作曲家・櫻井美希 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第42回)

2020年07月24日 10:000

単独作曲「まちカドまぞく」と共同作曲「五等分の花嫁」が内外で高評価


─アニメ最初のお仕事は、「アグレッシブ烈子」(2016~18)ですか? デフォルメされた動物たちがOLあるあるを体験するショートアニメですが、話数は100話とボリューミーでした。


櫻井 はい。でも「アグレッシブ烈子」は、私の先輩の田渕夏海さんと中村巴奈重さんがメインで作っていらっしゃって、私はその中に日常曲を1曲だけ参加させていただいた形です。田渕さんと中村さんとは、その後の「五等分の花嫁」でもご一緒しました。


─実写テレビドラマの劇伴も書かれていますね。2019年には「4分間のマリーゴールド」に参加されました


櫻井 「4分間のマリーゴールド」は、「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」にも参加された兼松衆さんがメインテーマなどを書き、私も半分くらい書かせていただきました。


─これまでで一番印象に残っているアニメのお仕事は?


櫻井 やっぱり、全篇ひとりでやらせていただいたという点で、「まちカドまぞく」です。桜井弘明監督にもかなり自由に作らせていただいたので、いろんなことが試せて本当に楽しかったですね。


─桜井監督はご自身もベーシストで、映像センスだけでなく音楽的才能も豊かな方ですが、何か特別なディレクションはございましたか?


櫻井 最初に全体的な方向性やテイスト、音楽のレンジ感と楽器の希望についてお話がありましたが、それくらいですね。あとは、基本的に自由に作らせていただきました。


─制作終了後の桜井監督の全体的な評価はいかがだったでしょうか? 先ほど「ピアノの音」がよかったというお話がありましたが……。


櫻井 オンエア後の打ち上げでサントラの話をさせていただいたんですけど、「あの曲のあの音がよかったよ」とかいろいろと言ってくださって、冊子のクレジットまで細かく読んでくださっていたので、すごくうれしかったです。


─「まちカドまぞく」のサウンドトラックは、櫻井さんがご自身で選曲されているのでしょうか? 残念ながら、劇中で使用された全曲が入っているわけではないようです……。


櫻井 選曲も曲順決めも、私がやっています。サントラは「1枚何分まで」というのが決まっていまして、何曲か削ってしまいました。たとえば2話だけでも、「500円を手に入れました!」のリコーダー曲、「今なぜかちょうど持っています……」、「あ、やっぱいいよ」のところのギター・デュオ曲、「シャミ子はこげつき魔族だね」のところのスローなコミカル曲が、サントラには入っていません。オンエアを観る前に選曲をしないといけなかったので、「削らなきゃよかった……」と思った曲はありますね。本当は全曲入れたいんですけど。


―「五等分の花嫁」は、田渕夏海さんと中村巴奈重さんとの共同作曲ですが、櫻井さんがメインテーマを作曲されていますね。劇中では、風太郎がバスタオル姿の二乃を押し倒した3話や、一花が風太郎の寝顔を見ているのを五月に目撃される9話で使用されていました。


櫻井 メインテーマはいろんなところから、「よかったよ!」と言っていただいて、すごくうれしかったですね。


─「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」は、田渕さん、中村さん、斎木達彦さん、兼松衆さん、そして櫻井さんと、5人体制で作曲されています。音響監督は、拙連載でもお話をうかがった亀山俊樹さん(編注:https://akiba-souken.com/article/32339/)ですが、亀山さんとのお仕事はいかがでしたか?


櫻井 私は「Rise of the Curtain」、「Cheerful Time」、「Wander」の3曲だけだったんですけど、亀山さんのメニューはすごくわかりやすかったです。先ほどもお話ししたように「はめふら」は「クラシカルなもので劇伴を作っていこう」という方針があったんですけど、クラシカルな中でも輪舞だったり、ワルツだったり、メニューには具体的に書かれていたんですよ。私は明るい曲の担当でした。


─「Cheerful Time」は6話の、アランたちを追い越していくカタリナのボートのスピード感とよくマッチしていました。同曲はパジャマパーティ用のパジャマをメイドのアンに見てもらう9話でも使用されていました。「Wander」は、幼少期のアランが「メアリーを誘惑するな!」とカタリナに怒る2話で使われていました。


櫻井 印象的なシーンで使っていただけて、うれしかったです。私は途中参加的な感じだったので曲数は少ないんですけど、参加できて本当によかったと思います。

 

今明かされる、「まちカドまぞく」のコーラスの正体とは?


─「はめふら」サウンドトラックの冊子を拝見すると、櫻井さんは「Voice」でも参加されたとありますが……これは?


櫻井 私、田渕さん、中村さんの3人で合唱したんですよ(笑)。私の曲じゃないんですけど。気になる方は、中村さんの「Fate」と、田渕さんの「New Season」と「Noble Heroine」を聴いてみてくださいね。


─「まちカドまぞく」にも、女性コーラスがありましたね。冊子からはどなたが歌っているのかわからなかったのですが……。


櫻井 実は「まちカド」は全曲自分が歌っていて、「これで勝ったと思うなよー!」や「つらい!!つらい!!」の声は、全部私なんです(笑)。


─そうだったのですね! ご自身の声までも「まちカドまぞく」という作品に捧げておられたのですね!


櫻井 1パート4テイクくらい録音して、それが2パートなので8テイクくらい重ねました。「曲としておもしろくなったり、ニュアンスが出たりしたらいいな」と思いまして。

 

 

常に「新しいこと」に挑戦し、「求められる作家」になりたい


─アニメの劇伴作曲家に必要な資質能力とは何でしょうか?


櫻井 私はまだ始めたばかりなので、自分の願望的なところで言いますと、「常に新しいことを何かやってみよう!」、「求められる作家になりたい!」と思っています。そのためにはオーダーに沿うということにプラスアルファで、何か自分らしさとか、独自性みたいなものも感じられるような曲を継続して書いていきたいなと思っています。


─今後挑戦したいことは? 


櫻井 やったことのないものは何でもやりたいな、と思っています。劇場版のアニメもやってみたいですね。


─完成映像に音楽をつける、フィルムスコアリングはいかがでしょう?


櫻井 そうですね、やってみたいことのひとつですね。でもオンエアを観て、「なるほど、こういう使われ方もするんだ!」という発見があると、「だったら、次はこう作ってみよう!」とつながることもあるので、選曲家さんにつけてもらうのも、おもしろいなと思っています。


たとえば、「まちカドまぞく」はテンポが速いじゃないですか。お話のテンポだったり、会話のテンポだったり、キャラクターの動きだったり。そういう速いテンポに合わせて選曲家さんは、音楽も細かく付けてくださったんですよね。1話の清子が一族の成り立ちについて話すシーンなんかは、「一族の秘密」とサントラ未収録のギター曲が短いスパンで交互に使われていて、「こんなに短く切って、テンポを作ってるんだ!」と驚きました。


─新型コロナウイルスは、櫻井さんの音楽制作にも影響を与えていますか?


櫻井 劇伴じゃないんですけど、リモートレコーディングはしましたね。演奏家の皆さんには、自宅で演奏していただきました。演奏家の皆さんに会えるのも楽しみだったりするので、私はやっぱり、スタジオでレコーディングするのが好きですね。


─視聴者のために今一度、「放課後ていぼう日誌」の音楽のポイントをまとめていただけますか?


櫻井 「放課後ていぼう日誌」は、「女子高生と釣り」をテーマに劇伴を作っています。舞台となる田舎町を表現するためにアコースティックギターを中心に、撥弦(はつげん)楽器を積極的に使っています。リコーダーを使った世界観表現も、最初のオーダーでいただきました。あとは、ちょっとそこから外れたものも行き過ぎない程度に取り入れていて、イリアン・パイプスが入った曲もあるんですよ。いろんな生楽器を使って結構ぜいたくに録音させてもらったので、映像と音楽が混ざり合った時の空気感とか、その辺りを楽しんで観ていただけたらうれしいなと思います。私も早く続きが観たいです!


─リコーダーといえば、2話の陽渚がからまったリールの糸をほどき、グリスを塗るシークエンスで使用されていた、陽気な行進曲もステキでした。


櫻井 全体的にやさしめのほんわか系が多いんですが、陽渚たちのコミカル要素としてチンドン屋ふうの音楽とか、そういうドライめな楽器とかリズムを取り入れた曲も何曲か作っています。


─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!


櫻井 これからも作品に寄り添った音楽づくりができるように頑張りますので、ぜひ今後も楽しみにしていただけたらと思います。

 


●櫻井美希 プロフィール
作編曲家。宮城県出身。東京藝術大学音楽環境創造科を卒業、同大学院音楽研究科音楽音響創造を修了後、株式会社日音に入社。作曲を西岡龍彦さん、香取良彦さん、電子音響音楽を森威功さんに師事する。アートアニメーションやミュージック・コンクレートに造詣が深く、エスニック・フレーバーを加えた作曲等を得意とする。日常系アニメやラブコメの音楽でも才能を発揮。「アグレッシブ烈子」(2016~18、田渕夏海さん・中村巴奈重さんと共同)でアニメ劇伴デビューを果たし、「五等分の花嫁」(2019、田渕さん・中村さんと共同)や「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」(2020、田渕さん・中村さん・斎木さん・兼松衆さんと共同)でも、作品の世界観や各シーンに最適のスコアを見事に作り上げた。初めての単独作曲「まちカドまぞく」 (2019)も大ヒットを遂げ、最新作「放課後ていぼう日誌」(2020)にも注目が集まる。アニメ音楽の新時代を担う若き俊英として、今後一層の活躍が期待されている。


※TVアニメ「五等分の花嫁」 公式サイト
https://www.tbs.co.jp/anime/5hanayome/

※TVアニメ「まちカドまぞく」 公式サイト
https://www.tbs.co.jp/anime/machikado/

※TVアニメ「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」 公式サイト
https://hamehura-anime.com/

※TVアニメ「放課後ていぼう日誌」 公式サイト
https://teibotv.com/

※櫻井美希 プロフィール(株式会社日音HPより)
https://www.nichionsakka.com/miki-sakurai


(取材・文:crepuscular)

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(C) 山口悟・一迅社/はめふら製作委員会

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