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中国で吹き荒れ続ける娯楽分野全体を対象にした規制、プラットフォーム側の自主規制の嵐
過去のコラムでも書いたように、今年の中国では文化方面や娯楽市場に対する規制がどんどん厳しくなり、国産外国産問わずさまざまな娯楽分野と作品で規制や忖度(そんたく)による自主規制が多発しています。なかでもネット関係は特に圧力が強いようで、ソーシャルゲームや「流量明星」とも言われている、ネットでアクセス数を稼ぐ有名人や芸能人が特に重点的な規制目標となっているのでは……といった話も聞こえてきます。
またコンテンツの内容に関しても、政府の考える「こうあるべき」という内容や価値観以外を規制するようになってくるなど、全面的な整頓に入ろうとしているという節もあるそうです。
日本からでもわかりやすいところでは、実在非実在問わず、中性的・女性的だとされるような男性や、いわゆるボーイズラブ(BL)なども厳しい扱いになっているそうですし、現在の中国の歴史観から外れる中国の英雄英傑・重要人物の描写や、そういった存在を侮辱していると受け取れる内容に関しても、強い批判と規制が行われるようになっている模様です。
さらにこういった規制の圧力は上からだけでなく、中国のネットに整備された通報システムを利用した下からの突き上げや炎上を受けて拡大していくものもあるので、現在の中国の娯楽コンテンツ界隈には息苦しい空気が漂っているそうです。
そんな環境なので、日本産のコンテンツに対しても大小さまざまな規制及び自主規制が断続的に発生していますが、9月に発生した以下の2つは特に大きな注目を集めました。
・中国本土で運営されていた中国版「Fate/Grand Order」において、実装されている中華系サーヴァントの大部分に対して修正が入る。名前やイラスト、プロフィールやボイスが修正あるいは取り下げとなり、その結果、中華系サーヴァントの多くがなんだかよくわからない存在になってしまった。ストーリー上でも修正後に使用されているクラスIDの名前で表示されるので、いよいよ意味不明なことに。
・中国の各動画サイトで配信されていた「ウルトラマンティガ」が突然配信中止になる。ほかにも「Re:ゼロから始める異世界生活」の第1期や「神様になった日」、中国国産アニメの「刺客伍六七(シザー・セブン)」の第1期といった作品も配信中止に。なかでも「ウルトラマンティガ」は現在の中国でもっとも人気のあるウルトラマン作品だったことから、中国のネットでは大きな話題となった。
その影響がどれだけあったのかは不明だが、「ティガ」に関しては、数日後内容に修正を加えたバージョンが再びアップされ視聴可能にはなった模様。しかし同時期に配信中止となったほかの作品の復活に関しては不明。
どちらの事件でも、現地のファンに限らずコンテンツ界隈は大混乱に陥ったそうで、特に「ウルトラマンティガ」のほうは、一時期中国のネットやSNSの検索ワードで上位に来るなど、なかば炎上状態になっていたとのことです。
一応後から調べてみると、規制の直前に政府から関連のありそうな通知が出てはいたようですが、こちらもやはり基準や範囲など具体的なところについて明確ではなかったので、突然の規制あるいは自主規制が行われたという印象になるのは避けられなかったようです。
どちらの事件でも、現地のファンに限らずコンテンツ界隈は大混乱に陥ったそうで、特に「ウルトラマンティガ」のほうは、一時期中国のネットやSNSの検索ワードで上位に来るなど、なかば炎上状態になっていたとのことです。
一応後から調べてみると、規制の直前に政府から関連のありそうな通知が出てはいたようですが、こちらもやはり基準や範囲など具体的なところについて明確ではなかったので、突然の規制あるいは自主規制が行われたという印象になるのは避けられなかったようです。
もっとも、業界事情に詳しい中国のオタクな方からの話では
「上から明確な規制基準、ガイドラインが提示されないのはプラットフォーム側やコンテンツ制作側も変わらないので、結局は空気を読みながら忖度をして自主規制を行っていくしかないのでしょう」
という意見もありました。現在の中国では、どの分野、どの立ち位置でも娯楽コンテンツ関係で安全にやっていくにはどうすればいいのかわからない状況になっている……といった見方もあるとのことです。
中国のオタクな方によると、これまでであれば規制キャンペーンなど一時の嵐の間だけおとなしくしておけばいいという認識が強かったそうです(もちろん名指しの主要なターゲットにならなければですが)。
しかし近頃は、中国の娯楽コンテンツ全体に対する圧力が強まり続けていて、ターゲットが別のところに移ることや、どこかで空気が好転することを期待できそうにないという認識が広まってきているのだとか。
そして現在も続く圧力とそれによって頻繁に発生する規制や自主規制に直面して、中国のオタク界隈でも、中国の規制におけるさまざまな問題についていよいよ意識せざるを得なくなっているそうで、
「このところの規制によって、中国では規制に関するガイドライン的なものが提示されることがほとんどないので、事前に対処するのも今後に備えるのも困難であるということを痛感した」
という話もありました。
ちなみにこの辺りに関しては
「規制の基準を明確にすると、上のほうが使いにくい、基準を確定することにより現時点におけるさまざまな問題が表面化してしまうことを関係者が嫌う、などといった中国の事情も関係しているのでは……」
などといった話も出てきました。
これはレーティング制度の導入が中国では現実的ではないと見做される理由のひとつでもあるそうですし、このガイドラインがハッキリしない、規制は結局、政府の風向き次第ということで、中国の娯楽コンテンツ界隈では、これまでグレーゾーン的なものがさまざまなところで発生していました。
現在の状況に関して、中国のオタクな方の話では
「中国の娯楽コンテンツは基本的にやったもの勝ちで、業界全体の地位向上や安定を図ろうという動きがない、あるいは、きちんとした形になることがなかったので、現在の状況に対して業界全体で対応するということができていません。言ってみれば個別に伝手を頼ったり、自主規制を行ったりして、標的にならないようにアピールしている状態です」
という意見もありました。
どちらにしろ、ガイドラインが提示されない中国では、クリエイターもプラットフォームも自主規制をどこまでやればいいのかわからないので、安全マージンを取って守りに入る以外にないようです。
そして考えられる限りの忖度をした自主規制を行うことになるので、現在のような状況では際限なく自主規制の範囲が広まってしまう、何をやっても「問題になるかもしれない」というリスクばかりが意識され、クリエイターと作品を視聴するファンのどちらにも委縮した空気が漂っているのだとか。
現在の中国の娯楽分野においてまだ希望がもてる分野は
ちなみに中国の娯楽業界すべてがお先真っ暗というわけではないらしく、映画業界などは不安がないわけではないものの、現在の中国ではまだ景気がいい、希望が持てる分野となっているそうです。
中国で公開される作品の盛り上がりだけでなく、中国で行われる映画祭で人気が過熱してチケット転売が大きな問題になったりしているそうですし、日本の配給会社との関係も比較的良好であるといった話も聞こえてきます。
中国の業界事情にも詳しいオタクな方の話によれば、現在も中国の映画市場が現在も比較的安定した活動を維持できている理由として大きいのは
「中国では映画がもっとも審査検閲体制が整っているから」
ということがあるそうです。
環境の変化が早すぎて、管理する制度も取締を行う側の体制も追いついていないネット関係のコンテンツと違って、中国の映画に関しては審査検閲の制度が昔から整備されてきましたし、業界側にも政府側にも経験やノウハウが蓄積されています。そしてその結果、現在のような規制の嵐が吹き荒れる状況下においても比較的安全に活動を続けることができているそうです。
結局、中国市場で残っているのが「歴史的に審査検閲体制が整っている映画業界」というのには、なんだか皮肉なものを感じてしまいますね。
(文/百元籠羊)