「仕事をともにして、一緒に育った」クリエイターと組む
─スタッフィングは、どのようなところにこだわっておられますか?
小川 「ここだけはきっちり押さえておきたい」というところは、自分がプロデューサーになるまでに一緒に仕事をした、信頼のできるクリエイターさんにお願いしています。お互いの仕事ぶりを見てきて、自分も相手も「これからもずっと一緒にやりたいな!」と思う人たちです。幸いにして、自分には制作進行の時代から、制作とクリエイターが一緒に育つ環境がありました。自分が今、SUNRISE BEYONDで一緒に仕事をしている人たちも、その延長線上にいる人たちです。もちろん、新しい人も参加してもらっていますけど、ちゃんと作品を作るためには、やっぱり全部のスタッフを新規でやるのは無理なんですよ。
―監督は作品ごとにいろいろな方を起用されていますが、脚本家は黒田洋介さんや木村暢さん、キャラクターデザインは大貫健一さんや千葉道徳さん、メカニックデザインは海老川兼武さんや寺岡賢司さん、ロボットアクションは大張正己さんや有澤寛さん、絵コンテは寺岡巌さんや西澤晋さんとご一緒されることが多いようです。
小川 監督起用に関してもやり方は同じで、今まで一緒に仕事をやってきて、彼らがどういった仕事をしてくれるのかを十分に理解したうえで、信頼できる方にお願いをしています。「ガンダムビルドファイターズ」(2013~14)の長崎健司さんも、「鉄血のオルフェンズ」の長井龍雪さんも、若い頃から仕事を一緒にやってきて、「いずれ一緒にやりましょうね!」と言って、作品制作にまでたどりつきました。
─マーチャンダイジング担当者とも、お付き合いは長いのでしょうか?
小川 BANDAI SPIRITSとは、「ビルドファイターズ」など、長く一緒にやっています。「ビルドファイターズ」や「鉄血のオルフェンズ」でお互い苦労しながらやってきて、しっかりとした関係値を築けたことが、「境界戦機」にもつながっているんです。今は、昔みたいにパッケージビジネスだけでお金が集まるわけではないので、プラモデルなどの商品化がないと厳しいんですよ。
─音楽スタッフの選定にも関わっておられるのでしょうか?
小川 各音楽会社やその音楽プロデューサー、グループ会社であるバンダイナムコミュージックライブなどと協力しながら、監督と相談して決めています。劇伴については、「どうしてもこの人とやりたい!」という監督の希望があれば、その方を最優先にしています。そういった希望がない場合は、「イメージが付き過ぎている人」は避けたいなと思っています。いただいた候補者リストの中から、「すでに実写ドラマでは活躍されているけれど、アニメはあまりやられておらず、おもしろいかもしれない」みたいな方を選ぶようにしています。
─拙連載でCGディレクターの吉田裕行さんは、小川さんがサンライズ時代の同期だとおっしゃっていました(編注:https://akiba-souken.com/article/52898/?page=3)。
小川 そうですね。吉田さんはサンライズを離れて白組で活躍されているんですけど、今でも「どこかで一緒に仕事できたらいいよね!」といった話はしています。入社時から「CGディレクターとしてやっていきたい」という話は聞いていましたので、夢を実現されて自分もうれしく思っています。アニメーターの有澤寛さんも、自分が進行の時にちょうど原画をやり始めて、一緒に育ってきた方です。あと実は、監督の綿田慎也さんも同期入社なんですよ。
─綿田さんは、「ガンダムビルドダイバーズ」の監督をされています。
小川 綿田さんには「機動戦士ガンダムAGE」(2011~12)の第14話「悲しみの閃光」から演出で入ってもらいまして、OVAの「機動戦士ガンダムAGE MEMORY OF EDEN」(2013)で監督をお願いしました。
─制作進行で同期の方は?
小川 制作では、ほとんど残っていませんね……。ただ同期としては、今もバンダイナムコフィルムワークスの営業や管理系に何名かいますよ。
─新人の発掘や育成には、どの程度力を入れておられますか?
小川 自分はサンライズ時代に「ラブライブ!」シリーズ(2013~)のプロデューサーと一緒に「作画塾」や「演出塾」を立ち上げて、若手クリエイターの育成に力を入れていました。SUNIRSE BEYONDでもそろそろ、動画からアニメーターを育てるだとか、そういうことをやって行こうと考えています。うまいアニメーターが自然発生的にポコポコ生まれてくるとか、甘い期待はしちゃいけないと思います。昔は専門学校に「有望な人材はいませんか?」と聞きに行ったりもしたんですけど、なかなか思うようにはいきませんでした。学生の8割近くが声優志望というのが現実で、アニメーターや美術を目指している学生は数が限られていたんです。だからやっぱり、自分たちでやらないといけないと思っています。
─キャスティングについてはいかがでしょうか?
小川 自分は基本、キャスティングにはほとんど口を出しません。監督や音響の希望を聞いたうえで、「主役周りだけ、できれば既存作品で色が付き過ぎていない声優さんで」とお願いしています。
2つのスタジオDNAが融合して生まれた「境界戦機」
─「境界戦機」での羽原信義さん監督起用は、小川さんのスタッフィングとしては特別なケースですね。
小川 「境界戦機」は、BANDAI SPIRITSと「SUNRISE BEYONDで新しいメカものを作りましょう!」というところから企画が始まっていて、自分が連れてきた旧サンライズ出身スタッフと、羽原さんが旧XEBEC(ジーベック)で一緒だったスタッフで作ろうと考えていましたので、これまでとは全く違うアプローチを採用しました。羽原さんとはこれまでご一緒したことがなく、「境界戦機」が初めての仕事になりますね。
―羽原監督との初コラボのご感想は?
小川 大変な仕事をやってもらって感謝しています! ただ、なにぶん初めてなので、羽原さんが「どういった画作りをするのか読めない」のが、ちょっとだけ大変でした。長崎さんや長井さんだったら「こうするだろう」とか、ある程度シナリオの段階で想像ができて、しかもいい意味で、想像を裏切ってくれることも多かったんですけど、「境界戦機」の場合は、その辺の調整が難しかったというのが正直ありますね。
―シリーズ構成・脚本に木村暢さん、キャラクターデザインに大貫健一さんを抜擢された理由をうかがえますか?
小川 木村さんは、「ガンダムAGE」の時の仕事でお世話になり、いろいろと協力してもらいました。それに、木村さんはオリジナルもやってもらえますし、初めて組ませていただく羽原さんの画づくりが読めないというのもありましたので、「ライターはある程度、計算がつく方にお願いしたい」というのもありました。
キャラデに関しては、大貫さんで決まっていたんですけど、自分としては「鉄血のオルフェンズ」の伊藤悠さんの時のように、原案も入れようと思っていました。それで、出版社の編集者さんに紹介していただいたんですけど、候補の漫画家さんがご自身の連載で忙しく、やりたいけどどうしても予定が合わない、とのことでした。こちらとしても商品化の都合上、「境界戦機」をスケジュール通りに動かさないといけなかったので、漫画家さんにオファーするのはあきらめて、原案も含めて大貫さんにお願いすることにしました。といっても大貫さんは、原案からでも全然できる人なので、「まるっとお願いしてもいいですか?」と言ってお願いした感じです。
―小説「フロストフラワー」の兵頭一歩さんも、小川さんが選ばれたのですか?
小川 そうです。兵頭さんはもともとサンライズで設定制作をされていた方で、こういう外伝のやり方もよくご存じだったので、安心してお任せしました。
─劇伴は、スウェーデン人のラスマス・フェイバーさんが担当されました。
小川 いくつかの候補の中でラスマスさんのデモを聴かせていただいた時に、羽原監督と自分の中でピンとくるものがあったので、「ラスマスさんにお願いしましょう!」となりました。
─日本語は話されないと思いますが、意思疎通は問題ありませんでしたか?
小川 ラスマスさんはこれまでも日本のアニメの仕事をされていますし、間にプロの通訳さんにも入っていただいていたので、まったく問題なかったですよ。むしろ言語の問題よりも、「ラスマスさんと一度も直接お会いして、打ち合わせできなかった」のは残念でした。「境界戦機」を作り始めた時期と新型コロナウィルスの感染拡大が、ちょうど重なってしまって、最初の打ち合わせからリモート作業になっちゃったんですよ……。
「ガンダムアニメ」と「ガンプラアニメ」の違い
─そのほかに、お仕事で気を付けておられることは?
小川 オリジナル作品に限ったことじゃないですけど、作り手は、「どういった人たちに観てもらいたくて、どういうところに作品の特徴を付けようとしているのか」というのがわかっていないといけないと思います。それはただ単に、「こうすれば視聴者のウケがいいだろう」とか、「これをやれば視聴者がよろこぶだろう」ということではないので難しいんです。
─そのお考えが具体化された例をひとつ、教えていただけますか?
小川 自分は、「ガンダムアニメ」と「ガンプラアニメ」を明確に線引きしています。「ガンプラアニメ」とは、BANDAI SPIRITSやバンダイと一緒に作ってきた、ガンプラを主軸としたホビーアニメのことで、「ビルドファイターズ」や「ガンダムビルドダイバーズ」(2018)がそうです。いっぽうの「ガンダムアニメ」は、「機動戦士ガンダムSEED」(2002~03)、「機動戦士ガンダム00」(2007~09)、「ガンダムAGE」、「鉄血のオルフェンズ」のことで、人の生き死にも取り扱う作品のことです。そういった線引きをきちんとしておかないと、企画時に想定した作品展開ができなくなってくるんです。特に、自分自身が直接プロデューサーを担当した「ビルドファイターズ」と「鉄血のオルフェンズ」は相当気をつかっていて、メリハリを付けながら作りました。
─「ビルドダイバーズ」は、前作の設定をあえてリセットされたそうですね。
小川 「ビルドダイバーズ」は、2つの理由から設定を変えさせていただきました。ひとつめは、「ビルドファイターズ」がもともと「オールガンダムを扱って、ガンプラの新規ファンを増やしていく」ことを目的としていたはずなのに、「ビルドファイターズ」がうまく行きすぎて、「1作目のファンしかついてきてくれない」現象が起き始めていたからです。作品が成功したのはとてもありがたいことなんですけど、「ガンプラの新規ファンを増やす」という当初の目的が難しくなりそうだったので、「ビルドダイバーズ」はあえて、設定をリセットさせていただきました。
もうひとつの理由は、「ビルド」をシリーズ化するのであれば、「現実の世界でより実現可能な設定に変更したほうがいいのではないか?」と思ったからです。メタバースとか、ああいった中でガンプラバトルを現実の遊びとして再現できないかと考えた時、「ビルドファイターズ」の謎粒子はハードルが高すぎるんですよね。もっとも、「ビルドファイターズ」も「ビルドダイバーズ」も、「『ガンプラアニメ』であって、『ガンダムアニメ』ではない」という前提は変えていないので、あくまでホビーアニメとして作っています。
作画とCGはバランスが大切
─「作画でロボットを動かす」という点も、小川さんならではのこだわり、と言って差し支えないでしょうか?
小川 ありがたいことに、大張さんだったり有澤さんだったり、うちの作品には手描きでメカを描いてくれるアニメーターさんが集まってくれるんですよね。とはいえ、このままではダメだとも思っていて、CGとの付き合い方は、これからも試行錯誤が必要だと考えています。作画とCGのよさってそれぞれ違うので、SUNRISE BEYONDでもうまくバランスを取りながらやっていきたいですね。
─過去作では「ロボットは作画、戦艦はCG」というケースが多かったですね。
小川 「戦艦はなかなか壊れないので、モデルをいくつも作る必要がない」というのと、「戦艦を描けるアニメーターがなかなかいない」という理由もありますね。二足歩行のロボットだと、人の延長線上で描ける人もいるんですが。そういう意味で、戦艦からCGになっているのは必然なのかなと。
―小川さんは現場主義だったりしますか?
小川 SUNRISE BEYONDは制作会社なので、もちろん現場は一番大切にしています。でも、自分が直接、現場に口を出すというか、自分の手の内で現場を全部回していたのは、「ガンダムビルドファイターズトライ」(2014~15)までですね。
─息抜きは何をされていますか?
小川 昔はよく、スポーツセンターのプールに泳ぎに行っていました。でも、新型コロナの影響でそういった施設が利用しにくくなったのでご無沙汰になりましたが、そろそろ再開しようと思っています。