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一度終わって、また新しく始まる「鬼太郎」は輪廻転生するアニメシリーズ
── 「ゲゲゲの鬼太郎」のメインターゲットは、どのあたりなのでしょうか? 永富 「鬼太郎」は、50数年間で6本のテレビアニメが放送されました。モノクロの第1期は1968年放送、第2期からカラーとなって1971年放送、第3期は1985年放送で戸田恵子さんが鬼太郎役となりました。第4期は1996年放送で、松岡洋子さんが鬼太郎役。第5期は2007年放送で、高山みなみさんが鬼太郎を演じました。そして、僕がプロデュースした第6期が2018年放送で、鬼太郎役は沢城みゆきさん。それぞれのシリーズにファンがいるので、どの世代がボリュームゾーンとは言いづらいですね。
── 私は第2期をリアルタイムで見ながら、第1期の再放送を同時に見ていた世代です。 永富 それ以降の世代でも、同じ現象が起きています。僕が第3期をリアルタイムで見ているとき、やはり第2期が再放送されていました。僕より下の年代の沢城みゆきさん、ねこ娘役の庄司宇芽香さん、犬山まな役の藤井ゆきよさんは第4期のリアルタイム世代で、第3期も再放送で見ていたそうです。それぞれのバージョンが、モザイク状に存在しているんです。イベントには若い人から往年のファンまで集まってくれて、それこそ世代はバラバラです。古い作品を上映すればオールドファンが来るし、新しい作品を上映すれば若いファンが来ます。例えば、第5期は高山みなみさん主演ということもあり、特に若い人が目立ちます。
── どこが、「鬼太郎」の人気の秘密だと思いますか? 永富 ひとつ言えるのは、10年前後に1作品は必ず新しいシリーズが始まることです。ほかの長寿アニメ、たとえば「サザエさん」や「ドラえもん」は終わらないまま、ずっと続いていますよね。「鬼太郎」は、必ず終わるんです。終わってから、また最初から新しく始まる。東映アニメーション制作、フジテレビ放送なのはずっと変わらないけど、毎回、スタッフやキャストは一新される。そんなアニメは、「鬼太郎」だけではないでしょうか。
── 東映アニメーションのトップから、「次の鬼太郎はこういう路線で」と指示が来るのですか? 永富 いいえ、完全に現場に任されています。僕が第6期をプロデュースしたとき、第4期を担当した清水慎治が常務取締役になっていました。しかし、清水は内容には一切口出ししません。「新しい『鬼太郎』をプロデュースできるなんて、うらやましいよ」とだけ言っていました。僕をふくめた新しく作品を創る製作スタッフは、諸先輩がたをリスペクトしながらも、「前回の『鬼太郎』と重なりたくない」と思っていました。第1期と第2期は水木しげる先生らしさ、原作らしさを濃厚に残していますが、第3期は正義の味方として鬼太郎を描きました。とても人気があって、視聴率は30%に迫る勢いでした。しかし、第4期では、再び原作の路線に回帰します。そして、第5期は多様な妖怪を出しながら、ヒーローの雰囲気をかもし出しています。第5期放送時はすでに東映アニメで働いていて、傍目に見ていた僕は、無意識に第6期を原作に近い作品として捉えていたんだなと、製作している途中で気がつきました。そんな具合に、ずっと振り子が揺れている。やっぱり現場スタッフとしては、前作をつくっていた先輩たちに負けたくないんです。
── 原作者サイドも、特に指示してこないんですね? 永富 僕が第6期の製作を拝命したとき、すでに水木先生は彼岸に渡られていました。水木先生がご存命中はもっとライトな関係で、「漫画は漫画、アニメはアニメで別の作品」と言っていただけて、とても自由にさせてくれたと聞いてます。長い時間をかけて築かれた信頼関係があるからこそ、僕たちも新しいチャレンジができるわけです。「鬼太郎」を放送して、関連グッズが爆発的に売れるわけではありません。だけど、またどこからかお声がかかってリメイクする、というか新しいシリーズをやろうという話が上がる。新作が放送されると評判が上がり、いったん番組が終了することで、また満タンの状態で走り出せる。そうした輪廻転生を繰り返していることが「鬼太郎」の息の長さの、ひとつの秘密じゃないかと思います。ちょっと気の早い話ですが、僕より若い世代が第7期をつくるとしたらどんな路線にするのか、ねこ娘をどんなキャラクターにするのか、楽しみです。