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「来訪者編」のサウンドトラックは、自分としてもひと皮むけた感があります
── サスペンスやアクションの曲は、今回のサントラCDの中核をなしていると言っていいと思います。どのようなコンセプトで作っていったのでしょうか? 岩崎 個人的なことなんですけど、「魔法科」の仕事を始めた6年くらい前から今に至るまでというのは、こういう音を出したいんだけど、どうやってたどり着いたらいいのかということを模索していた期間だったんです。それがやっと「来訪者編」で一歩近づいた、ひと皮むけたという自覚があって。そういう意味でも、今回のサウンドトラックは気に入っているんですよね。
── 自覚している変化というのは、たとえばどこでしょうか? 岩崎 ひとつは音の派手さですね。どうやって自分の納得する派手さを出すかというのはずっと考えていたポイントで、それができるようになった感触がありました。
── 聴いていて不思議な音だなと思ったのは、6曲目の「The parasite smiles」です。虫が飛び回っているような音から始まっていて。 岩崎 なるほど、これが虫の音に聞こえるんですね。言われてみれば、そうかも。これはもともとは人の声なんです。それを逆回転させてエコーをかけ、さらに逆回転させて戻すという手の込んだことをやっていて。サスペンス、アクション系の曲は1つひとつそういうことをやっているので、相当、時間をかけているんです。今あげてくださったように、聴く人にインプレッションを与えているのなら、成功したということでしょうね。
── サスペンス曲には必要な、不穏さ、不気味さが出ていたと思います。アクション系の曲では、16曲目の「The final hit」がサントラの中では一番長い4分越えの曲で、聴きごたえがありました。途中でいったん静かになって、そこから展開が変わるんですよね。 岩崎 これは第10話パラサイトとの最終決戦用に作った曲です。まず寄生された人間と戦って、いったんそれが終わると今度は本体が出てきて、その間に達也と仲間たちが話し合うシーンもあってという起伏に合わせて作っていって、最終的に巨大化したパラサイトを達也と深雪が倒すところで派手に盛り上げるという。作曲しているときは脚本しか手元になかったので、それぞれのシーンのだいたいの秒数を脚本から類推して、作っていきました。
── 第10話のバトルシーン限定の曲を作ってほしいという発注があったんですか? 岩崎 いや、脚本を読んだら、「来訪者編」はクライマックスが2つあったんです。それで、最終話のクライマックスのために作った曲とは別に、もう1曲クライマックス的な曲があったらいいよねと思って、この曲を作りました。
── 最終話は当然まだ見ることはできないんですけど、クライマックス用の曲というのは、どれですか? 岩崎 21曲目の「Tatsuya 2.0」です。結局、「The final hit」とはまったく別の曲になって、クライマックス用の曲を2曲作ることになり、カロリーを使いました(笑)。
── 「Tatsuya 2.0」は重厚感とともに始まって、曲の終わりはすごく晴れやかなんですよね。どんなふうに使われるのか楽しみです。それから、今回もボーカル入りの曲がありますね。まずは1曲目に入っている「Vibrant」。第1期でも参加していたLotus Juiceさんとのコラボ曲です。 岩崎 そもそもボーカル入りの曲を作ってほしいと監督や本山さんから言われたことはなくて、第1期のときから勝手に作っていたんです。以前、劇場版の打ち上げで「ご歓談ください」という時間に第1期のサウンドトラックCDがかけられたんですよね。Lotus Juiceと作った「code break」が流れたときに、近くにいた女性陣が「え、こんなかっこいい曲あったっけ?」と言ってるのが聞こえて、すごいショックを受けて(笑)。劇場版ではLotus Juiceの曲はなかったから、じゃあ、「来訪者編」でもう1回作ってやろうじゃないかと(笑)。そういう個人的な理由で「Vibrant」を作りました。
── 「Vibrant」は、話数が進むごとにだんだん使われ始めた感がありました。 岩崎 まあまあ使ってもらってるから、よかったなと思います。第9話が祭りでしたね(笑)。
── 女性ボーカルによる「Miyuki 2.0」という曲もあります。第4話の深雪とリーナの直接対決のシーンが印象的でした。 岩崎 この曲のボーカルはサンプリングです。ボーカリストを呼んでない分コストはかかってませんが、加工してコーラスをやっているように聴かせたりして手間はかかっている曲です(笑)。これも曲の中に展開をいろいろ作って、カットの切り替わりやカメラアングルの変化に合わせやすいようにしたのを、うまく使っていただいたなと思います。
── ほかにもドラマチックな楽曲や、感情を揺さぶられる曲がたくさん入っていて、「来訪者編」のサウンドトラックもすごく聴きごたえがありました。「魔法科」のアニメ化は今後の展開が気になるところですが、音楽でやりたいことはありますか? 岩崎 とりえあえず、「謎BGM」を作らないでどこまでできるか、ですね(笑)。これは冒険なんですよ。日常シーンのコミカルなノリに従うようなユルい音楽を、どうやって作らないようにしようかというところで、「謎BGM」と言われるものができてしまったと思うんですけど、あえてそれをやらなかったら、どうなるのか。1回それをやってみたいですね(笑)。
(取材・文/鈴木隆詩)
岩崎 琢プロフィール
いわさき たく/1968年1月21日生まれ。東京都出身。東京藝術大学作曲科卒業。
音楽を担当したアニメ作品に、「R.O.D -READ OR DIE-」(2001)、「天元突破グレンラガン」(2007)、「刀語」(2010)、「ヨルムンガンド」シリーズ(2012)、「文豪ストレイドッグス」(2016)など多数。
Twitterアカウント @taque68 https://twitter.com/taque68
CDデータ
■魔法科高校の劣等生 来訪者編 オリジナルサウンドトラック
初回仕様限定盤CD 3,000円(税別)
アニプレックス/2020年12月16日発売
※描き下ろし三方背BOX付き
〈収録曲〉
01. Vibrant
02. mikamik amore
03. The visitor
04. Army of her
05. Clover
06. The parasite smiles
07. Explanation
08. Twitch
09. Kalimba
10. Resistance
11. Crisis1
12. Grab it
13. Irritated
14. Crisis2
15. Crisis3
16. The final hit
17. Saudade
18. Spirits
19. Trackers & fugitives
20. Cornered
21. Tatsuya 2.0
22. Miyuki 2.0
23. Fearful valentine
(C) 2019 佐島 勤/KADOKAWA/魔法科高校2製作委員会