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「もってけ!セーラーふく」は突然変異的に生まれた曲です
── 〈物語〉シリーズが20年の後半の中心とすれば、前半は「涼宮ハルヒの憂鬱」と「らき☆すた」だったと思います。「涼宮ハルヒ」からは、挿入歌の「God knows...」と「Lost my music」が収録されています。 神前 「涼宮ハルヒの憂鬱」には基本的に劇伴作曲家として参加させていただいて、作品の中で流れる挿入歌も神前が書いたほうがいいだろうというプロデューサーの判断でした。僕にとっては、TVアニメの劇伴を最初に担当させていただいた作品です。
── 「God knows...」はアニメファンなら誰もが知る曲です。 神前 この曲が育ったのは、京都アニメーションさん、平野綾さん、畑亜貴さんの力ですね。長門がギターを聴いてハルヒが歌うというライブシーンを、リアルにアニメで描くという衝撃がすごかったです。僕からすると「God knows...」のような曲はアウェーなんですけど、それが多くの方に受け入れられたというのは面白いなあと思いました。
── 「God knows...」はアウェーだったんですか? 神前 得意分野ではないです。僕はギターが弾けないので、ギターロックは自発的には作らないジャンルで、この曲も演奏者のお力を借りた部分が多かったですね。たとえば、レコーディングでギターを弾いてくださった西川進さんには、「宇宙人の長門が弾くギターなので、ものすごく難しくしてください」とお願いして、イントロなどを考えていただきました。なにせこの頃は作曲家としては駆け出しで、バンドのレコーディング自体が初めてだったんです。
── 「涼宮ハルヒの憂鬱」の劇伴については、どういう思い出がありますか? 神前 TVアニメの劇伴は初めてだったので、勝手がわからないなりに、自分のできる限りのことをぶつけてみたという感じなんですけど、今聴き返してみるとやっぱり、それまでやっていたゲーム音楽の影響が残っていて、メロディが強くてリピートする曲が多いなあと思いました。
── 「涼宮ハルヒの憂鬱」の劇伴は、DISC4に5曲収録されていますが、コミカルな日常曲中心でした。 神前 ファンのみなさんの中では、そういう曲が強く印象に残っているみたいです。次の「らき☆すた」もそうですね。「らき☆すた」の仕事は物量がすごかったんです。歌ものが20曲、劇伴が80曲くらいありました。書いても書いても先がある長距離走みたいな作品だったんですけど、ここで作曲家としてひと皮むけた感じがありますね。「ハルヒ」の経験を踏まえて、成長できたと思います。
── 「もってけ!セーラーふく」は、日本レコード協会から「ゴールドディスク」認定された大ヒット曲です。 神前 さまざまなクリエーターとスタッフの力が化学変化を生み出した曲でした。畑さんの歌詞がまずはすごいですし、プロデューサーも現場でいろいろなアイデアを出してくれました。もともとのBメロの裏で鳴っていたシンセの音を、歌メロにしようとか現場で言い出されたんですけど、なるほどなと納得できて。僕が書いた曲というよりは、みんなの力によって突然変異的にできてしまった曲です。
── 突然変異というのはわかるように思います。本当に今までにないタイプの曲だったので。クリエーターの方からよく聞く言葉で、「メロディは出尽くしてしまっている」というのがありますが、神前さんはどうお考えですか? 神前 そうだとは思いますね。ただ、組み合わせの妙があり、新しい曲が生まれる余地はあると思います。
── 神前さんが、今回、ぜひ入れたかったという曲について、教えていただけますか? 神前 ひとつは「かんなぎ」の「最後のラブレター」です。ナギ役の戸松遥さんに歌っていただいた曲で、原作コミックス最終巻の特装版についていたCDにしか収録されていないので、もはや新品としては入手できない曲になっていたんです。今回収録しないと、二度と聴いていただく機会がないかもしれないと思って、選びました。曲としても出来がいいですし、いろいろなスタッフの愛情がこもっている曲です。
── 「最後のラブレター」は、作詞が原作者の武梨えりさんなんですよね。 神前 作詞もそうですし、作曲も半分は武梨先生です。MIDIでデモ音源をいただいて、それを僕がふくらませたので、共作という形になっています。それから、西川貴教さんの「awakening」。「Fate/EXTRA Last Encore」の劇伴をアレンジしたメロディを使っていて、クオリティ的に気に入っているので、ぜひ入れたいなと。
── 劇伴のメロディを使ってほしいというのは、西川さんから出たアイデアだったそうですね。 神前 そうなんです。「Fate/EXTRA Last Encore」のオープニングテーマ「Bright Burning Shout」のカップリング曲として作ったので、作品とリンクさせたいということで。メインテーマをアレンジしたのですが、西川貴教というボーカリストの力が僕のメロディを化けさせてくれて、非常に感動しました。彼がオーケストラをバックに歌ったコンサートで「awakening」を聴いたのですが、すごかったですね。もともとスケール感のあった曲が、より壮大になっていました。
── ほかには、いかがでしょうか? 神前 まだまだいっぱいあるんですけど、たとえば、河野マリナさんの「アラタなるセカイ」です。少し専門的な話なんですけど、ジャンルはカントリーで、メロディをすべてペンタトニック・スケールで書いているんです。それなのに、音階の制限を感じさせない普遍的なメロディができたなあと。テイラー・スウィフトに代表される21世紀になってからのカントリーポップが僕はすごく好きで、それに近づけたかなと。作曲者として達成感がありましたね。
── NHKの情報バラエティ「MAG・ネット~マンガ・アニメ・ゲームのゲンバ~」のオープニングテーマ「りある_りあるが_あんりある」という曲も収録されています。 神前 これも入れたかった曲です。当時シングルがリリースされたんですけど、10年以上前なのでご存知ない方も多いのではないかと。NHKの番組の主題歌ということで、僕の大好きな菅野よう子先生リスペクトの曲になってます。「カードキャプターさくら」の「プラチナ」みたいな、疾走感のあるキラキラした曲を書いてみたいじゃないですか。
── なるほど、まさにそういうメロディとアレンジですね。