コラム集発刊記念! 高橋良輔監督が語る“文字と言語の作品世界”【アニメ業界ウォッチング第52回】

2019年01月26日 12:000

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ものを考える仕事では、「ひとり」になる時間が必要


── 作品のタイトルについてお聞きしたいのですが、「装甲騎兵」とか「機甲界」といった肩タイトルは高橋監督が考えたのですか?

高橋 ええ、僕も考えました。ロボットを表す漢字四文字の肩タイトルは、常に関係者のみんなで考えていましたので、その組み合わせの中のひとつです。「ボトムズ」に出てくるロボットの名前は「アーマード・トルーパー」。「騎兵」というぐらいですから、「騎」の文字は入れたいと思いました。
「機甲界」という肩タイトルには愛着があって、「機甲界」というタイトルの雑誌を出せば、あらゆるロボットアニメを扱えるんじゃないの?と、コラムにも書いたんですけどね。

── 重量感のあるネーミングが多いですね。

高橋 大河原(邦男)さんも「鉄はいいよね」とよく言っていますが、僕らは世代的に、鉄が身近にあったんです。プラスチックは、あまり好きではありません。

── ロボットの固有名についてもうかがいたいのですが、「蒼き流星SPTレイズナー」の主役ロボット「レイズナー」は、企画段階の「グレイドス」から大きく語感が変わった例ではないでしょうか?

高橋 そう、軽い感じが欲しかったんです。肩タイトルが「蒼き流星」ですから、青くてクリスタルな、速いイメージですね。ロボットの素材も鉄よりも軽い、ジェラルミンのような材質でできていて、機銃で撃たれても平気で飛び続けるようにしたかった。だけど、作画で軽いイメージを出すのは難しかったようです。ロボットの名前は、みんなで考えるんですけど、僕や富野(由悠季)さんの世代は、監督本人が「これがいいんじゃないの?」という最終的な落としどころを決めていました。

── ボトムズは「最低野郎」なんて言われますけど……。

高橋 「底辺」という意味合いですね。だけど、当時はボトムレスバーだとかトップレスバーが残っていた時代ですから、「いやらしいからボトムズはやめよう」と、スポンサーからも言われましたよ。

── 「ダグラム」「ボトムズ」では、主題歌の作詞をされていますよね。

高橋 もともと、僕の望む方向に作詞という仕事は入っていませんでしたから、急な話でした。監督に主題歌の作詞をさせるのは、サンライズの役員プロデューサー(山浦栄二氏)の方針だったんです。アニメーションですから、絵描きがスターになるのは当たり前ですよね。それに加えて「監督を売り出したい」という意向が、山浦さんにはありました。たとえサンライズのオリジナル企画でも、監督以外の人が原作を書く方向もあったはずです。だけど、僕も富野さんも、自分で原作を書いたうえで監督する。そうすることで、自社作品に付加価値を与える戦略ですね。だから、「富野さんも自分の作品の作詞をしているんだから、あなたも作詞しなさい」「ええーっ、音楽に造詣ないし、作詞なんてやったことないですよ」「大丈夫、まわりが手助けしてくれるから」……まあ、誰も手助けしてくれませんでしたけどね(笑)。せいぜい「このワンフレーズ、もうちょっと短くなりませんか」とか、その程度です。
「ダグラム」の場合は、歌詞が先行していたので、自分の思っている言葉に専門家が曲をつけてくれました。ところが、「ボトムズ」は曲が先にあったんです。そうすると、曲に合ったフレーズをつけないといけない。「ダグラム」はアッという間にできたけど、「ボトムズ」は1週間ぐらいかかりました。当時は、スタジオあかばんてんに泊り込みでしたから、人がいなくなるとテープレコーダーを聞きながら、作詞の仕事をして。作詞のような考える仕事というのは、どこかでひとりになる必要があります。その「ひとり」は、実は人がいてもいいんです。僕の場合は、昔の喫茶店がお気に入りの仕事場でした。音楽が鳴っていようが、知らない人たちがザワザワしていようが気にはなりませんね。


── 「ダグラム」の主題歌(「さらばやさしき日々よ」)は、歌詞に「ダグラム」と主役メカの名前が入っています。だけど、「ボトムズ」の主題歌(「炎のさだめ」)には「ボトムズ」という語句が入っていませんね。

高橋 そこは、特に気にしませんでした。「ボトムズ」は特別なロボットが出てくる物語ではないので、「絶対にロボットの名前なんか入れないぞ」と、こだわったわけではありません。とにかく、主人公の心情に寄り添って書きました。

── 小説の話をお聞きしたいのですが、手で書かれているのですか?

高橋 いえ、パソコンです。仕事の文章を、手書きで書いたことはありません。ワープロが30万円ぐらいになったとき、とてもうれしかった記憶があります。

── だけど、題字のお仕事はいっぱいやっておられますよね?

高橋 題字は仕方がないですね。「SAMURAI 7」(2004年)などは、サブタイトルもすべて題字を描いたのですが、どこかで「絵を描く」感覚があります。虫プロ(虫プロダクション)にアニメーターとして入社したことも、関係しているのかも知れません。手書きで書いていると自分の文字が気になってしまって、前へ進めないんです。イラストの仕事でも、何度も描きなおしてしまいます。その半面、本物の文学者が書き直した原稿には、生原稿ならではの美しさを感じるんです。

── 結局のところ、手で書かれた文字がお好きなのではありませんか?

高橋 そうですね、好きなんだと思います。年をとると「さんかく」と言うでしょう? 義理を欠く、人情を欠く、恥を欠く……僕の場合は、「尻をかく」も入るんです(笑)。

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