※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
ものを考える仕事では、「ひとり」になる時間が必要
── 作品のタイトルについてお聞きしたいのですが、「装甲騎兵」とか「機甲界」といった肩タイトルは高橋監督が考えたのですか? 高橋 ええ、僕も考えました。ロボットを表す漢字四文字の肩タイトルは、常に関係者のみんなで考えていましたので、その組み合わせの中のひとつです。「ボトムズ」に出てくるロボットの名前は「アーマード・トルーパー」。「騎兵」というぐらいですから、「騎」の文字は入れたいと思いました。
「機甲界」という肩タイトルには愛着があって、「機甲界」というタイトルの雑誌を出せば、あらゆるロボットアニメを扱えるんじゃないの?と、コラムにも書いたんですけどね。
── 重量感のあるネーミングが多いですね。 高橋 大河原(邦男)さんも「鉄はいいよね」とよく言っていますが、僕らは世代的に、鉄が身近にあったんです。プラスチックは、あまり好きではありません。
── ロボットの固有名についてもうかがいたいのですが、「蒼き流星SPTレイズナー」の主役ロボット「レイズナー」は、企画段階の「グレイドス」から大きく語感が変わった例ではないでしょうか? 高橋 そう、軽い感じが欲しかったんです。肩タイトルが「蒼き流星」ですから、青くてクリスタルな、速いイメージですね。ロボットの素材も鉄よりも軽い、ジェラルミンのような材質でできていて、機銃で撃たれても平気で飛び続けるようにしたかった。だけど、作画で軽いイメージを出すのは難しかったようです。ロボットの名前は、みんなで考えるんですけど、僕や富野(由悠季)さんの世代は、監督本人が「これがいいんじゃないの?」という最終的な落としどころを決めていました。
── ボトムズは「最低野郎」なんて言われますけど……。 高橋 「底辺」という意味合いですね。だけど、当時はボトムレスバーだとかトップレスバーが残っていた時代ですから、「いやらしいからボトムズはやめよう」と、スポンサーからも言われましたよ。
── 「ダグラム」「ボトムズ」では、主題歌の作詞をされていますよね。 高橋 もともと、僕の望む方向に作詞という仕事は入っていませんでしたから、急な話でした。監督に主題歌の作詞をさせるのは、サンライズの役員プロデューサー(山浦栄二氏)の方針だったんです。アニメーションですから、絵描きがスターになるのは当たり前ですよね。それに加えて「監督を売り出したい」という意向が、山浦さんにはありました。たとえサンライズのオリジナル企画でも、監督以外の人が原作を書く方向もあったはずです。だけど、僕も富野さんも、自分で原作を書いたうえで監督する。そうすることで、自社作品に付加価値を与える戦略ですね。だから、「富野さんも自分の作品の作詞をしているんだから、あなたも作詞しなさい」「ええーっ、音楽に造詣ないし、作詞なんてやったことないですよ」「大丈夫、まわりが手助けしてくれるから」……まあ、誰も手助けしてくれませんでしたけどね(笑)。せいぜい「このワンフレーズ、もうちょっと短くなりませんか」とか、その程度です。
「ダグラム」の場合は、歌詞が先行していたので、自分の思っている言葉に専門家が曲をつけてくれました。ところが、「ボトムズ」は曲が先にあったんです。そうすると、曲に合ったフレーズをつけないといけない。「ダグラム」はアッという間にできたけど、「ボトムズ」は1週間ぐらいかかりました。当時は、スタジオあかばんてんに泊り込みでしたから、人がいなくなるとテープレコーダーを聞きながら、作詞の仕事をして。作詞のような考える仕事というのは、どこかでひとりになる必要があります。その「ひとり」は、実は人がいてもいいんです。僕の場合は、昔の喫茶店がお気に入りの仕事場でした。音楽が鳴っていようが、知らない人たちがザワザワしていようが気にはなりませんね。
── 「ダグラム」の主題歌(「さらばやさしき日々よ」)は、歌詞に「ダグラム」と主役メカの名前が入っています。だけど、「ボトムズ」の主題歌(「炎のさだめ」)には「ボトムズ」という語句が入っていませんね。 高橋 そこは、特に気にしませんでした。「ボトムズ」は特別なロボットが出てくる物語ではないので、「絶対にロボットの名前なんか入れないぞ」と、こだわったわけではありません。とにかく、主人公の心情に寄り添って書きました。
── 小説の話をお聞きしたいのですが、手で書かれているのですか? 高橋 いえ、パソコンです。仕事の文章を、手書きで書いたことはありません。ワープロが30万円ぐらいになったとき、とてもうれしかった記憶があります。
── だけど、題字のお仕事はいっぱいやっておられますよね? 高橋 題字は仕方がないですね。「SAMURAI 7」(2004年)などは、サブタイトルもすべて題字を描いたのですが、どこかで「絵を描く」感覚があります。虫プロ(虫プロダクション)にアニメーターとして入社したことも、関係しているのかも知れません。手書きで書いていると自分の文字が気になってしまって、前へ進めないんです。イラストの仕事でも、何度も描きなおしてしまいます。その半面、本物の文学者が書き直した原稿には、生原稿ならではの美しさを感じるんです。
── 結局のところ、手で書かれた文字がお好きなのではありませんか? 高橋 そうですね、好きなんだと思います。年をとると「さんかく」と言うでしょう? 義理を欠く、人情を欠く、恥を欠く……僕の場合は、「尻をかく」も入るんです(笑)。