アニメ業界ウォッチング第33回:吉田健一が語る「キャラクターデザイン」に求められる能力

2017年05月28日 12:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

“アニメーター”として携わるキャラクターデザインの仕事


── 「エウレカセブン」の前に「OVERMANキングゲイナー」(2002年)がありましたね。吉田さんのほかに、中村嘉宏さんと西村キヌさんの名前がキャラクターデザインとしてクレジットされていますが、どのように役割分担していたのですか?

吉田 まず、キヌさんには「ラフに描いてほしい」とお願いしました。びっちりと描きこむのではなく、「こんな感じのキャラ」という原案程度にしてもらって、そのフワッとした絵を中村くんが描きなおす。当時、キヌさんはやりたいことがたくさんあって、絵を上げてくるのが早かったんです。中村くんはキヌさんほどスピーディーではなかったけれど、衣装も含めてデザインするうえでは、とても正確に描いてくれる。その中村くんの精緻な絵を、僕がアニメーション用に描きなおす。そういう役割分担でしたから、最終的なキャラ表は、ほぼ僕が描いています。

── 「キングゲイナー」での吉田さんは、“アニメーションディレクター”ともクレジットされていますが?

吉田 ええ、「キングゲイナー」ではデザイナーよりも、アニメーターのスタンスから関わらせてもらいました。だから、デザイナーさんたちには、けっこう辛らつなことを言いましたよ。メカデザインは安田朗さんで、最初はキングゲイナーの胸に6つか7つ、弾帯が付いていたんです。6つか7つだと、動画で描くときに目で追える数だから、作画的に面倒なんです。3つなら、何となく描いても描きやすいし、2つよりは多いと認識できる。だから、弾帯を3つ以上にしたかったら、6つや7つではなく「いっぱい」にしてくれ、とお願いしました。そういう作画上の制約や効率を1つひとつ説明しながら、デザインを直してもらいました。ほかには、アナ姫のスカートに飾りがいっぱい付いていたので、このデザインのまま走ったらどうなるか、ラフに作画してみて「ほら、動かすとわからなくなっちゃいますよ」と説明して、シルエットだけ残したシンプルなものに直してもらいました。

── たとえば、「機動戦士ガンダム」(1979年)でも、安彦良和さんが大河原邦男さんのメカデザインを描きなおしましたよね。それと似たことでしょうか?

吉田 それはあったと思います。線を減らすのではなく、線を止める場所、流す場所が重要なんです。「ガンダム」の場合、「ここで線を止められては困る」という個所について、安彦さんが整理されていると思います。大河原さんのデザインは、たくさん線が描いてあっても、そのメカ特有のシルエットを押さえたうえで細かいパーツを加えていけば、ちゃんと描けるんですよ。最近のメカデザインは、細部のパーツ自体が個性的な形をしているので、ササッと描けないんです。

── 「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014年。以下、G-レコ)の主役メカ、G-セルフは安田朗さんのデザインですね。G-セルフの設定画も、吉田さんが描いたのですか?

吉田 桑名郁朗くんと分担して描きましたが、素立ちのものは僕が描きました。動かすという前提からすると線の多いデザインですが、「これ以上、線を減らしてしまったら、安田さんの絵ではなくなるな」と思う寸前で、止めているんですよ。“安田さんっぽいポイント”がいくつかあって、そこを省略してしまうと、もう安田さんのG-セルフではなくなってしまう。「キングゲイナーのときよりは考えて描いたんだよ、ごめんなさい」と安田さんに謝りたい(笑)。現在のメカデザインに関しては、とっくに手で描いて量産する限界をこえていると思います。それでも手描きで動かしているのは、アニメーターさんたちの情熱でしかなくて、それがいい意味で鬼気せまる作画として表われるのでしょう。アニメーターとしては「シンプルで、なおかつすごくインパクトのあるデザイン」をお願いしたいけど、それも難しいでしょうね。

── メカデザインにも、元デザインと作画用デザインがあるんですね。

吉田 「G-レコ」の仕事に入るとき、「機動戦士Vガンダム」(1993年)の設定を取り寄せてみたら、佐野浩敏さん(クレジットではメカニカルデザイン協力)が描いたモビルスーツの作画参考図が出てきました。元のメカデザインを、線を止めやすい、あるいは流しやすいフォルムに描きなおしてあるんですよ。あまり外部に出ていない資料なんですが、これは大変な仕事だと思いました。そういう労働をしながら作画監督までこなすのは、とても難しい。「メカデザインを描きなおして作画監督も兼任するのは、安彦良和さんがやっていたじゃないか」と言われそうですけど、あそこまでの仕事をこなしているのは日本のアニメ史上、安彦さん1人ではないでしょうか? あんなすごい人と僕らを、簡単に比べないでほしいですね(笑)。

画像一覧

関連作品

交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1

交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1

上映開始日: 2017年9月16日   制作会社: ボンズ
(C) 2017BONES/ProjectEUREKAMOVIE

交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい

交響詩篇エウレカセブン ポケットが虹でいっぱい

上映開始日: 2009年4月25日   制作会社: キネマシトラス/ボンズ
(C) 2009 BONES/Project EUREKA MOVIE

交響詩篇エウレカセブン

交響詩篇エウレカセブン

放送日: 2005年4月17日~2006年4月2日   制作会社: ボンズ
キャスト: 三瓶由布子、名塚佳織、藤原啓治、山口太郎、根谷美智子、宮野真守、水沢史絵、志村和幸、チョー、松本保典、大木民夫、石森達幸、中村彰男、浅野まゆみ、青野武、山崎樹範、辻谷耕史
(C) 2005 BONES/Project EUREKA・MBS

ガンダム Gのレコンギスタ

ガンダム Gのレコンギスタ

放送日: 2014年10月3日~2015年3月27日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、高垣彩陽、福井裕佳梨、逢坂良太、辻親八、藤真秀、田中敦子、広瀬彰勇、木下浩之、水野龍司、たかはし智秋、中井和哉、小清水亜美、子安武人
(C) 創通・サンライズ

OVERMAN キングゲイナー

OVERMAN キングゲイナー

放送日: 2002年9月7日~2003年3月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 野島裕史、かわのをとや、小林愛、鬼頭典子、子安武人、水城レナ
(C) SUNRISE・BV・WOWOW

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

関連リンク

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事