【eスポーツ最前線】 第2回「PCメーカーの立場からeスポーツを援護する、ドスパラ(サードウェーブ)の「思い」とは?

2018年09月07日 19:000
サードウェーブの榎本一郎副社長(右)と、松原昭博・上席執行役員(左)

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ここのところ、急にその名を聞くことが多くなった「eスポーツ(e-Sports)」。アメリカを初めとする国々ではかなりの盛り上がりを見せているビデオゲームを使った競技であるが、日本国内ではようやく今年からその名を聞くようになった程度で、先進諸国との間の意識ギャップは相当に大きい状況だ。そもそも「eスポーツ」と言っても、それが実際にどのような形でプレイされ、どのように盛り上がっているのか、多くの日本人はあまり明確なイメージを持っていないのではないだろうか。そこで、この連載企画「eスポーツ最前線」では、日本における「eスポーツ」の取り組みをさまざまな面から取材し、その実態を明らかにしていこうと思う。


第2回は、ゲーミングPCブランド「GALLERIA(ガレリア)」で知られる「ドスパラ」を運営するサードウェーブが実施する、eスポーツに対する取り組みを紹介しよう。


日本のeスポーツ界を陰から支える「ドスパラ」が、eスポーツの本格普及に舵を取る

 

「ドスパラ」が販売するゲーミングPCブランド「GALLERIA」は、パーツのひとつひとつまでカスタマイズして購入できるハイエンドゲーマー御用達のPCブランドだ。写真は「GALLERIA GAMEMASTER GXF」


eスポーツにとって欠かせない機器といえば、まずPCがあげられるだろう。現在eスポーツの世界的なトレンドで中心になっているのは、「League of Legends」や「StarCraft II」「Overwatch」などのPCを使ったネットワーク対戦ゲームであり、これらのゲームを快適にプレイするためには、それなりの高性能を持ったゲーミングPCが必須となる。そんな国内のゲーミングPC業界において常に大きな存在感を示し続けてきたブランドが、PCショップ「ドスパラ」が手がけるゲーミングPCブランド「GALLERIA」だ。


「ドスパラ」は、過去20年以上にわたって、秋葉原などを中心にPCマニア向けのハイエンドPCを提供してきた老舗ショップである。20年以上の長きにわたって、PCマニア層のニーズを吸い上げ続け、彼らが最も欲しいと思えるようなスペックの製品を常に提供し続けているところに強みがある。そんな「ドスパラ」が今最も力を入れているのが、ゲーミングPCだ。事実、「ドスパラ」が手がける「GALLERIA」シリーズは、ユーザーからの評価も高く、多くのPCゲーマーが利用している。のみならず、さまざまなeスポーツの大会などで公式PCとして使われることも多く、業界からの信頼も厚い。


サードウェーブが2018年4月に東京・池袋にオープンさせたeスポーツ施設「LFS(ルフス) 池袋 esports Arena」。最大80台の「GALLERIA」PCがズラリと並ぶ様は圧巻だ


このように日本のeスポーツシーンを陰から支えてきた感のある「ドスパラ」であるが、ここ1年ほどの間に、eスポーツにかける熱量がグンと増してきている。その一例が、東京・池袋に2018年4月にオープンしたeスポーツ施設「LFS(ルフス) 池袋 esports Arena」(以下、LFS)だ(参照:https://akiba-souken.com/article/33832/)。このLFSを運営するのは、とりもなおさず「ドスパラ」を展開する株式会社サードウェーブ(実際には、同社の100%子会社である株式会社 E5 esports Works)。「LFS」のオープンこそは、同社が単なるゲーミングPCの販売だけでなく、eスポーツの本格普及に向けて打った大きな布石と言ってもいい。最大80台の高性能ゲーミングPCがズラッと並び、最大10名のチーム同士が対戦できるガラス張りの防音仕様のボックス型選手席なども備えた、この「LFS」を拠点に、日本のeスポーツ大会などを強力にバックアップしていく考えだ。


そんなドスパラ=サードウェーブだが、実は、これ以外にもeスポーツの本格普及に対して取り組んでいることがあるという。8月30~31日にかけて大阪で開催された「スポーツビジネスジャパン2018」で明かされた、同社のeスポーツへの取り組みや、その思いを取材した。


12枚のディスプレイを大画面モニターとして表示させる低価格システムを展示


「スポーツビジネスジャパン2018」の会場に入って感じたのは、そこが完全にリアルスポーツでのビジネスに関する展示会であり、eスポーツとはほぼ接点がないイベントであるということだった。そこで展示されているのは、たとえば、サッカーなどのスタジアム設備や、そのメンテナンス機器などが中心。リアルスポーツの中でもかなりインフラに近いようなサービスや製品の展示が多い。そんな中にあって、唯一異質な展示を行っていたのが、サードウェーブのブースだった。そこでは、eスポーツタイトルの一例として、エレクトロニック・アーツの「FIFA 18」を実際に対戦プレイしながら、12画面のディスプレイを1枚の大型パネルとして使った大型モニターにその様子を映し出すというデモを行っていた。「東京ゲームショウ」などであれば当たり前の光景ではあるが、このリアルスポーツの展示会において、こうしたPCゲームのデモというのは、かなり異質であった。

 

「スポーツビジネスジャパン2018」の展示会会場。eスポーツとは無縁のリアルスポーツビジネスの展示がほぼすべてを占めていた

 

そんな中でかなり異彩を放っていたサードウェーブのブース

 

しかし、一風変わった展示であるからこそ、デモには多くの来場者が足を止めており、おそらくは初めて目にするeスポーツの世界のリアルさに目を丸くしていた。実際、「スポーツ」というジャンルにおけるeスポーツの認知度とはこの程度なのであろうが、当ブースの目玉はもちろん「FIFA 18」それ自体ではない。見どころは、この「FIFA 18」をスムーズに動かしている「GALLERIA」ブランドのゲーミングPCおよび、12画面のディスプレイを1枚のモニターに見立てて動作させているPCシステム「MD12」にある。特に、後者のディスプレイシステムはなかなか興味深かった。従来、12画面ものディスプレイに映像を映し出すためには、数台のPCおよび映像切り替えスイッチなど、かなり大量の機材が必要となっていたが、今回展示されていたこのシステムでは、なんと1台のデスクトップPCだけでこれらすべてを制御していた。これを可能にしたのは、サードウェーブが独自に開発した映像出力システムとのことで、1枚のグラフィックボードから12画面分の映像を出力し、それを専用のアダプターを介して、各ディスプレイに伝送するという仕組みだ。本体だけで30万円程度で導入可能というから、かなりの低コストでマルチディスプレイシステムを組めるようになる。

「FIFA 18」を使ったeスポーツの対戦デモ。用いられていたのは、もちろん「GALLERIA」ブランドのゲーミングPC。なお、ここで使用している大画面モニターは、24インチクラスの液晶ディスプレイを12枚組み合わせたサードウェーブオリジナルのシステムだ

 

12枚のディスプレイに映像を分割出力していたのは、サードウェーブが独自に開発した「MD12」というPC。グラフィックボードからアダプターケーブル経由で12系統のHDMI出力を行い映像を出力する

 

しかも、映像を映し出す大画面モニターも、通常の24インチクラスのディスプレイを12枚並べたもので、何ら特殊なものではない(これらのディスプレイをしっかり接合してくみ上げるフレームは同社独自のもの)。PCだけでなく、こうした汎用的なパーツを使うことで、システム全体のコストをかなり下げることができるという。昨今盛り上がりを見せているeスポーツだが、実際にシステムを導入するとなると、それなりのコストがかかる。これだけの大画面を用意するとなれば、かなりの金額を覚悟しなくてはならない。しかし、サードウェーブの提案するこれらのシステムを使えば、導入コストをかなり抑えながらも、必要十分なeスポーツイベントなどが開催できるレベルの仕組みが構築できるのだ。担当者によれば、ちょっとしたネットカフェなどでも、このシステムなら手軽に導入できるだろうとのこと。低コストでさまざまな場所にeスポーツを楽しめるシステムを普及させることで、eスポーツ界をハード面からバックアップしていくという考えだ。長年BTOパソコン市場でさまざまなノウハウを積んできた同社だからこそ実現できたこれらのシステムを見ても、同社のeスポーツ普及にかける意気込みが感じられた。


ハード、場、そして大会運営まで、全方位でeスポーツをサポートするサードウェーブの「思い」

 

eスポーツをテーマにしたパネルディスカッション「eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?」の模様。Eスポーツの現状や各パネラーの取り組みの紹介から、将来性や課題まで、さまざまなテーマでディスカッションが行われた。会場は立ち見が出るほどの大入り


「スポーツビジネスジャパン2018」では、会場内でさまざまなカンファレンスが開催されていたが、その中のひとつとして、eスポーツをテーマにした「eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?」というパネルディスカッションが開催された。ここでは、日本のeスポーツを牽引する4名のキープレーヤーが登壇し、国内外のeスポーツの現状を報告するとともに、eスポーツの将来性や課題などが話し合われたが、そのキープレーヤーの1人として、サードウェーブの榎本一郎副社長も登壇した。


会場は座席がすべて埋まり、立ち見が出るほどの大盛況で、登壇したパネリストたちも、リアルスポーツビジネスの展示会で、これほどeスポーツが注目されるとは思っていなかったと口々に感想を述べた。モデレーターとなった日本政策投資銀行 地域企画部課長の坂本広顕氏の司会のもと、各パネリストが、それぞれの活躍フィールドにおけるeスポーツへの取り組みを語ったが、サードウェーブの榎本副社長は、ゲーミングPCメーカーの立場から同社のeスポーツへの取り組みを紹介した。前述の「LFS」の紹介なども行われたが、なかでも目を引いたのは、同社と毎日新聞社とが提携して行う新プロジェクト「全国高校eスポーツ選手権」のプレゼンテーションであった。

 

サードウェーブ副社長の榎本一郎氏(写真右)も登壇。同社のeスポーツへの取り組みについて紹介した。なかでも、今年秋から来年春にかけて行われる「全国高校eスポーツ選手権」について詳細な紹介が行われた

 

芸能事務所の浅井企画が実施する「浅井企画ゲーム部」というプロジェクトも同社が完全サポート。さまざまな企画でeスポーツ市場を盛り上げていくという

 

「全国高校eスポーツ選手権」は、単純に言えば「eスポーツにおける甲子園」だ。全国のeスポーツを志す高校生から「部活」単位でチーム応募を受け付け、2018年12月のオフライン予選を経て勝ち残ったチームを集め、来年の3月に幕張メッセにて全国大会を行うという、日本のeスポーツ界きっての大型イベントになる模様。これだけのビッグイベントに、毎日新聞社とともにサードウェーブが取り組むというのはやや意外な気もしたが、その後の榎本副社長の話を聞いて、ここにかける同社の本気度が伝わってきた。


榎本副社長自身、若い頃には野球でプロを志したほどのスポーツ好きで、テレビゲームについても、それこそ任天堂がファミリーコンピュータを発売する以前から注目していたというほど通じているそう。IBMからLenovo、DELL、Acerといった、名だたるPCメーカーで要職を経験した後、今年2018年にサードウェーブに入社したという経歴を持つ榎本氏であるが、先日インドネシアで開催された「アジア競技大会」にeスポーツの日本代表(デモンストレーション競技)として参加するための日本予選の様子を見ていて、そこで熱く戦う若者を見て、「これはまさにスポーツだ」と感じ入ったという。世界中で大きく盛り上がっているeスポーツの状況と日本国内との盛り上がりにはまだ相当なギャップがあるが、それも逆に言えば、日本の国内市場はまだこれだけ伸びしろがある。間違いなく、eスポーツは日本でも流行すると確信しているということだと語った。


ただし、そのためには、社会のeスポーツに対する見方をもっと変えなくてはならない。今はまだ「たかがゲームでしょ」と思われている状況だが、それを普通のスポーツ並みにプレイヤーが尊敬されるように意識を上げていきたい。榎本氏やサードウェーブが目指すのは「eスポーツを文化に」と大きな目標だが、文化にしていくためには何が必要かと考えたときに、高校の部活動支援という形が出てきたという。


そのためには、ほかのスポーツと同様、まずは学校に「eスポーツ部」のようなものを作る必要があると感じていると榎本氏。部活ができれば、そのゲームをプレイする人口も増え、徐々に当たり前の文化として根付くだろう。その糸口として、今回毎日新聞社と共同で「全国高校eスポーツ選手権」を開催するに至ったというのだ。しかし、今、eスポーツをベースに活動する部活というのは、全国の高校の中にもほとんど存在しない。また、eスポーツ部を仮に作ろうとしても、今度はゲーミングPCを導入したり、ネットワークを構築したりという金銭的なハードルが出てくる。そこで、サードウェーブが考えたのが、「eスポーツ発足支援プログラム」というものだ。これは、eスポーツ部を発足するにあたって必要となるゲーミングPCを、最大5台、先着申し込み100校に3年間無償で貸し出すというもの。ゲーミングPC「GALLERIA」を手がける同社ならではの、実に太っ腹なアイデアだ。なお、この「全国高校eスポーツ選手権」のスローガンは、「eスポーツを日本の新しい文化に!」というもの。まさに、eスポーツを草の根的に根付かせて、新たな文化として醸成していこうという同社の本気度が伝わってくる。

パネルディスカッション後のかこみ取材に応えるサードウェーブの榎本一郎副社長(右)と、松原昭博・上席執行役員(左)。榎本氏は、自身の野球体験をもとに、eスポーツを文化にしていきたいと熱く語った

 

なお、こちらの「全国高校eスポーツ選手権」や「eスポーツ発足支援プログラム」に対する高校や地方自治体からの反応はかなり上々ということで、問い合わせも非常に多いという。実を言えば、今の高校生が将来なりたい職業として「eスポーツの選手」というのは、結構上位にランクしているという話もあり、高校の側でもそうした生徒の期待に何らかの形で応えたいという気持ちがあるのだろう。今回の支援プログラムなどをきっかけに、今後eスポーツ部を作りたいという動きが、各高校レベルでどんどん起こってくることも考えられる。そうなれば、榎本副社長の思うように、eスポーツが普通のスポーツとして認知されるようになり、さらには、全国大会という目標に向かって、高校生たちが切磋琢磨するゆおになる日もそう遠くないだろう。


むろん、サードウェーブとしては、「GALLERIA」ブランドのゲーミングPCをもっと販売したいという気持ちはあるだろうが、それだけの目的にしては、最近の同社のeスポーツにかける動きはリスクがありすぎて、なかなか説明がつかない。このパネルディスカッションの後に行われた囲み取材で、榎本副社長に思い切ってこう聞いてみた。


「サードウェーブが、ここまでeスポーツに対して前のめりに取り組むのには、単にPCビジネスという枠を超えて、社長以下、eスポーツというものに対して、かなり『思い』が強いような気がしますが?」


これに対して、榎本氏は笑いながらこう言った。


「これを話すと長くなっちゃうんだけどな(笑)。まさにその通りで、その思いは強いです。オーナーの尾崎(社長)は僕の10倍以上思いが強いんじゃないかと思います。我々は、2002年からハイエンドのゲーミングPCを作ってきていますが、まさにゲームというものに寄り添いながら、ユーザーの声に耳を傾けていいPCを作ってきたという自負がある。尾崎からすれば、時代がようやく我々の思うところに追いついてきたという感じだと思います。今の状況は、まさに自分たちが望んできた流れなのだから、そこに対してもっと先行投資してどんどんやっていこうと前向きです。尾崎が以前から思っていたことに対して、ようやくいろんなピースが埋まりつつある状態じゃないのかな。そういう意味では、いい流れができてきていると思います。」


秋葉原ユーザーにも昔から知られているサードウェーブという会社は、「ドスパラ」でのPCショップ経営、そしてハイエンドPCの製造を通じて、常にPCユーザーの声に耳を傾け、寄り添ってきた存在だ。そんな同社が、「GALLERIA」ブランドのゲーミングPCなどハードウェアの提供から、「LFS」による場の提供、そして「全国高校eスポーツ選手権」に代表される大会運営まで、今、eスポーツに関わるあらゆる部分で幅広くeスポーツをサポートしてきている。もちろん、日本国内におけるeスポーツの拡大と定着は、同社だけでできることではなく、さまざまなプレーヤーが力を合わせてようやくひとつの大きな流れになってくるのだろうが、その中でサードウェーブが大きな存在感を示し始めているのは、間違いないところだろう。


パネルディスカッションで、「eスポーツと言えばサードウェーブというような存在になっていきたい」と語った榎本副社長だが、その夢が現実のものになる日もそう遠くないのかもしれない。


(編集部・鎌田)

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  • 「スポーツビジネスジャパン2018」

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  • サードウェーブの榎本一郎副社長(右)と、松原昭博・上席執行役員(左)

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  • 「LFS(ルフス) 池袋 esports Arena」

  • 「GALLERIA GAMEMASTER GXF」

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