作曲家・岩崎太整インタビュー　アニメ「スプリガン」のサウンドトラックは「殴って勝つ」少年漫画の世界観を踏襲した音楽！

ニューヨーク録音のオープニングテーマと、ハワイ録音のエンディングテーマ

── オープニングテーマ「Seeking the Truth feat. YAHZARAH」とエンディングテーマ「Ancient Creations feat. Shing02」は、どのようなコンセプトのもと、作っていったのでしょうか？

岩崎　オープニングテーマは、アバンタイトルからつなげて使うということで、「Theme of SPRIGGAN」と同じく「殴って勝つ」というのをテイストのひとつにしようと思いました。どちらも、僕がイメージする原作のテイストを音楽にしたという感じです。ただ、あまりにも男っぽくなってしまうのはイヤだなと思って、女性ボーカルを立てようと。

── それがヤーザラ（YAHZARAH）さんですね。どのような方なのでしょうか？

岩崎　友人のタリク・カーンからの紹介です。タリクはニューヨーク在住のエンジニアで、アンダーグラウンドヒーローというかブルックリンのボスみたいな人で、僕は数年前に彼のスタジオで一緒にレコーディングしたことがあったんです。それで、「誰かいない？」と相談したら、ヤーザラを紹介されたんです。彼女はレニー・クラヴィッツのバッキングボーカルをやっている人で、力強いサウンドにできるだろうと。ルックスもかっこよくて、「スプリガン」のイメージに合うと思いました。

── 歌詞は英語詞で、岩崎さんと二宮愛さんの共作ですね。

岩崎　オープニングテーマの歌詞は悩みどころでした。英語歌詞の場合、我々日本人が思っている以上に、何を伝えたいかをクリアにしないといけないんですね。「スプリガン」は全世界配信されるので、そのスタンダードに合わせる必要があり、Netflix側と何度も話し合いながら、作詞していったんです。

── そこらへんは日本の感覚と大きく違いますね。

岩崎　そのときにNetflix側から、歌詞のスペシャリストとして名前が出てきたのが、Shing02さん（シンゴツー）でした。「え、Shing02？」と思って（笑）。僕は彼とも一緒に曲を作ったことがあったんです。


── Shing02さんはエンディングテーマの作詞者兼ボーカリストですね。

岩崎　彼と一緒に仕事をするなら、歌詞のアドバイスをもらうだけじゃなく、作詞して歌ってもらおうと。それで声をかけたら快諾してくれて、彼の住むハワイでボーカル録りをしたんです。

── ここでもまた海外レコーディングが。

岩崎　オープニングテーマはニューヨークで録ったので、今回のボーカル曲は二宮愛の「One Day」以外は全部、海外レコーディングとなりました。

── 岩崎さんの人脈を駆使して、世界のいたるところでレコーディングされたのが、「スプリガン」の音楽なんですね。

岩崎　プロデューサーの大胡から始まって、自分に縁のある人たちとつながっての制作になりました。コロナ禍だったので、いつもより余計に縁をたどるしかなかったという部分もありますね。海外に行って、直接彼らと制作することはできませんでしたが、仕事という意識がいつも以上に薄くて、自分にとってすごく特別なサウンドトラックになりました。アニメの配信と同時にサウンドトラックのダウンロード＆配信も始まるのですが、海外リリース元のミランレコーズ（Milan Records）も友人のJean-Christophe ChamboredonがCOOを務めているんです。

── ミランレコーズというのは、どういう特色を持つレーベルなのでしょうか？

岩崎　アメリカの映画音楽専門レーベルの老舗です。「スプリガン」は世界的な規模の作品ですが、音楽に関しては商店街的というか、スモールサークルの中で作った感覚があって、楽しかったですね。

── 世界を股にかけたスモールサークルという感じで、スケールがすごいです（笑）。アニメの配信とサントラの配信＆ダウンロードが同時というのは、珍しい例なのではないかと思います。

岩崎　これは僕から、同時に出してほしいとお願いしました。TVアニメだと、シリーズが大詰めに入ったあたりで、サウンドトラックのCDが出るというのが一般的でしたが、Netflixは全話同時配信なので、音楽もそのタイミングで聴いていただきたいなと。こういうやり方は今はまだ黎明期なんですけど、今後、方法論として確立していくのではないかと思います。

岩崎太整プロフィール

いわさきたいせい／作曲家。代表作に映画「SR サイタマノラッパー」シリーズ、映画「モテキ」、映画「巨神兵東京に現わる」、アニメ「血界戦線」シリーズ、アニメ「ひそねとまそたん」、映画「竜とそばかすの姫」など。
映画「モテキ」で第35回日本アカデミー賞 優秀音楽賞を、映画「竜とそばかすの姫」で第45回日本アカデミー賞 最優秀音楽賞を受賞。

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