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中国のオタクに徐々に広まる特撮人気と、広まらない特撮玩具人気
以前の記事でも書いているように、近年の中国では娯楽分野全般に関して何かと難しい空気が漂っており、オタク分野、日本の作品に関しても厳しい状況が続いています。しかしそんな状況においても盛り上がっているジャンルはいくつかあるそうで、なかでも「日本の特撮作品」はこの数年で急速に存在感を増しているそうです。
中国では現在「仮面ライダー」や「ウルトラマン」の新作を含む各シリーズの配信が行われていますし、これまで中国本土向けの配信がなかったという「スーパー戦隊」も「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」の配信が始まっています。また中国のオタク界隈でも、特撮関連の話題が増加していることは感じられます。
しかし、中国のオタク界隈における日本の特撮作品の人気や注目が高まるとともに、日本の特撮作品に対する不満や批判の声なども増えているようです。中国のオタクな方の話によると近頃の中国の特撮好きなオタクからの不満で特に目立つのが
「玩具を売るために玩具の新装備を宣伝して活躍させるストーリー展開」
だそうです。
もちろん中国でも「商売として玩具を売らなければならない」という知識はあるそうですが、それとは別に「玩具を売るためにストーリーが犠牲になるのは我慢できない」という考えも強く、特撮関連の玩具に関する物欲や、玩具市場も含めたジャンルとして楽しむ考えはあまりないとのことです。
それに加えて、特撮番組に合わせて売り出される玩具が「今の中国の特撮好きなオタクが欲しいと感じるものではない」という事情もあるので、作品内の販促展開的なものに対する反発が強くなってしまうのだとか。
さらにこのあたりに関しては
「今の中国の特撮好きなオタクは、昭和のウルトラマンから間を置かずにウルトラマンティガなどの平成作品に飛び、さらにその後『現代の』仮面ライダーやウルトラマンから本格的に特撮に入ったので、日本の特撮ジャンルの制作方針や市場環境の変化を意識する機会がないままだった人が多いです」
「昔から中国のオタクの根底にある『子ども向け要素が強調されるのが受け入れられない』という考えの影響もあります。特に特撮は『子ども向け』としてオタクから嫌われていた過去もあるので……」
といった指摘もありました。
中国のオタク層の特撮に対する思い出や体験というのは、少々特殊なところがあります。中国では90年代に昭和のウルトラマン作品がテレビで放映されて大人気になりましたが、当時の最新の日本のアニメなどと比較されて、「特撮=時代遅れで子どもだまし」といったイメージも形成されてしまいました。実際、比較的最近まで中国のオタク界隈に「特撮はオタクが見る価値のあるものではない」という空気があったのは確かです。
その後、中国のオタク界隈に「ティガ」を子どもの頃に見て育った下の世代が合流して昔のイメージが薄れていったことや、日本の最新の特撮作品が入ったことにより「特撮はオタクも楽しめるジャンル」というイメージになってきているようですが、それでも時おり子ども向け要素に対する不満が噴出してくるのだとか。
中国のオタクな方からは
「現在の中国のオタクの中の特撮ファンは、昭和や平成三部作の頃のウルトラマンの認識のまま、急に最新の特撮制作事情および環境にぶつかったことによるとまどいがありますし、玩具を売るための番組作りを嫌う人も多いです。日本のオタクと違って特撮玩具を楽しんだ経験がないのです」
といった話もありました。
しかし中国のオタク層からの不満はあっても、日本の特撮、特にウルトラマン関連商品が中国で売れていないわけではなく、子ども世代の間では「ウルトラマン」の玩具やトレーディングカードは大人気だという事情もあるそうです。
また作品内に出てくる玩具に文句を言うオタク層も、しっかりした作りのグッズに関する需要は高いそうで、たとえば特撮関連のフィギュアなどを扱うブランド「S.H.Figuarts(エス・エイチ・フィギュアーツ)」などは、中国のオタク界隈で「どうやっても手に入らない!」と悲鳴が出た商品も少なくないといった話が聞こえてきます。
このあたりの事情に関して、中国のオタクな方からは
「これは特撮ファンに限った話ではないのですが、中国のオタクはまだ日本のように趣味にお金を使う、推しにお金を使うという考えはあまりなく、手を出すグッズに関しても、価格やレア度など一般的な価値を意識する傾向があります。周りにもわかりやすくアピールできますから。これは模型やフィギュアが中国のオタクが集める関連グッズの中心にあることの理由のひとつでしょう」
といった話もありました。
以上のように、日本の特撮は中国の特撮ファンに関しては少々扱いが難しいところもあるようです。ただ中国では、オタク層も趣味嗜好や価値観の変化のスピードが速く、それに加えて特撮に関しては現代の新しい作品とその関連商品で育っている下の世代もいますから、今後またさらに特撮の扱いが変わっていく可能性も考えられます。
特撮に限らず、中国では独自の環境で育ったオタク層だからこそ存在する、日本のオタクとは異なる感覚、楽しみ方というのが時おり表に出てきます。そういった中国独自の事情や変化に関しても引き続き追いかけて紹介させていただきたいと考えております。
(文/百元籠羊)