珍色からパチモノまで……消しゴム人形からあふれ出る無限のロマンを、まんだらけミクロ館の宮越館長が語る!【ホビー業界インサイド第74回】
あえてニセモノを集める、原型を作っていた職人に会いに行く……さらに奥深い世界へ
── 子ども向けにガチャガチャで売られていた消しゴムが、コレクションの対象になったのはいつぐらいなのでしょう?
中村 売買が盛んになったのは2000年代、ヤフオクが普及しはじめてからでしょうね。90年代に流行した「たまごっち」「エアマックス」など中古品の売買は、お店以外では、雑誌の「売ります・買います」コーナーや個人での取引がメインでした。ネットが盛んになってからは情報が県をまたいで、地方に眠っていたコレクションが発掘されるようになりました。
宮越 ネットで情報を知って、「こんなにラインアップがあったのか」と気づかされるケースは多いですね。1999年に「ビックリマン2000」、2002年に「キン肉マンII世」がテレビ放送されたことも、大きいと思います。その頃の子どもたちが、今は20~30歳ぐらいになって、コレクションできるぐらいのお金は持っていますから。
── 「すごく人気のあるキャラクターなのに、どうして売れないんだろう?」というものは、ありますか?
宮越 「ドラゴンボール」ですね。さまざまな種類の消しゴムが出ているんですが、探しにくる人は少ないです。現在でもフィギュアがたくさん出ているので、消しゴムを集めだすキッカケが少ないのだと思います。あとは、「アンパンマン」。細々とは集めている方はいますが。こんな有名なキャラクターなのに、いまだにラインアップの全容がつかめません。それと、「ウォーリーをさがせ!」。
── えっ、絵本の「ウォーリーをさがせ!」の消しゴムがあるんですか?
宮越 だけど、ぜんぜん入荷してこないんです。「ウォーリーをさがせ!」の消しゴムを探すほうが大変(笑)。ウォーリーのポーズ違いは4種類で、ラインアップは全20種類あります。「ウォーリーをさがせ!」の絵本が好きな人と、消しゴムを集める層が決定的にズレているんでしょうね。誰も欲しがらないから、値段も高くなりません。僕は好きなんだけど、誰もついてこない(笑)。
中村 「ファミコンチョコ」という食玩があって、その中でしか立体化されていないキャラクターが、かなり多いんです。ファミコン関係のコレクターでフィギュアなどの立体物も集めている人は、最後には消しゴムにたどり着く方もいます。
宮越 あと、ロボットの合金玩具を集め終わった人は、食玩のプラモデルへ行きますね。食玩プラで人気なのは、「六神合体ゴッドマーズ」や「スペースコブラ」などです。パーツが折れやすく、現存数の少ないものも多いので、価格が高騰しやすいんです。
── ほかに、価格が高くなる条件はありますか?
宮越 SDガンダムは、武器が別パーツになっていることが多いので、未切り(切っていないランナーの状態)が高騰の条件でしょうね。パーツが切ってあったりなくなっていたりすると価格が下がってしまうので、キンケシよりハードルは高いと言えます。あと、キンケシは肌色、SDガンダムは青系が人気です。なぜなら、青色のほうが細かいモールド(彫刻)を見やすいからです。逆に、SDガンダムでは肌色や黄色が不人気です。
── ああ、モールドが見づらい色だからですね。
宮越 それと、キャラクターのイメージにマッチした色は人気があります。サザビーなら赤、ロビンマスクなら青、サンシャインは黄色……といったイメージカラーですね。面白いところでは、珍色。基本色ではない、クリアーなどの珍しい色で成型された消しゴムです。集めるものがなくなってくると、珍色へ行く。または、もう最初から珍色のみを集めている人もいます。
── はじめから、みんなとは違うルートで集める人もいるわけですね?
宮越 変わったものを集めるという意味では、「ビックリマン」は消しゴムの種類が少ないため、ラインアップの豊富なニセモノも集める人も多いです。ニセモノしか立体物がない場合は、ニセモノの値段が高くなるキャラクターもいます。
── パチモノというか、無版権の消しゴムを狙って集めるんですか(笑)。
宮越 ニセモノで面白いのは、光GENJIやタモリなど、芸能人系の消しゴムですね。
中村 こんな子ども向けの消しゴムに、芸能事務所が目くじら立てるような時代ではなかったんです。今とは違って著作権の概念がゆるくて、正規の商品を出しているメーカーも、別に訴えたりする世の中ではなかった。いわば、無法時代の産物です。
宮越 「かみつきばあちゃん」の高橋名人バージョン、「怪奇マリオブラザース」なども、人気のあるニセモノです。ブームの裏に、ニセモノあり。それが、消しゴム界です。
── ニセモノは、さぞかし製作費も安いんでしょうね……。
中村 それが、消しゴムの金型って高いんです。弊社も「東方Project」の消しゴムを作ったことがあるのですが、小さくて精巧な製品を成型するので、ソフトビニールの金型よりも硬くて重たいんです。1個の金型で2~3万個ぐらい売らないと、ペイしないぐらい製作費がかかります。
宮越 それだけ大量に製造していても、まったく出回らないアイテムもあります。
── 宮越館長が、いま注目しているアイテムは何ですか?
宮越 スタジオジブリの指人形ですね。消しゴム、食玩、プロレス、少年ジャンプ系、鬼太郎などを勉強してきて、ジブリ系はあまり本格的にやっているスタッフもいなかったので、「じゃあ、やってみよう」とジブリ界に突入しました。まだ愛が足りないので、ジブリ美術館へ通って勉強しています。ジブリのキャラクターって、意外と立体物が少ないんですよ。
中村 宮越は仕事以外でも、趣味で自分のオリジナル指人形を作っています。
宮越 インディーズホビーというか、創作ソフビ(ソフトビニール)ですね。実は、その原型を「ネクロスの要塞」の消しゴムを作った職人さんに頼んでいます。
── えっ、原型を作っている職人さんがわかったんですか?
宮越 内田茂夫さんという方が先代の原型師で、息子の内田晋平さんが後を継いでいます。内田さんとはミクロ館で知り合い、工房にもおじゃまして取材させてもらいました。ですから、僕が「ネクロス~」の意志を継いで……いや、ぜんぜん継げてないかもしれませんが(笑)、内田さんには、自然癒し系の指人形を造形していただいています。
中村 ここ数年、中野サンプラザで開催されるまんだらけの大きなイベントの一角で、「塩ビサミット」というトーク会を行っています。今年もコロナ禍にも関わらず、無事に開催できました。消しゴムはニッチな分野なので、普段でも60~70人規模のイベントです。時期が時期なので、どれほど参加してくれるのか心配でしたが、今年は40~50人ぐらい。例年とあまり変わりませんでした。
宮越 同じ顔ぶれが多いです(笑)。ミクロ館では消しゴムの販売イベントも行っており、来られたお客さまは、みんなでコレクションの研究発表をしたり、オフ会のような雰囲気で話したり、飲みに行ったり……。消しゴムファンが集まる機会は少ないので、年に3回ぐらいはミクロ館で「消しゴムの大出しイベント」を開催したいですね。
中村 数少ない消しゴムファンが交流できるお店は、日本ではこのミクロ館だけかもしれませんね。
(取材・文/廣田恵介)
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