アニメとゲームの違い
─音楽面でアニメとゲームに違いはございますか?
松尾 違いますね。まず大きく違うのは「セリフがあるかどうか」です。最近はゲームもしゃべるようになりましたが、ゲームの場合、しゃべっていない時間のほうが圧倒的に長いので、ムービーとかでなければ、セリフのない状態で曲を書くことが多いです。つまり、セリフをじゃましないようにするのがアニメであり、セリフのない部分を補って書くのがゲーム、という感じがありますね。
もうひとつ違うのが、カメラの位置です。数メートル離れたところから常に人を映し、かなりカメラに近い状態なのがアニメです。すぐにドラマが始まるため、登場人物の心情であるとか、どういった気分でいるのかとか、そういうところをメインに曲を書くことが多いんです。ゲームの場合は、たとえば草原の真ん中に1人でぽつんといたり、全体の世界観を表現する曲が多いです。
─発注時に渡される資料も違ってくるのでしょうか?
松尾 アニメとゲームの違いというより、プロジェクトによって資料は違ってきます。ムービーまでできている場合もありますし、少ない時にはシナリオもなく、メニューしかないこともあります。
─アニメの作曲では、どのように資料を参照されますか?
松尾 原作があればまず原作を読んで、その次にシナリオ、絵コンテがあれば絵コンテも読んで、ということになりますね。メニューで「こういう感じの曲」と発注が来るんですが、絵コンテがあって入りの部分がわかると、曲の始め方の雰囲気をどうしたらいいかわかりやすいので、やはり絵コンテがあったほうがいいですね。
─曲のタイトルはご自身でつけられるのですか?
松尾 いえ、私は考えてないですね。レコード会社の担当の方がメニューを下地に考えられています。
─シーンごとに作曲されるのですか?
松尾 映画だとシーンに1対1で曲を書くのですが、TVの場合、最初はあるシーンのために作るのですが、そのシーン限定というわけではありません。「こういうところに使えたらいいな」とあくまで汎用の曲なので、監督さんの判断で別のシーンでも使われることがあります。
―音響監督さんによって、お仕事のやり方ややりやすさは違いますか?
松尾 メニューの出し方も音響監督さんによって本当にさまざまです。よくお仕事をご一緒する岩浪美和さんは作家にまかせてくれるので、やりやすいですね。
細かく指定されるのも、それはそれでやりやすいのですが、それ以上のものにはならないというか、絵には非常に合っているけれども、音楽と絵が科学反応を起こして相乗効果といったことにはならないことが多いので、まかせていただいたほうがおもしろいことができるというのはありますね。
編曲にあたってのこだわり
─松尾さんは編曲家としても活躍されています。どのような点にこだわって編曲されますか?
松尾 ケースバイケースですね。「なるべく原曲を変えないでください」と言われる作曲家の方もおられますし、「どんどん拡大解釈して、好きなようにやってください」と言っていただける場合もあります。
─「涼宮ハルヒの弦奏」では「ハレ晴レユカイ」と「God knows...」の編曲をされています。
松尾 これはもともと「涼宮ハルヒの憂鬱」(2006、2009)の劇中歌のオーケストラコンサートをやるというのがありまして、伴奏をオケでアレンジするプロジェクトでした。バンドものとオーケストラだと、聴き映えするフレーズも違いますし、できることも違いますので、そのまま持ってくるのは無理があり、オーケストラに合った形でアレンジを行いました。なので、コード進行とメロディ以外はほとんどオリジナルといっていい状態ですね。