「私は櫻井智でいたいんだ」という気持ちを実感できた引退期間を振り返る──1990年代を駆け抜けた人気声優・櫻井智インタビュー!【アイドルからの声優道 第5回】

2019年10月31日 10:250

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声優の3点セットがまったくできず

――ただ、ミュージカル女優に専念する意識もなかったわけですよね。コンサートもしつつ、PCゲーム「誕生 ~Debut~」ではプロモーションとしてアイドルユニット「サブリナ」のメンバーとして活動してもいました。

櫻井 それも、どうしても参加してほしいという話が来たんですよ。

――巡り巡ってくるものがあるんですね。

櫻井 そう、私はずっと「ラッキー」でやってきているんですよね(笑)。

――でも、「誕生」でアニメやゲームの世界と縁ができたわけではなかったですね。では、「ドラゴンリーグ」はどういった縁で舞い込んだオファーだったのでしょうか?

櫻井 事務所と交流があった方だと思うんですけど、プロデューサーの方からオーディションに誘われたんです。私が舞台をやっているのを知っていたみたいで。私もなんでもチャレンジしてみたかったので受けたんですけどそうしたら合格をいただきました。

――レモンエンジェル以降、声優のレッスンや勉強はしていましたか?

櫻井 してないです。だから、なぜ受かったのか(笑)。やっぱりラッキーですよね。

――舞台を始めたことが声優仕事につながった感覚はありましたか?

櫻井 声優という場所へ行く前に舞台をやっていてよかったとはすごく思いますけど、舞台の芝居をアニメで生かせたかどうかというのはちょっとわからないですね。

――では、「ドラゴンリーグ」では苦労しましたか?

櫻井 しました。まず、舞台はよほど間違った方向に芝居をしない限り、自分の間でも作っていけるんですけど、アニメは口パクが決まっているので、その中で演技をしなければいけない。でも、台本を見ながら台詞を言う、かつ絵を見ながら口に合わせる、という3点セットが全然できないんですよ。最初から難しいという意識もあったし、私がとちると前後の人たちも何回もやり直しをするので緊張感が生まれるし。最初の頃は「どうしようどうしよう」でしたね。周りの方々はレッスンを受けてきたプロなのに、その方々の中に入って右も左もわからないところからスタートするのは本当に寿命が縮まる思いでした(笑)。

――共演者とはどんな思い出が?

櫻井 周りの声優さんたちとしゃべる余裕はなかったですね。元々、人見知りですし。スタジオにいるときの私って素ですからね。ずっと台本とにらめっこですよ。音響監督さんとのやりとりがあるだけ。ご飯に行ったことも、ほとんどありませんでした。

――全39話の作品でしたが、自身の成長を感じる瞬間はありましたか?

櫻井 なかったです。やっと「あっ、キャラクターとやっと息があってきた」と思えてきたのは「マクロス7」でしたね。

 

 

私たちの息が合ってきたと思えたのが「マクロス7」

――「ドラゴンリーグ」の次に「赤ずきんチャチャ」がありました。こちらはオーディションですか?

櫻井 確かオーディションだったはずです。こういうアニメがあるんだけど受けてみない? みたいな感じで。でも、なぜマリンちゃんだったのかはわからないです。

――「ドラゴンリーグ」のときに手応えをつかめないまま終わったのにまた声優に挑戦するのは怖くなかったですか?

櫻井 怖かったですね。だからやっぱり、放課後特訓組で(笑)。チャチャ(CV:鈴木真仁)とマリンちゃんとやっこちゃん(CV:赤土眞弓)とかお鈴ちゃん(CV:並木のり子)あたりがだいたい放課後に残されていました。

――しいねちゃん役の日髙さん以外は新人声優が名を連ねていましたよね。リーヤが香取慎吾さんで。

櫻井 そう、慎吾さんは忙しいので、すぐに出てしまっていたんですよね。でも、最初は今日も居残りだ、今週も居残りだって感じだったんですけど、なんか途中から当たり前のようになってきて。

――たなかかずやさんも音響監督デビューだったらしいですね。

櫻井 そうなんですか。今、知りました(笑)。

――放課後組で仲良くなりましたか?

櫻井 そうですね。まあまあしゃべりました(笑)。人見知りはいまだに変わらないですからね。でも、やっこちゃんとはよくしゃべりました。

――では、「チャチャ」では鍛えられましたね。

櫻井 ですね。声優としての技術を完全習得することはなかったですけど鍛えられたと思います。

――そして、先ほどタイトル名があがった「マクロス7」に参加するわけですが、やっとつかめたと感じたのは中盤くらいですか?

櫻井 そうですね、中盤くらいで「あっ」って感じでした。最初は全然ダメだったんですけど、しゃべっていたらどんどんと口パクとなじんでくるようになったんですよ。やっと私たちの息が合ったというか、その気持ちよさがわかってきた作品でした。

――共演者の方で印象に残っている方はらっしゃいますか?

櫻井 基本的に自分からアプローチするタイプではないので、仲良くしゃべった記憶は少ないんですけど、ただ隣に座るのはいつも子安(武人)さんだったんです。アニメのアフレコスタジオって、最初に座った場所に、その後もなんとなく座ってしまうことが多い気がします。

――子安さんは、ミレーヌとのからみも多いガムリン役ですね。

櫻井 ガムリンさんはすごくやさしくて、多分私が不慣れなこともわかっていたので、いろいろとアドバイスをいただきました。隣りに座っててくれるだけで心強かったですね。

――ちなみに逆側の隣の方は?

櫻井 確か井上瑤さんでした。すごく安心感のある方でしたね。

――キャラクターとなじみ始めたことで、声優という仕事が楽しくなった感じでしょうか?

櫻井 はい。そのときから、やっとアニメとの一体感を得られ始めた作品ではありました。でも私、声優をやっていていまだにものすごい緊張感があるんですよ。慣れたという感覚はまだないです。ただ、歌も舞台もアニメも演じてるじゃないですか? その演じるということがすごく好きだという意識はあります。緊張感も好きで。ポジティブな緊張感ですよね。

 

 

櫻井智として存在していたい

――そして、「神秘の世界エルハザード」を経て、代表作のひとつとなる「怪盗セイント・テール」に臨まれます。

櫻井 「エルハザード」のシェーラ・シェーラは、ちょっと変わったキャラでした。「~でい!」みたいな江戸っ子で。「セイントテール」も最初の頃はいろいろありました。当然、スタートの頃はみなさん役を探るので。演じる側も音響監督さんもみんな。だから、「ワン、ツー、スリー!」という決めの台詞があるんですけど、1話と最終話では長さが違うんですよね。だから、どんどん進化していった感じです。途中から役的にもつかめて、楽しく演じていました。

――演じる中で工夫した点はありましたか?

櫻井 中学生の役なので、そういう意識は常に持っていました。私、普段はわりと声が低いんですよ。ただ、張ると高くなってああいうトーンになっていくんですよ。

――その頃、アイドル声優としても人気を博していましたが、実感はありましたか? ファンレターとかプレゼントとか。

櫻井 事務所で誕生日イベントをしたんですけど、そうすると事務所のビルの外まで行列がずらーっとできて、みなさんがプレゼントを持ってきてくださっているんです。だから、事務所から自宅まで車を何台も出して運んでもらいました。

――ちゃんと受け取っていたんですね。

櫻井 もちろんです! 全部開けました。あのときの嬉しさったらないですよ。私、お米が好きって言ったことがあって、お米が中に入ったマスコット人形を作ってくれた男の子がいたんですよ。それから、お皿だったり腕時計だったりネックレスだったりイヤリングだったり、本当にいろんなものをいただいて。嬉しかったですね。

――ただ、仕事の本数は多くなかったですが、それはセーブされていたのでしょうか?

櫻井 いえ、単純にオファーがきたものやオーディションに受かったものをやらせていただいただけでした。オーディションもそんなに受けていなかったんですね。今もそうなんですけど、声優だけを極めようという意識はないんです。いただけるお仕事に対しては全部受けたいという意識で。

――20代も後半に入り、将来をイメージし始めた頃かと思いますが、どのような将来像を描いてました?

櫻井 やっぱり、ずっと演じられたらいいなって思っていました。それは舞台も含め、もちろんアニメもですし、歌もです。櫻井智としてずっと存在していたいという思いがありました。それは今でも変わりません。

 

 

アニメのファンであって私のファンではないという魅力

――いっぽう、喉の衰えを理由に一度引退を決意されました。

櫻井 そうですね。多分、今思うと神経質になりすぎていたんですよね。マイナス思考が自分の中を取り巻いて。「なんで引退したんだろう」って思ってしまうんですけど、でもあのときの私にとっては切実な悩みでした。引退はしないほうがよかったですし、あの時間は無駄ではあったんですけど、でも100%無駄ではなかったんだとも思います。いろいろなことを考えられる時間ができたし、「私は櫻井智でいたいんだ」という気持ちを実感できたし。むしろ、あの時間を無駄にしてはいけないと思っています。

――引退宣言されたとき、今後は決まっていないとおっしゃっていて、引退後にはアルバイトを始めたともおっしゃっていました。

櫻井 はい、人生で初めてでした(笑)。だから本当に何も考えてないなかったです。

――今回、「櫻井智」として復帰するにあたって、声優が活動のメインとなるかと思いますが、その声優とはどのような仕事だと感じていますか?

櫻井 アニメが大好きな方ってものすごくたくさんいるんですが、私が(キャラクターを)演じてはいるんですけど、私のファンということだけではなく、まずはアニメやキャラクターのファンなんですよ。そこにすごく魅力を感じます。私も、「キャンディキャンディ」「はいからさんが通る」とか「ガンバの冒険」を見て育ちましたけど、声優さんという意識はありませんでした。それと似ていて、あくまでもアニメありきの私なんです。だから、アニメを大好きになってくれる力ってすごいんだなって思うんです。

――歌や舞台は自分自身が主役ですが、声優はキャラクターやアニメを立てる立場ということですね。そこに魅力を感じると。

櫻井 感じます。私、機械がすごく苦手なんですけど、復帰を機にTwitterやInstagramをやらせていただいてるんですね。そこでアニメ関係の投稿をすると、やっぱりいいねの数がすごく多くて。「みなさん、アニメが好きなんだなぁ」ってすごく感じますね。

――演じる、という意味で、舞台などとはどのような違いを感じますか?

櫻井 声優ってすごく特殊なお仕事だと思うんですよ。で、難しいという印象はすごく強いです、うん。どんなにうまい俳優さんでも、声優という場所に来ると違和感を感じるときがありませんか?

――ありますね。

櫻井 そういう意味で、声優のお芝居はすごく特殊だと感じますし、同じ世界に身を置いていて、声優さんの演技力ってすごいと思います。

――ちなみに、櫻井さんがすごいと思った声優さんにはどのような方がいらっしゃいますか?

櫻井 この声好きと思った声優さんは長沢美樹ちゃん。映画の「メイク・イット・ハプン」かな、その吹き替えでご一緒したんですけど、すごく合っていたんですよね。演技も好きでした。実際の人間に声を当てるので、よりナチュラルな感じに声を作られてはいたんですけど、今までに聞いたことがない長沢美樹ちゃんの声を出していたと思います。「えー、なんか素敵ー」って思いました。

――声優仕事で大事なことは何だと思いますか?

櫻井 いろいろな引き出しを持っていること。「ありがとう」でも、10人いたら10人みんなが違う「ありがとう」を言うと思うんですよ。もちろん、自分の感情を乗せていかないと伝わらなくて、機械的なありがとうは何通りあってもダメなんですけど。だから、普段からの人間ウォッチングとか、芝居につながるヒントってそのへんにいっぱい転がっているので、そういうのを見逃さず、自分の引き出しにしまっておくと役に立つときが必ず来ます。なので、普段から意識してアンテナを張っていいただきたいですね。

――櫻井さんも復帰後、「甲鉄城のカバネリ 海門決戦」や「蒼穹のファフナー THE BEYOND」、「進撃の巨人」に出演されました。回り道したからこそできた演技がありましたか?

櫻井 今持てるすべて、と言ったら大げさですけど、やっぱり私はここが好きなんだ、芝居が好き、声優が好き、というありがたい気持ちで吹き込ませていただいたつもりではあります。2年7か月ぶりに櫻井智としてまたお仕事をさせていただいて、本当にこんなに幸せなことはありません。

――今後、声優として演じてみたいキャラクターはありますか?

櫻井 最近ね、お母さんが多いんですよ。昔のファンの方からは、キャピキャピしたキャラクターもまたやってくださいと言ってくださるので、機会があればやってみたいですね(笑)。図々しい発言ではありますけど。

――ではこれからは、オーディションにも積極的に挑戦して。

櫻井 そうですね。いろいろなオーディションが来るといいなぁ。とにかく櫻井智はいろいろな仕事をさせていただきたいです。ぜひみな様にお伝えくださいませ。

 

(取材・文/清水耕司)

 

【イベント情報】

■櫻井智おかえり・ただいまLive「またあえたね」

・日時;2019年11月16日(土)

 昼の部:おかえりLIVE『またあえたね』:13時開演

夜の部:ただいまLIVE『またあえたね』:18時開演

・会場:新宿RUIDO K4

 

※チケットぴあで発売中

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放送日: 1994年~1995年   制作会社: 葦プロダクション
キャスト: 神奈延年、櫻井智、菅原正志、高乃麗、子安武人、速水奨、大林隆介、竹田えり、井上瑤、西村朋紘、中川亜紀子、陶山章央
(C) 1994 ビックウエスト/マクロス7製作委員会

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(C) 立川恵/講談社・TMS

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