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全体的に繊細で、冷たい雰囲気が漂った劇伴になりました
── サウンドトラックには、どのような楽器が使われているのでしょうか? 川井 ピアノ、ストリングス、フルート、ブラス(トランペット、トロンボーン)、ハープ、ホルンです。ピアノを中心とした劇伴にしてほしいというのがアニメ制作サイドの要望としてあって、それに加えてハープがかなり活躍しました。たとえば、「ユキのテーマ」ですね。本山さんのメニューには「音楽的には、お嬢様」と書かれていて、打ち合わせでは、野に咲く花のようであり、凜としたクレバーな女性だけど、「暴走」することもあり、象徴的なメロディを繰り返して、浮遊感、不安感を出してほしいという話がありました。それを受けて、ピアノではなくハープをメインに作ろうと思ったんです。ハープでメロディを弾くと、とつとつとした感じが出て、音の1つひとつにいい意味での人間的なムラが出るので、ユキのイメージに合いそうだなと思いました。
── ハープというと、女性的な音色というイメージがあります。 川井 僕はむしろ中性的な楽器だと思っています。いわゆるタラララ~とグリス(グリッサンド)すると優雅なんですけど、1本1本弾いていくと、高音ではきついピーキー(peaky)な音がして、ヒステリックというか、凜とした感じがあるんです。それで、ユキの繊細さとかツンデレ感を表現しようと思いました。それにハープは音の長さが意外と短いんです。特に高音はすぐに減衰するので、戦闘の曲でも活躍しています。
── 「闘い」というそのままのタイトルの曲があって、これが戦闘曲ですね。川井さんらしい、かっこいい曲になっています。 川井 メインテーマである「さいご」の戦闘アレンジです。「消滅都市」の劇伴は、アップテンポの戦闘曲は少ないというか、この1曲のみなんです。ほかは、戦いの前の重苦しい雰囲気とか、何かが迫ってくるサスペンスを表現した曲になっています。
── もう1曲、「潜入」という曲が、アップテンポでした。 川井 「潜入」は原作のゲームのポップな音楽を踏襲したリズムメインの曲で、主人公側にとって、物事が順調に進んでいる感じを表現しました。
── じわりじわりと迫ってくるような重苦しい戦闘曲としては、「劣勢」があります。 川井 まさしく、劣勢の曲です。同じメロディを使って、もっとテンポを遅くして重量感を増したのが「絶望」で、より追いつめられた感じを出してみました。
── 監督からのキーワードにあった「虚無感」というものを、川井さんはどう解釈しましたか? 川井 この作品における「虚無」というのは、感情が空っぽということではなく、感情はいっぱいあるんですけど、それをどう扱っていかわからず、何もやる気が起こらない、涙すら出ないという状況だと思いました。音楽メニューでも、そういう雰囲気を求められる曲が多かったですし、日常の曲にも、どこかそういう要素が入ってないと、この作品にはなじまないんじゃないかと思いました。それによって全体的に繊細で、冷たい雰囲気が漂った劇伴を目指しました。
── そのものずばり、「虚無」というタイトルがついた曲もあります。 川井 「虚無」は音楽メニューで言うと、失望、諦めの曲です。はっきりしたメロディをつけないでほしいというリクエストがあって、ピアノで同じフレーズをずっと繰り返す曲になっています。
── はっきりしたメロディがない曲は、ほかにもいくつかありました。 川井 たとえば、「緊張感」がそうです。何かが迫りくる緊張感を表現した曲で、監督が入れてほしいと言っていた「不快な音」が入っています。具体的にいうと金属音なんですけど、普段の生活の中では耳にしない音がいいなと思って、手持ちのサンプル音源を不穏な感じに加工して入れてみました。また、同じフレーズを何度も繰り返す曲ということでは、「模索」もそうですね。
── 「模索」はピアノとストリングスによる曲で、暗い中を足下を確かめながら一歩一歩進んでいる感がありました。逆に、やさしいメロディも、いくつかの曲で作られています。たとえば、「これから」がそうですね。 川井 「これから」は、メインテーマのアレンジで、仲間との絆をイメージした曲です。今回の劇伴は、メインテーマである「さいご」と「ユキのテーマ」、それからタクヤのテーマである「運び屋」がいろいろな曲の「種」になっていて、この3曲を元に広げていったという感じです。
── タクヤには、どのような音をイメージしましたか? 川井 心の底には熱いものを持っているんですが、普段は冷静で多くを語らないキャラクターだという説明が、監督や本山さんからありました。「運び屋」は、底にある熱いものをイメージした、勇ましい曲になっています。そのアレンジが2曲あって、「悲しき運び屋」はタクヤの後悔、「ぶっきらぼうな優しさ」はタクヤのやさしさをイメージしました。
── 「悲しき運び屋」は、アコースティックギターの哀愁を帯びた音色が入っていて、大人感があるなと思いました。 川井 やっぱりタクヤは、年齢的に大人ですからね。