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木村貴宏氏は、自分の中に博物館級の“引き出し”があるスーパーアニメーター
── 第1話で、紗孔羅と火乃紀、2タイプの美少女キャラが登場しますね。やはり女の子はかわいく描きたかったのですか? 米たに もちろん、魅力的と思える女の子でなければ、視聴者には見せたくありません。自分が見たいと思う要素の中から、視聴者の支持を得られそうなキャラを抽出しました。当時、ツンデレという言葉はありませんでしたが、火乃紀はツンデレの先がけですよね。ツンだったりデレだったりするヒロインは魅力的じゃないかと思って、性格づけしました。紗孔羅はロリっぽくて拘束されていて、ちょっと病んだ感じのヒロインにして、ツンデレな火乃紀と差別化しています。だけど、深夜アニメだからといって、あまりエッチな方向へ振ったつもりはありません。
── 怪獣と美少女だけではなく、大河原邦男さんのデザインしたロボット(覚醒人1号)も出てきますね。 米たに “ダサい”というと語弊がありますが、あまりカッコよくない、道具として使える理屈で動くロボットにしたかったんです。“生体としての必要性”というテーマを、ロボットの中に集約させています。覚醒人は、デュアルカインドなる人間2人が乗らないと、動きません。人類は男と女の2種類がいないと交配できず、生命が生まれないことの象徴でもあるんです。
覚醒人のエネルギーを生み出すリンカージェルは古細菌であるとか、生命体が海底に潜るときにどうなるか……など、ある程度、科学的な理屈を調べて設定をつくっていきました。ただのホラーではなく、「生命科学を描きたい」という明確な意図があったからです。
── 次にキャラクターデザインについてうかがいたいのですが、「ガオガイガー」と同じ木村貴宏さんですね。 米たに キャラデは最初から木村さんと決まっていたわけではなくて、大勢の方にオーディションに参加してもらっています。だけど、「ガオガイガー」でともに1年間仕事してきた木村さんは、私の求めているものをよくわかってくれていたんです。
── 以降、「BRIGADOON まりんとメラン」、「勇者王ガオガイガーFINAL」「Dororonえん魔くん メ~ラめら」(2011年)まで、木村さんとは長い付き合いになりますね。 米たに 木村さんは、スーパーアニメーターです。自身との戦いが、半端ではないんです。オリジナリティの強い方ですけど、たとえキャラクター原案が別の人であっても、自分のキャラクターに還元して描けるんです。さらに言うと、キャラクターデザイナーは何年も経つと絵柄が変わってくるのが普通です。木村さんはそれをちゃんと自覚していて、自分の中の引き出しに、その時代ごとの絵をしまっている。「○年前の自分の絵はこれだから、今回はこれで描こう」と、昔の絵に戻れるんです。今回の「ベターマン」Blu-ray BOXでも、1999年当時の絵を完全再現してくれています。そんなことをシレッとできるアニメーターは、なかなかいません。私がいちばん認めているのは、木村さんのスーパーテクニックぶりです。とても高い次元で仕事されてる方なので、尊敬しています。
── 木村さんと、作品についてお話ししたりしましたか? 米たに お互いに職場では寡黙なので(笑)あまり会話はしないのですが、木村さんとは世代的に近いので、それぞれが育った時代の好きなものについて話すことがあります。「ドロロンえん魔くん」で言えば、「雪子姫が最初の女だ」なんて話ですね。私の場合は「ふしぎなメルモ」(1971年)のメルモちゃんが好きなんですが、「メルモちゃんかよ、ロリコンかよ」とかね(笑)。あとは、伊福部昭氏の音楽が大好きだとか。「ベターマン」も怪獣物なので、伊福部テイストの音楽がマッチしていますよね。
── 音楽は「ガオガイガー」でも一緒だった田中公平さんですね。 米たに ええ、「笑ゥせぇるすまん」や「ドラえもんズ」でも組んでいるので、あ・うんの付き合いです。公平さんには無理を言って、ホラー、コミカル、それに怪獣映画っぽい音楽もお願いしました。私も収録時にコーラスで参加していますよ(笑)。結果的に、お互い楽しんで収録できたと思います。
── すると、スタッフィングは米たに監督の要望どおりに決まったのでしょうか? 米たに 「ベターマン」はオリジナル作品ですから、自分からかなりの要望を出しました。「この戦力でなら狙いどおりの作品がつくれるんじゃないか」というスタッフィングが組めたと思います。
── メカニックマスター(メインメカ作画監督)は、まさひろ山根さんですね。 米たに 「ガオガイガー」での経験から、どうすれば山根さんが生き生きと仕事できるか、わかっていたんです。ベターマンは、ヒーロー的な怪獣というポジションなので、カッコいいポージングを決められるのは山根さんだろうと確信していました。
── その怪獣をデザインしたのが、後に「シン・ゴジラ」を造形する竹谷隆之さんなんですよね。 米たに 確かに、「竹谷さんのテイストが欲しい」とは言ったのですが、まさかご本人にデザインしてもらえるとは思っていませんでした。デザインが竹谷さんで、作画参考用の造形を手掛けたのが安藤賢司さんですからね。こんな夢のようなアニメ作品はかつてない、ありがたいと思いました。造形物はまだ手元に残っていますから、いつか絶対に商品化したいです。