ゲーム会社社員を経て、劇伴作曲家に
─キャリアについてお尋ねします。日本大学芸術学部音楽学科を卒業されていますが、もともとアニメ・ゲーム音楽にご興味があったのでしょうか?
三澤 大学の時からずっと、劇伴を書きたいとは思っていましたが、ゲーム音楽にもとても興味がありました。ゲームが大好きだったので。「信長の野望」とか「三國志」とか大好きでしたね。今もか(笑)。その会社にご縁があってよかったです。
─大学在学中にもゲームのお仕事をされていたとか。
三澤 カラオケのMIDIデータの打ち込みのバイトをしていたんですが、そのバイト先で仲良くなった中沢伴行に、「知り合いがゲームを作るから、音楽を作るの手伝って」と誘われ、2人で「オアシスロード」の作曲をしました(編注:中沢さんは音楽制作チーム「I've」の元メンバーで、「灼眼のシャナ」(2005~06)の「緋色の空」、「とある魔術の禁書目録」(2008~09)の「PSI-missing」、「ヨルムンガンド」(2012)の「Borderland」などの作曲家)。
─コーエーではどのような体制で作曲を? 「戦国無双」シリーズや「真・三國無双」シリーズに参加されたそうですね。
三澤 ほぼほかの方との共作です。ひとつの作品の半分以上書くこともあったり、ほんの数曲だけ書くこともありました。あと、コーエーでは音楽スタッフが作曲だけじゃなく、効果音も作ったり、音声データもいじったりしていました。
─コーエーにはどのくらい在籍を?
三澤 30歳になる前に辞めたので、7年くらいです。
「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」でアニメデビュー
─コーエー退社後は、どのようなお仕事を?
三澤 最初は池頼広さんのアシスタントをしていました(編注:池さんは、「TIGER & BUNNY」(2011)、「神撃のバハムート」(2014、2017)、「いぬやしき」(2017)、「B:The Beginning」(2018)などの劇伴作曲家)。
─ご経緯を教えていただけますか?
三澤 コーエー時代にクライアントとして、池さんに依頼したのがきっかけです。それからご一緒する過程で何度もお会いして、そのうち「どんな曲書くのか聴かせてよ」と言われるようになり、いつの間にかいろいろお手伝いをさせていただくうちに、「会社辞めて、うちに来なよ」という話になりまして(笑)。初めはいえいえと断っていたんですけど、何度も何度も誘っていただき、もともと劇伴を書きたいというのもあったので、そのように決めました。
─一時期、カンパニーAZAにも所属されていたそうですが。
三澤 カンパニーAZAさんとは、同じくコーエー時代にご縁があってとてもよくしていただいたこともあり、退職してすぐに挨拶に行きました。その時は、「がんばってくださいね。売れたら、うちで面倒みますよ」、「いやいや、どうなることやら」なんて笑いながら話した記憶があります。
その後にコンペの紹介をしていただきまして、それが「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」のキャラクターソング、学美ちゃんの「まっすぐ大作戦♪」です。それから、AZAさんの提携作家として、「まなびストレート!」の劇伴のほうもやらせてもらいました。
─池さんのアシスタントとAZA提携作家を、同時にされていたのですか?
三澤 提携作家といっても、立場はフリーランスのままでした。でも、池さんに「劇伴の仕事もらいましたよ」と報告したら、「そんなことしてたら、こっちの手伝いできねーじゃねーか! 卒業だ!」と追い出されてしまいまして(笑)。それから何年かフリーを続けていたんですが、忙しくてどうにもならなくなったので、AZAさんに助けてくださいと相談して、所属作家としてやらせてもらうことになったんです。
─それが2012年~2014年5月の間というわけですね。その後、なぜ再びフリーに?
三澤 優秀なマネージャーさんは、仕事を効率的に回したり、問題が起こらないように気を利かせたりすることに長けていると思います。AZAさんももちろんそうだったのですが、半面、クライアントさんと頻繁に話をすることが少なくなってしまって。確かに仕事は問題なく回るけど、このやり方はちょっと性分に合わないのではないかと感じ、フリーランスに戻らせていただきました。
転機は「みなみけ」、ベストは「琴浦さん」
─転機になったお仕事は?
三澤 振り返ってみると、今は日常コメディ系のお話をいただくことが多いので、その意味では「みなみけ」(2007)だと思います。それまで正直あまり興味がない分野でしたが、そこで初めてこのジャンルにちゃんと触れる機会ができて、1作終えてみると、「もっとおもしろくしたい!」と思うようになりました。
─太田監督とは「みなみけ」以来、ずっとご一緒されていますね。
三澤 太田さんと何作かご一緒させていただいたころ、「別の作曲家もいるのですが……」というような話もあったようです。なので、僕としては残念だけど、太田さんにとってよい選択肢であれば、遠慮なく別の方を指名してほしいと伝えました。すると、「僕の作品をこれだけ理解して書いてくれるし、三澤さんの音楽には何の不満もないから、これからもよろしくお願いします」と言ってくれたんです。あの言葉は、本当にうれしかったですね。
─太田監督作品で、ベストシーンを選ぶとしたら?
三澤 音楽的な表現としても聴きがいがあって、かつ評判もよかったという点では、「琴浦さん」(2013)の1話をフィルムスコアリングしたシーン(編注:Aパート10分)が、選ぶとしたらそうだと思います。
─アニメの劇伴作曲家に必要な資質能力とは?
三澤 ほかの方が判断することなので、僕に資質能力があるかはさておき(笑)、基礎的な部分がきちんと押さえられたうえで、音楽的な個性があることはとても大事だと思います。
─今後挑戦したいことは?
三澤 音楽性と娯楽性が両立できる音楽を作っていきたいんですが、まだまだ満足できていないので、今後も挑戦を続けていきたいです。
─最後に、アニメファンの皆さんにメッセージをお願いいたします!
三澤 たくさんおもしろいアニメがあるので、それを観て、明日への活力にしてもらえればと思います!
●三澤康広 プロフィール
作曲家。長野県出身。日本大学芸術学部音楽学科卒業後、音楽スタッフとしてコーエーに入社。約7年勤務し、フリーの劇伴作曲家に。池頼広さんのアシスタントを務めるかたわらアニメのコンペにも参加、「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」(2007)でアニメ劇伴デビューを果たす。「みなみけ」(2007)以降、太田雅彦監督から全幅の信頼を寄せられており、「みつどもえ」(2010~11)、「ゆるゆり」(2011~12)、「琴浦さん」(2013)、「恋愛ラボ」(2013)、「さばげぶっ!」(2014)、「干物妹!うまるちゃん」(2015、2017)、「はがねオーケストラ」(2016)、「ガヴリールドロップアウト」(2017)などでも劇伴を担当。太田監督作品以外には「みなみけ〜おかわり〜」(2008)、「みなみけ おかえり」(2009)、「ココロコネクト」(2012)、「みなみけ ただいま」(2013)、「ぷちます! -プチ・アイドルマスター」(2013~14)、「北斗の拳 イチゴ味」(2015)、「弱酸性ミリオンアーサー」(2015~18)などがある。2018年は及川啓監督作品「ヒナまつり」で衆目を集め、今後も目が離せない作曲家である。
※TVアニメ「ヒナまつり」 公式サイト
http://hina-matsuri.net/
※「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」 10周年記念サイト
http://www.ufotable.com/manabi10th/
※TVアニメ「干物妹!うまるちゃんR」 公式サイト
http://umaru-ani.me/
※TVアニメ「さばげぶっ!」 公式サイト
http://sabagebu.com/
※TVアニメ「みなみけ」 公式サイト
http://king-cr.jp/special/minami-ke/
※三澤康広 ツイッター
https://twitter.com/yasuhiromisawa
(取材・文:crepuscular)