正直に言うと今回めちゃくちゃ悩みました。どれも個性的で面白いアイデアにあふれた楽曲揃いだったので、選出のテーマを「夏らしい楽曲」にしました。
そのテーマの中でも、夏の陽気をとことんまで追求しているのが「アホガール」のOP「全力☆summer!」です。
とにかく夏はバカ騒ぎでしょ! と言わんばかりのハイテンションな楽曲ですが、冷静に聴くとアレンジの音楽偏差値が異様に高く、セクション(イントロとかAメロとか楽曲のおおまかな分割)ごとに音楽のジャンルがめまぐるしく変化し、1曲の中に多種多様な世界が「ごった煮状態」になっています。
イントロはマイナー調のロシアンビートなのにAメロでは80年代テクノポップ、急に差し込まれるカンツォーネ……、さしずめ音の世界旅行といった聴覚体験。これほど雑多なジャンルを内包していると楽曲が破綻しかねないですが、それをうまくひとつの世界にまとめあげている要因は「歌唱力、表現力の圧倒的な高さ」にあります。ボーダーレスなコラージュ表現の面白さと、その中に潜むそこはかとない狂気が垣間見えるボーカルがあってこそ、この曲は「バカ騒ぎ」できるのです。
私たちが思い描く「夏の情景」を想起させる王道の夏ソングは、「クリオネの灯り」のOP「クリオネの灯り」です。
仲間と楽しくバカ騒ぎするのも夏の醍醐味ですが、「なぜか切なくなる感じ」も夏特有のもの。
過去を振り返るような歌詞の世界観なので、私たちはどうしても自身の「あの頃の夏」を思い出してしまいます。プール、宿題、縁日、親戚の家、虫取り、夜8時のテレビ、スイカ、ラムネ。断片的にフラッシュバックする記憶のどれもがイノセントでキラキラしていて、急に切なくなる。そんな想いを想起させる力がこの楽曲にはあると思います。
夏は騒いで、切なくなるだけじゃありません。夏と言えばスポーツ!
青春を全力でスポーツに掛ける。仲間とともに流す汗は、泥にまみれていても何よりも美しい。そんな楽曲は「潔癖男子!青山くん」のED「太陽がくれた季節」です。
ご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、この楽曲はカバーです。元は1972年に放送された落ちこぼれサッカー部と熱血教師を描いたドラマ「飛び出せ!青春」の「青い三角定規」が歌う主題歌であることから、サッカーつながりでの起用と考えられます。その上、エンディングの途中で梶原一騎先生原作の「赤き血のイレブン」を彷彿とさせる作画に変わるのも見どころ。第1話で大笑いしました。これはニクい!
楽曲以外の部分がハイセンス過ぎて面食らいますが、楽曲も「70年代スポ根」を見事に体現しています。アツすぎるホーンセクション、アツすぎるギターのチョーキング、音数が減るブレイクではストリングスが悩める若者の心を表現。汗と涙と友情が渾然一体となったアツすぎる世界観は、昨今の楽曲にはない「ひたむきさ」を感じずにはいられません。
お次は、不思議な中毒性がある「異世界はスマートフォンとともに。」のED「純情エモーショナル」について。
王道のアニメソングの手触りに、要所要所でハッとする地味ながらも強烈なフックが効果的に散りばめられています。特に鍵盤のコードワークやフレージングは、非常に高度なアレンジでありながらも「シンプルにカッコいい」ラインを絶妙に攻めてきます。この躍動感が楽曲の肝となって何度でも聴きたくなる中毒性を生み出しています。