画調のキャラクターの絵を上に重ねる技術論が昔より洗練されていて、フラットなんだけどリアルに描ける。だから、背景画だけで、20~30カット持ってしまうんです。
── 今回のエンドクレジットは、ほとんど背景画だけで構成されているんですよね。 富野 エンドクレジットで背景を見せたのは決してお飾りではなく、「本編のバックボーンには、こういう世界観が広がっているんですよ」と観客に再認識させるためです。もちろん、美術スタッフの仕事を見てもらいたいからでもあります。美術監督だけでなく、背景マン1人ひとりが、きちんと自分の仕事をしているからです。それぐらい今回のスタッフワークはうまく行っているんだけど、今のアニメのスタッフに見合うような企画を80歳になった僕が提供できるか考えると、それがもっともつらい。だから、アニメのスタッフをナメていた昔のほうが気持ちは楽でしたね。逆を言うなら、今、本当の意味でのアニメの脚本家や演出家はどれぐらいいるんだろうかと、少し気になっています。
わかりやすい例をあげると、『鬼滅の刃』。あれぐらい明確なコンセプトとキャラクターラインがあれば、今のスタッフは平気でアニメをつくれてしまいます。そのコンセプトやキャラクターラインを決めた原作者は30代の女性で、アニメ業界の出身者ではありませんよね。センス的には文学者に近く、なおかつ東京人ではないという圧倒的な強みもある。ああいうアニメ漬けではない視点と発想を、持てるかどうか。そのことをアニメのスタッフが気づいているかどうか……。
今の話は80歳をこえた爺ちゃんが思っていることで、最近は「お前ら、そう簡単にアニメをつくれると思うなよ」という言葉遣いをするようになったけど、やっぱり僕は生きているかぎりは鬼滅を潰す! それぐらいの気持ちを維持していないと、自分の好きな物だけしかつくれない、つくらない人間になってしまいます。好きなことしかやっていない作家や映画監督って、意外といるでしょう? ですから「鬼滅は潰す!」は、(『ガンダム』の頃に口にしていた)「ヤマトを潰す」とは本気度が違います。