異色作「ベターマン」の生まれた時代と環境を、米たにヨシトモ監督が振り返る【アニメ業界ウォッチング第53回】

アニメ2019-04-22 19:00

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米たにヨシトモ監督が「勇者王ガオガイガー」(1997年)に次いで、サンライズでつくりあげたアニメ「ベターマン」(1999年)がBlu-ray BOX化される。90年代後半~00年代前半は、作家性を重視したオリジナルアニメの宝庫であり、「ベターマン」は「笑ゥせぇるすまん」(1989年)でブラックな笑いを得意としていた米たに監督の手腕が縦横に発揮されたホラーテイストの作品だ。木村貴宏氏のデザインによる美少女キャラクター、竹谷隆之氏の創造したクリーチャーなど、いま見ても色あせない魅力に溢れている。
また、「ベターマン」が制作されたのは、サンライズが事業部制に移行して間もない時期だった。「ベターマン」が生まれたのは、一体どんな時代だったのだろう? 米たにヨシトモ監督に、20年前の日々を振り返っていただいた。

「ガオガイガー」が“表”なら、「ベターマン」は“裏”?


── 米たに監督は、「勇者王ガオガイガー」が初めてのサンライズ作品でしたね。

米たに 監督としては初ですね。高橋良輔プロデューサーには、「ガオガイガー」以前にも企画で声をかけていただいたことがありました。その企画が形にならなかったので申し訳ない……という理由もあったようですが、私が良輔さんに呼ばれたときには、すでに隣の部屋で「ガオガイガー」の企画会議が始まっていたんです。そんなことも知らずに「やるの? やらないの?」「やります!」という会話を交わし、「じゃあ、隣で会議やってるから」と部屋に通され、そのまま企画会議に参加しました。その日まで勇者シリーズの監督を任されるとは知らされてなかった私が、いきなり「勇者シリーズはこうあるべきだ!」と会議で熱弁してしまいました(笑)。

── 「ベターマン」は、サンライズ第3制作事業部の小林真一郎さんがプロデューサーでしたね。

米たに 小林さんとは「鎧伝サムライトルーパー」(1988年)で、仕事をしたことがありました。そのときは、各話演出と絵コンテですね。その頃から、面白そうな作風の人物と思われていたようです。その後、「ガオガイガー」終了間際に、「今後は事業部として個性を出していかなくてはならない。ついては、ハイターゲット向きの作品を考えてくれ」と、小林さんに相談されました。そこで企画を出したのが「ベターマン」と「BRIGADOON まりんとメラン」(2000年)でした。


── 「ベターマン」と「まりんとメラン」は同時に考えたのですか?

米たに いえ、私の中ではもっと前から考えていた企画です。その当時は、オリジナル企画をつくれる人材が身近に少なかったので、重宝がられたのかも知れません。第3制作事業部としても一本柱では難しいので、「ガサラキ」や「アルジェントソーマ」、「ウィッチハンターロビン」といった路線、それと並行して、米たにラインの2つで進めていこうという意図があったんじゃないでしょうか。それが、「ガオガイガー」からの流れである「ベターマン」だったわけです。

── 作品内容に、小林さんからはオーダーはあったのですか?

米たに ハイターゲット向きということで、どうも「新世紀エヴァンゲリオン」風のものを求めていたようです。私には、それはちょっと向いていないと感じました。結局、その流れは、同じ時期に小林さんがプロデュースした「ガサラキ」へ集約されたようです。私としては、以前から怪獣物で、女の子が襲われるようなホラーゲーム風の作品をアニメでできないかと考えていました。

── なぜ怪獣物だったのでしょう?

米たに 3~4歳のころに「ウルトラマン」が放送されはじめて、私の子どものころは怪獣ブームだったんです。もちろん「ゴジラ」も見ていましたし、怪獣の存在感は強烈でした。もう、自分の血肉として怪獣が宿っているんです(笑)。ところが「ベターマン」の頃は、特撮物が廃れていた時代です。特撮物、怪獣物の息吹を絶やしてはならないという強い想いがありました。もし今の時代に怪獣物を作るのであれば、今風のデザインにアレンジしなければならない。それで、新しい怪獣のイメージを提案しました。


── レトロであってはいけないということですか?

米たに 単にレトロな怪獣を出しても、オジサン世代しか着いてきてくれないと思いました。若い世代にとって、怪獣物を楽しむための入り口となるような企画にしたかったんです。

── 「ガオガイガー」を見ていたファンに、続けて「ベターマン」を見てもらいたいとは考えませんでしたか?

米たに そういう気持ちは、当時はありませんでした。「ガオガイガー」が表なら、「ベターマン」は裏。夕方枠の子ども向けアニメである「ガオガイガー」では描けなかった、深夜アニメならではの面白さを「ベターマン」では追求したつもりです。「ベターマン」と「ガオガイガー」の世界観を一緒にしちゃえばいいんじゃない? と言い出したのは、ほかでもない小林プロデューサーです(笑)。それまでは、脇役の一部が共通していて「あれ?」と思わせるぐらいのつもりでした。

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