【インタビュー】気心の知れた仲間と新たな挑戦へ。TVアニメ初監督を務めた碇谷敦が語る「錆喰いビスコ」への思い

2022年03月29日 16:000

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アニメ的なレイアウトは、なるべくやらないように心がけています


── シリーズ構成はベテランの村井さだゆきさんです。

碇谷 村井さんは製作委員会側からの推薦で、願ってもない方に参加していただけたと思いました。初監督作品なので不安もあったんですけど、村井さんが加わってくださったことで、大きな力を得た気がしました。

── 脚本に関して語っていただきたいのは、やはり第1話~第3話の時間操作です。いずれも村井さんの脚本で、原作のエピソードを巧みに入れ替えて、同じ1日の昼の出来事と夜の出来事が交互に描かれていきました。

碇谷 原作通りの展開だと、ミロや黒革といったメインキャラクターが顔を揃えるのが第3話くらいになってしまいそうだったんです。ビスコを含めたこの3人が物語の柱なので、時間をうまくシャッフルして第1話から全員を登場させようと。そのための脚本を村井さんに書いていただきました。

── ある意味、視聴者の物語読解力を信頼した構成だったと思います。

碇谷 昼のシーンと夜のシーンではっきり分かれていたので、違う時間を描いていることが伝わりやすいかなと思いました。この構成によって、キャラクターの段取り芝居を省くことができて、物語のテンポがよくなるという効果もありました。僕は、状況説明のための段取り芝居が好きじゃなくて、なるべく省いたり、後でまとめて見せたりしたかったんです。そういう意味でも挑戦が成功したと思いました。ただ、もう少しわかりやすくできたかも、という反省もあります。

── 絵的な見せ方の部分で、こだわった点はありますか?

碇谷 アニメ的なレイアウトは、なるべくやらないように心がけています。カメラを引くんだったら一気に引いて、寄るときも一気に寄るみたいな、実写映画的な構図を心がけました。また、カメラのパン(カメラを左右に振ること)もあまりしないように気をつけました。動かすにしても、ちょっとだけという感じで。今までずっと一緒にやっていたスタッフが多いので、そういう意図はうまく浸透させることができたと思います。

── スタッフクレジットで注目したのは、各話の作画監督の多さでした。第1話は浅利さん、第2話は井川さんとおひとりずつだったんですが、そこから増えていって、たとえば第6話は碇谷監督も含め、8人の名前が作画監督としてクレジットされていました。

碇谷 確かに作監に何人もの名前がクレジットされているんですけど、みんなチェックするだけでなく、みずから原画もやっているんです。

── 監督と原画は、両立できるものなのでしょうか?

碇谷 僕は、ほかの監督よりも音響や編集をスタッフに任せている部分が多くて。編集の木村祥明さんも前から一緒にやっていた人なので、信頼できるんです。それがあって作画の現場にいる時間が長く取れたということで、本当にみんなに助けられている感じです。その分、原画は誰よりも多く描いてやろうと思ったんですが、浅利さんと井川さんの手の早さに負けました(笑)。あの2人にもすごく助けられました。


── スタジオでの作業は総じて円滑だったということでしょうか?

碇谷 そうですね。作画スタッフも「ID:INVADED」のときに僕が声をかけて集めた人たちなんですけど、そのときの条件が、「朝方でマジメに毎日スタジオに来る人」だったんです(笑)。時間にルーズな人がいると、マジメに出てきている人が割を食うんですよね。忙しくなって猫の手も借りたくなっても人を加えることなく、最初に集めたスタッフだけでがんばってみようと、みんなで話しました。

── 美術・クリーチャー設定の曽野由大さんも、大事な役割を担ったおひとりだと思います。

碇谷 曽野さんは「ID:INVADED」で美術デザインをやっていただいて、「錆喰いビスコ」に出てくるようなクリーチャーは彼の得意分野なので、お願いしました。話好きな人なので、打ち合わせは盛り上がりましたね。楽しんで描いてくれたと思います。

── 各種クリーチャーを描くうえで監督がこだわったのは、何でしょうか?

碇谷 エスカルゴ空機や日光戦弔宮(にっこうせんちょうぐう)は、巨大な生き物が兵器と合体してできたものなので、兵器の部分は現実の日本にもあるようなリアルな造形を目指しました。そして、生き物の部分は気持ち悪い感じにはしないようにしようと心がけました。

── 「錆喰いビスコ」は背景美術も見どころが多かったです。最初の忌浜(いみはま)の街並みから始まり、日本でありながら現実とは違う風景が、たくさん描かれていました。これらは美術監督の三宅昌和さんのお仕事ですね。

碇谷 三宅昌和さんも「ID:INVADED」から一緒にやってきた、気心の知れた人です。忌浜の街はいわゆるサイバーパンク的な無国籍なデザインなんですけど、「ブレードランナー」や「AKIRA」といった有名な先行作品に似すぎないように気を配りました。具体的には、昭和30~40年代くらいの街並みの資料を探して、こんな感じの街にしてほしいと、三宅さんにお願いしました。

── 戦後のバラックや昔の街並みが残りつつ、現代的なビルが建っているような。

碇谷 そうそう、そんなイメージです。

── 「びすこ部」でも話題に出ていますが、過去の映画やアニメへのオマージュが、ところどころに散りばめられているのも、「錆喰いビスコ」の特徴です。

碇谷 これは、もう趣味ですね。自分が監督なので、誰にも止められず、好きにやることができました(笑)。「びすこ部」では明かしていないネタもたくさんあって、たとえば第9話で、黒革が錆のプールに落ちる直前に、キノコに操られた黒服の敵が出てきますが、あいつが持っていた銃は「ターミネーター2」でシュワルツェネッガーが持っていたレバーアクションのショットガンです。ただ、オマージュネタについては、あまり僕から言わないほうがいいのかなと。みなさんで見つけて、楽しんでいただければうれしいです。

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関連作品

錆喰いビスコ

錆喰いビスコ

放送日: 2022年1月10日~2022年3月28日
キャスト: 鈴木崚汰、花江夏樹、近藤玲奈、富田美憂、斎藤志郎、津田健次郎
(C) 2021 瘤久保慎司/KADOKAWA/錆喰いビスコ製作委員会

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