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中国でオタク向けアニメの吹替え版が増加中、日本の声優需要は減少?
中国では、昨年の娯楽コンテンツ全般に対する規制強化以降の環境に対応するための動きがよくも悪くも出ているようですが、そんな新しい動きのひとつとして、
「オタク向けアニメの中国語吹替え版の配信の増加」というのが目に付くようになってきているとのことです。
「鬼滅の刃」のように、以前から中国語吹替え版の配信が行われていた作品もありますが、近頃中国語吹替え版の配信が始まった作品については、大まかなところでは
「かぐや様は告らせたい」、「小林さんちのメイドラゴン」、「坂本ですが?」、「Dr.STONE」、「干物妹!うまるちゃん」、「ポプテピピック」、「ホリミヤ」、「魔王学院の不適合者」、「理系が恋に落ちたので証明してみた。」などがあり、ハッキリとした増加傾向にあるとのことです。
もちろんこれまで中国に入った日本のアニメに吹替え版がなかったわけではありません。中国のテレビで放映される際には吹替え版になるのが普通でしたし、ネットの配信でも一般向けアニメや対象年齢の低い作品、特撮作品などは字幕版だけでなく中国語吹替え版も配信されているケースは珍しくありません。
しかし中国の日本のアニメ視聴者は、昔から正規非正規問わず対象年齢がやや高めの日本のアニメには基本的に字幕で接していたことや、中国では実写の吹替え声優と比べてアニメ声優の層が薄く、演技も子ども向けにオーバーになりがちだったことなどから、大人向けのアニメ作品を求める中国のオタク層の間では中国語吹替え版に関してはかなり否定的な空気もあったそうです。
さすがに最近では中国語吹替え版に対する空気も落ち着いてきてはいるらしいのですが、ひと昔前の状態を知っている中国のオタクな方からすれば、オタク向けアニメの中国語吹替え版が増加するというのはちょっとした衝撃なのだとか。
中国のオタクな方々から聞こえてくる話によると、近頃の「中国語版の声」の増加やそれにともなう「日本の声優の需要の減少」は、新作アニメの配信だけでなく、ソーシャルゲームなども含む中国のオタク関連分野、いわゆる二次元関連の分野全体で目に付く傾向でもあるらしく、その理由についてもイロイロなものが考えられるそうです。
その中で比較的影響が大きそうなものとしては、まず中国国内の規制の流れで、上から来ている自国文化や価値観の強調のために「『外国語の声』よりも『中国語の声』を前に出すべきだ」という動きがあるそうです。
中国では以前から国内の各メディアやコンテンツにおける外国語の使用に対して非推奨的な態度でしたが、近頃はこれがさらに厳格で強めな空気になってきている模様です。またこれに関しては現在の中国で急速に拡大している「二次元市場」の需要に追いついていない中国の声優を育成していくという方針もあるのでは……といった話も聞こえてきます。
次に最近の環境では、日本の声優の人気や評価を活用したビジネスが困難になっていることや、中国特有の事情による炎上リスクが見えてきたことなどから、「日本の声優の起用が昔ほど手堅い選択ではなくなってきた」という事情もあるそうです。
中国の二次元業界で日本の声優は、高騰し続ける中国の有名芸能人や俳優のギャラと比べれば安価で安定して高いレベルの演技をしてくれるうえに、過去に演じた人気キャラのイメージも活用できるということで重宝されていました。
しかし最近の新型コロナの影響や規制の強化により、中国では「日本の声優」を活用したビジネス、現地でのイベント開催や番組の配信も困難になってきています。また中国に入る日本の声優関連情報が増え、拡散するスピードも速くなっている昨今の環境では、靖国関係など中国特有の事情による敏感な問題や、中国社会では日本と比べて強烈なスキャンダル扱いになりがちな不倫などが「かなり怖い火種」になっているそうです。
こういった事情のほかにも、中国の二次元系の声優のレベルが向上し層も厚くなってきたことや、中国のオタク層の世代交代や、アニメの視聴者層の拡大などにより、吹替え版に対する抵抗が薄れているといったことも影響しているようですし、単純に規制強化で配信できる作品が減っているので作品ラインアップを強化したいのでは?といった話も出ているなど、中国語版の吹替えの増加についてはさまざまな要素、背景が見て取れるようです。
ちなみにこの辺りの事情に関して中国のオタクな方に聞いて見たところ、
「吹替え版は自分の好みではないが、現在の規制が強まり作品の配信が不安定になっている状況では仕方がない、吹替え版で見るほうが楽だという客を狙うのは理解できる」
「自分の好きな作品を吹替え版で見る気にはならない。中国の声優のレベルも上がっているのは理解しているが」
などといった話が返ってきましたので、何かと複雑なところもあるようです。
またほかにも
「声優の需要は減っているものの、吹替え版の増加などからも明らかなように、以前と比べて一般向けの扱いとなり作品視聴者の規模やグッズの需要は拡大している」
「しかしファン層が拡大した結果、作品の内容に対する中国の価値観による批判のリスクも上がっている」
といった話も出てきました。
近頃のさまざまな変化が積み重なった結果、中国のオタク界隈における作品の受け止め方や、中国の二次元系ビジネスも、以前とはかなり違った状況になってきているのかもしれませんね。
(文/百元籠羊)