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「逃げる」という作品のキーワードが、劇伴でも重要になりました
── まずは、劇伴について、メインスタッフとの打ち合わせがあったと思います。 藤澤 そうですね。橋本監督と音響監督の山口貴之さんと、ほかにもたくさんの方がいらっしゃって。ほかの作品の音楽打ち合わせよりも人数が多かったですね。でも、メインで話をしたのは橋本さんと山口さんです。
── 橋本監督からは、どのようなお話があったのでしょうか? 藤澤 まずは作品のテーマから入っていって印象的だったのは、「逃げる」ということを悪いこととしては描きたくない、むしろ逃げてもいいんだというお話ですね。日本の実社会は、逃げたら終わり、みたいなところがありますけど、「しんどいときは逃げてもいいんじゃない?」くらいの気楽さを前面に出したいと。「ルパン三世」がたとえとして出てきたんですけど、ルパンは追いつめられて逃げるときも飄々(ひょうひょう)としているじゃないですか。それと同じように、「逃げる」ことは命がけではあるけれども、明るく楽しく元気よく描きたいとおっしゃっていました。そこで「逃げる」というキーワードが、この作品において重要なんだなと、再認識しました。
── エクア、フェレス、マルテースとメインキャラクターが女子高生ということもあり、作品の雰囲気は明るいですよね。 藤澤 話数が進むにつれシリアスな展開も増えていくんですけど、どれだけシビアな状況につける音楽でも、悲壮感は出さないほうがいいんだろうなと思いました。大変なミッションに臨んでも、ケロッと戻ってきそうなくらいの温度感と言いますか(笑)。
── TVアニメ「エスタブライフ グレイトエスケープ」は、「エスタブライフ」シリーズの中で最初に世に出る作品なので、ファンが入りやすいタッチにしたいというコンセプトがあったとうかがいました。 藤澤 「エスタブライフ」の中の日本はAIに管理された未来社会ではあるんですけど、その中でも楽しく生きている人はいるよ、というのがTVアニメでは描かれていて、そこが大事かなと思います。
── 主人公たちだけでなく、それぞれのクラスタで生きる人たちが、なんだかんだで強く生きている姿を描いている作品ですよね。 藤澤 みんなそれなりに楽しくはやっていて、でもそこから逃げ出したくなる人たちもいて。これは現実の社会の写し絵だと思うんです。会社だったら、ガチガチに管理されたら辞めるという選択肢があるわけですけど、社会がそうだったら、そこから逃げるのは大変なわけで、それをサポートしてあげるために「逃がし屋」という仕事があるという。この着眼点は面白いですよね。
── 「逃げたくなったら、逃げていいんだよ」というメッセージが、「エスタブライフ グレイトエスケープ」にはあると思いました。 藤澤 自分が置かれた状況を深刻に考え過ぎなくてもいい、その外側には違う世界があるんだよということを見せられる作品なんじゃないかなと思います。メインテーマをまずは作っていったんですが、最初はどうしても攻めている感じになっちゃったんですよね。かっこいい音楽を作ろうと思うと、どうしても追いかけている側になっちゃうんです。これではいかんと思って、「ルパン三世」のメインテーマを聴き直したら、やっぱり逃げているんですよ、曲が。
── 意識したことがなかったんですけど、作曲される方が聴くと、そう聞こえるんですね。 藤澤 改めて分析してみて、そう思いました。その大きな要因として、楽曲のあの軽快さがあると思うんです。飄々と、まるで踊るように逃げていく姿が見える気がして、こういうふうに作れば、「逃げる」イメージの曲になるのかなと。だから、「ルパン三世」のテーマを耳に遺しつつ、「エスタブライフ グレイトエスケープ」のメインテーマを作曲していきました。
── 「エスタブライフ グレイトエスケープ」のメインテーマも、ブラスが入ったジャズになっていますね。 藤澤 それは僕だけの考えではなく、山口さんが書かれた音楽メニューにも、そういう指定があったんです。僕としても、「ルパン三世」という名前が出てきたら、もうそこにいくしかないというのがあって(笑)。そこから具体的に、どうやって、逃げている感じを出そうかというのが、僕が悩んだところでした。