【インタビュー】音楽でいろいろな遊びができる作品でした──作曲家・伊賀拓郎、「スローループ」の劇伴を語る

2022年02月22日 12:000

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フライパンやバケツのような日用品も、楽器として使っています


── 土屋さんの音楽メニューについては、どのように感じましたか?

伊賀 脚本が全話分でき上がっていたこともあって、土屋さんは、この曲は何話のこのシーンの、このカットからこのカットまで使う曲ですと、曲の尺(時間の長さ)まで含めて細かく指定してくださったんです。TVアニメの音楽メニューとしてはかなり稀な、具体性の強い発注で、各曲のイメージがつかみやすかったですね。

── 使われるシーンに合わせて曲の長さまで指定されるということは、でき上がった映像を見て作曲する「フィルムスコアリング」に近い感じですね。

伊賀 そうですね。しかもオンエアを見ると、ほぼすべての曲が、音楽メニューで想定されたシーンにちゃんと使われていて、監督も土屋さんもすごいなと思いました。たとえば30曲目の「きた!」は第3話で小春がイワナを釣り上げるシーンなどのために作った曲ですが、針にかかってから釣り上げるまで、毎回ほぼ曲と映像の尺がぴったり合っていました。TVアニメの劇伴は普通、似たシーンに同じ音楽を繰り返し使っていくものなんですけど、「スローループ」では少しの例外を除いて、音楽メニューに指定されたシーンのみに、その曲が使われているんです。だから、作曲した曲は漏れなくオンエアで流れて、作曲家としてはありがたい限りですね。

── 「スローループ」の劇伴ならではの特色として、ほかにはどんなものがありますか?

伊賀 ひよりの亡くなったお父さん(山川信也)は、変な楽器を集めるのが趣味だったという設定があったので、劇伴にも変な楽器を使ってみました。たとえば、竹製の三連スライドホイッスル。民族楽器なんですけど、チープな作りで微妙にピッチが狂っていて、面白い音がするんです。ほかにも、名前も知らない民族楽器をいろいろ手に入れて使っています。それから普通に家にある日用品ですね。お古のフライパンやデッキブラシ、バケツを打楽器にしたり、部屋に転がっていたレジ袋をクシャクシャさせた音や、空のアルミ缶に水を入れて、缶を叩いた音などを入れたりもしています。


── 日常描写がメインで、食事を作るシーンも多いので、日用品を楽器として使うのは作品的にも合っていますね。

伊賀 曲としてはっちゃけるだけでなく、使う楽器を工夫することで、自分なりに監督の要求に応えていこうと思って。基本的にストリングスの編成が小さいということもあって、多くの曲に変な楽器や日用品の音が入ってますね。すべて、自宅で僕が演奏した音です。フライパンの底のいろいろな個所を叩きながら、ここらへんの音がいいな、いや、こっちかなと、楽しんで録っていきました。それから、ハンドパンですね。

── ハンドパンというのは、なんでしょうか?

伊賀 第1話のひよりの幼いころのシーンで、お父さんが膝の上に乗せていた丸い音階打楽器です。作中に出てくるので、劇伴でも使いたいなと思って、ネットで検索したんですけど、ちゃんとした物を買おうと思うと、十何万円もするんですよ。何人かのパーカッション演奏者にも聞いてみたんですけど、誰も持ってなくて。仕方なく代用品として安価なスリットドラムという楽器を2台買ってみたんですけど、結局これは使いませんでした(笑)。普通にピアノを弾いたほうがいいということで。

── 本当に、いろいろなことを試されているんですね。19曲目の「ワクワク」に中南米のスティールパンのような音が入っていて、もしかしてあの音がスリットドラムなのかな?と思ったんですけど、それはまた別の楽器なんですね。

伊賀 「ワクワク」で使っているのは、シンセで作ったスティールパンです。スティールパン特有の南国感、カリプソ感は、スリットドラムには出せないんです。

── それから、おもちゃのピアノや鉄琴の音も入っているなと思いました。

伊賀 使ってますね。今回、グロッケンやマリンバといった鍵盤打楽器の音は全部シンセなんですけど、曲によって本物らしい音とおもちゃっぽい音を使い分けて、似た印象にならないように気を使いました。さらに、自宅にあった子ども用のグロッケンを実際に演奏した曲もあります。

── 本当にいろいろな楽器を使われたんですね。

伊賀 音でたくさん遊ぶことができた作品でしたね。フライパンを叩くにしても、録った音をエフェクトなしにそのまま使える作品は、限られてくるんです。たとえばファンタジー系のアニメだったら、エフェクトをかけて神秘的な音色に加工すれば使えますが、フライパンそのままの音は作品に合いません。今回はそのまま使った曲もあれば、フライパンの音をパソコンに取り込んで音階を作っていくという試みもやっていて、本当に面白かったですね。

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スローループ

スローループ

放送日: 2022年1月7日~2022年3月25日   制作会社: CONNECT
キャスト: 久住琳、日岡なつみ、嶺内ともみ、名塚佳織、村上奈津実、井上ほの花
(C) うちのまいこ・芳文社/スローループ製作委員会

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