「アニソン歌手」ではなく「ひとりの男」としての足跡を振り返る、水木一郎 デビュー50周年記念アルバム「Just My Life」レビュー 【不破了三の「アニメノオト」Vol.01】

2018年11月26日 18:000

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音楽ライターの不破了三です。この度、アキバ総研さんで「アニメノオト」という連載を始めさせていただくことになりました。1960~80年代の日本のテレビアニメの黎明期・発展期に生まれたアニメソングや劇伴音楽などについて、作詞家・作曲家・編曲家・歌手など、レジェンド世代の作り手たちのお話を中心に、ディスクガイド形式でご紹介していきます。時には、特撮やドラマ、バラエティ番組の音楽についても語っていくかもしれません。どうぞよろしくお願いします。

第1回目は、2018年10月24日に発売された水木一郎さんのCD「デビュー50周年記念アルバム”Just My Life”」です。誰もが知るアニメソングの帝王であり、みんなのアニキとして信望の厚い歌手:水木一郎が、今年、歌手デビュー50周年を迎えたことを記念して製作されたこのアルバム。歴代の人気アニメソング・特撮ソングを網羅したCD「水木一郎大全集」(1990~)、「熱風伝説」(1998)、「デビュー40周年記念 水木一郎ベスト」(2008)等、以前に発売された水木一郎ベスト盤とは全く異なるコンセプトで製作されているのが大きな特徴です。収録曲の半分以上は、1971年のテレビアニメ「原始少年リュウ」でのアニメソングデビュー以前の、歌謡曲・ポップス歌手として活動していた時期の歌を集約したものであり、それ以外の曲も、ヒットアニソンというよりは、水木一郎がみずからの歌手活動の節目として振り返る「自分にとって大切な歌」を中心にセレクトしているという印象があります。

 

収録曲も、1968年7月1日にリリースされたデビュー曲「君にささげる僕の歌」が当然1曲目かと思うと、まず軽く裏切られます。1曲目は、1966年に日本で放送されたアメリカのテレビ西部劇「シェナンドー」のテーマ。販促用ソノシートのために水木さんが歌った録音で、日本コロムビアからの正式デビュー前のため「初レコーディング曲」、歌唱名義も「早川昭」となっているという激レア曲からCDがスタートします。子どもの頃からアメリカン・ポップスやジャズ、映画音楽に親しみ、さまざまな歌い方を研究していたという水木さん。歌手の道を志し、最初につかんだレコーディングが、アメリカ民謡にルーツのある西部劇主題歌だったというのは、まさに本領発揮のチャンスだったのではないでしょうか。後の水木さんの歌声とほとんど違いのない、すでに完成された堂々たるボーカル・スタイルに驚かされます。さらに2曲目も、デビュー曲候補としてレコーディングされていたというラテン/タンゴ歌謡風の未発表曲「くちづけ」を本CDのために発掘収録。3曲目にようやくデビュー曲のカンツォーネ風歌謡「君にささげる僕の歌」が登場するという、まさに「水木一郎アーカイブ完全版」を目指した、入魂の選曲が行われています。

 

その後も、初CD化となる「霧の東京」や、西尾和子さんとのハーモニーが美しいデュエット曲「おやすみなさい恋人」「愛の世界」「ロマンス」などが続き、そのうちの1曲「ロマンス」も、やはりレコーディングはしたものの商品化はされなかったという幻の未発表曲となっています。このように、相当な水木一郎ファンであっても、なかなか身近に聴くことができなかった希少曲もふんだんに含まれています。聴き進むうちに、デビュー当時の水木一郎の真の姿が透けて見えてくるような気がしてきて、筆者を含め、当時を知らない世代のアニソンファンであっても、彼が歩んできた50年間の歳月の重みをいつの間にかしっかりと噛みしめているような感覚になります。これまでのようなアニソンベスト盤とは違ったアルバムを目指した意図は、ここにあったのではないでしょうか。

 

13曲目にして、ようやく誰もが知る特撮番組「仮面ライダーV3」のエンディングテーマ「少年仮面ライダー隊の歌」が登場。ここからアニソンオンパレードになるかと思いきや、やはりそうはならないのが本アルバムの面白いところ。NHK「おかあさんといっしょ」の2代目「うたのおにいさん」(1976年4月~1979年3月)を務めた経歴を持つ水木さんにとって、子ども番組の歌や童謡、教材用レコードなどもキャリアの中で大きな位置を占めています。そのことは、2011年から発売されたCD「水木一郎 キッズ ソング・ベスト!」シリーズが、2枚組CD3セット、総計161曲にも及ぶ大ボリュームとなったことからもよくわかります。本アルバムにも、こうした子どものための歌から、「おかあさんといっしょ」(NHK)より「こねこねねんど」、「みんなのうた」(NHK)より「なんのこれしき ふろしきマン」などが収録されています。

 

さらに、15曲目の「ロマンティック・アゲイン」は、青池保子原作コミックスのイメージアルバム「エロイカより愛をこめて」(1982/アルバムそのものは未CD化)からの収録。作詞:山川啓介、作編曲:大野雄二という黄金コンビによる知る人ぞ知る名曲です。この曲で水木さんは、コロムビアゴールデン・ディスク賞とゴールデンLP賞を同時に受賞したという、記念すべき曲でもあります。テレビ番組やアニメ作品という縛りがなく、自分の自由なイメージで歌を作ることができるため、10代の頃の気持ちがよみがってくるような感覚でレコーディングできた……と、後に語っている作品です。これもまさしく、50周年記念盤に収録されるべき1曲だと言えるでしょう。

 

また、アルバムのラストには、デビュー当時からの盟友であり、ともにアニメソングの歴史を築いてきた堀江美都子さんとのデュエット曲「和倉のあいの物語」(アニメ「りゅうおうのおしごと!」キャラクターソング)や、新しい世代のアニソンシンガー:ボイジャーとの共演作「オーブの祈り」(「ウルトラマンオーブ」より)がまとめられているなど、この50年間を共に歩んできた仲間たちへの想いにあふれた締めくくりとなっています。その最たるものが、ラスト曲「ハピネス」の存在です。

 

このアルバムの発売に先立つ2018年8月10日(金)、「水木一郎 デビュー50周年記念 特別公演 ~原点オンパレードだゼーット!~」がZepp Tokyoで開催されました。同様のコンセプトで製作された本アルバムの拡大版ライブといった内容で、ステージで披露された全42曲のうち、11曲が重なっています。そのライブの終盤には、水木さんもまったく知らないサプライズが待っていました。堀江美都子さんが発起人となり、極秘のうちに製作された50周年のお祝いソング「ハピネス」(作詞:堀江美都子&遠藤正明、作曲:影山ヒロノブ)を、これまでにステージで共演してきたアニソン・アーティスト仲間35名がステージに駆けつけて声を合わせて歌う……という特大のプレゼントが披露されたのです。この日、聴衆の誰もが胸を熱くし、水木さん自身も一瞬言葉を失うほどの驚きと感激の中で初お目見えした「ハピネス」は、豪華編成のビッグバンド・アレンジを施され、水木さん自身が歌うレコーディング・バージョンとして本アルバムのラストに収録されています。まさしく、50年間を共に歩んできた仲間たちとの絆が結晶化したようなこの1曲で、アルバムは幕を閉じます。

 

 

純然たるアニメソング・特撮ソングの収録曲は、ほんのわずか。しかし、アニメソングの50年間を身をもって体感するのに、これほどふさわしく、これほど重要なアルバムはないと言えるでしょう。私たちが外から見ている「アニソン歌手:水木一郎」という姿ではなく、「ひとりの男:水木一郎」自身が、その原点と50年間の歩みを振り返るという、内側からあふれでる想いに支えられた名盤です。

 

「ハピネス」の作曲を担当した影山ヒロノブさんは、このアルバムの邦題とも言える「歌こそ我が人生」というフレーズに対し、「最低50年キャリア積まないと言っちゃダメなセリフ」と、「先輩:水木一郎」への賛辞と、みずからの今後の人生とを重ね合わせてしみじみとつぶやいています。影山さんだけでなく、このアルバムを聴く誰しもが、そういう気持ちにさせられるはずです。アニメソングが好きならば。

 

(文/不破了三)

 

【商品情報】

■CD「水木一郎 デビュー50周年記念アルバム“Just My Life”」

・発売日:2018年10月24日

・価格:3,000円(税別)

・レーベル:日本コロムビア 

■収録内容

1.シェナンドー(早川昭/初レコーディング曲)

2.くちづけ(デビュー曲候補としてレコーディングしていた未発表曲)

3.君にささげる僕の歌(デビュー曲)

4.素敵な夜

5.初恋は死んだ

6.霧の東京(初CD化)

7.おやすみなさい恋人 with 西尾和子

8.愛の世界 with 西尾和子

9.ロマンス(未発表曲) with 西尾和子

10.売れない歌手(未発表曲)

11.誰もいない海

12.星に祈りをこめて

13.少年仮面ライダー隊の歌(「仮面ライダーV3」より)

14.こねこねねんど(NHK「おかあさんといっしょ」より)

15.ロマンティック・アゲイン(コミックスイメージアルバム「エロイカより愛をこめて」より)

16.道(「獣拳戦隊ゲキレンジャー」より)

17.なんのこれしき ふろしきマン(NHK「みんなのうた」より)

18.オーブの祈り(「ウルトラマンオーブ」より) with ボイジャー

19.和倉のあいの物語(アニメ「りゅうおうのおしごと!」キャラクターソング)

  雛鶴隆(CV:水木一郎)&雛鶴亜希奈(CV:堀江美都子)

20.ハピネス(50周年公演時にプレゼントされたお祝いソング)

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