ノリの良さは子供の頃からのルーツ。アニメを楽しんできた血脈が生きる作品作り 「ブレンド・S」益山亮司監督×シリーズ構成・雑破業インタビュー

2017年12月24日 01:010
(C) 中山幸・芳文社/ブレンド・S製作委員会

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「よく動くアニメ」だと印象付けさせる工夫


── スティーレの空間作りはどんなイメージで構築されましたか? 明るく清潔感があって、とても行ってみたくなりました。

益山 それは雰囲気の明るさというよりは、美術の見せ方のほうかもしれません。キャラクターをよりわかりやすく見せる演出として、ちょっと下の色を飛ばす方法を取っています。「彼氏彼女の事情」(1998年)という作品がそういう演出方法を取っており、僕はこの作品が大好きで、「ブレンド・S」はあの演出方式が当てはまるんじゃないかと頭の中でスっと思いついたんです。「彼氏彼女の事情」も、けっこうギャグの色が強かったりイメージ背景を多用していたりするので、そのあたりはかなり参考にさせていただきました。

── 同じくスティーレの演出で、第1話のディーノ店長の自己紹介のように、室内であることにとらわれずダイナミックに動かすアニメーションが印象的でした。そこにはどんな演出意図が?

益山 あれは「ミスター味っ子」(1987年)の味皇様です(笑)。店長の自己紹介は、原作を読んだ瞬間からあの動きが頭に浮かびました。ああいう、自分の気持ちの中に入って、イメージ空間でより具体的に相手に伝えるという方法は、僕が子供の頃から親しんできた演出なんです。だから僕にとって、空間を気にしない演出を行使すること自体に何のためらいもないといいますか。もちろん、作品がその演出に合っているのが大前提ですけどね。


── 味皇様だったとは驚きです(笑)。そうでなくても、意図的に特定のカットをなめらかに動かしていたりと、すごく作画に凝った作品という印象を受けています。

益山 いわゆる萌えアニメとの棲み分けになる特徴をつけてあげたかったのと、現場としても動かしがいのあるカットはアニメーターのモチベーションを高めると思ったので。けれど、実は「ブレンド・S」ってそんなに作画枚数を使っているTVアニメではないんですよ。僕はキャリア的にガイナックスの作り方が体に染み付いていて、緩急をとても大事にする節があります。動きっぱなしのアニメは逆に目が麻痺しちゃって、見る側も飽きてしまうんですよ。だから止めるところは止めて、口パクだけとかキャラがスライドするだけのシーンもたくさんあります。

── なるほど。そうすることで視聴者は飽きずに見続けられるし、制作側も動かしたいカットに注力できる、と。

益山 これもまた前提として「ブレンド・S」に、僕に染み付いた緩急をつける演出がマッチしたのが大きかったからですが。動かすカットを作ればギャグシーンが映えますし、お客さんには「よく動くアニメ」という印象を持ってもらえます。それともうひとつ、オープニングとエンディングでアニメーションをしっかり動かしたのも同じ理由です。本編が目立って動いていなくても、あのオープニングとエンディングがあれば「今日も楽しかった!」という、いわゆる印象操作を与えられる要素として使っていますね。やはり、延々と動かし続けるアニメを作っていては現場がもちませんから。


雑破 要所要所でイメージ背景を使ったりデフォルメキャラにしたりというのは、益山監督の使い分けのうまいところでしたね。

益山 ありがとうございます。背景も、第1話の秋葉原のように、しっかり描き込んでいただく発注をしたシーンもあれば、イメージ背景にしてそこまで気合いを入れる必要のないところも作ってバランスを取りました。全部が全部、緻密に描き込まれた背景だと、見ているだけでお腹いっぱいになってしまうし、ほどよく出したり引いたりすることで映像にもリズムが生まれてお客さんもテンポに乗りやすくなるんです。

雑破 動いていたカットで僕が気になったのは、第8話でゴキブリがひでりに向かって走っていくシーンが背動(背景をセルとして動かすこと)をしていたけど、「なんでこんなに頑張ってんの!」って思いましたよ(笑)。

益山 こういうポイントを凝ることで作品に対するのめり込み度がググッと上がるんじゃないかな、と(笑)。料理の描写に力を入れたのも、より世界観にのめり込んでもらうためです。アニメの作画が崩れ始めるのは、やっぱりキャラより周りの部分からなんですよね。だからこそ、細かいポイントをおさえることで世界に浸ってもらおうという意識があります。


── 料理は担当のアニメーターがいらっしゃったのですか?

益山 プロップデザインの方がいるのでお願いできるときは描いていただきましたが、頼めないときは最終手段で自分に回してもらいました。普通だったら監督はそんなことはしませんが、小ネタがスべるかスベらないかはクオリティにかかっていますから。たとえば第7話に美雨が「発車しまーす」と言うアイキャッチがありましたが、後ろの機関車の描写がショボかったらギャグが成り立ちません。「ブレンド・S」はそういうディテールも大事にコントロールしていましたね。

雑破 あの機関車は、ネタを出したのは僕だけど、煙突の形が卑猥だったのは僕の発案じゃないですよ(笑)。


益山 みんな雑破さんの仕業だと思ってるから(笑)。

雑破 そうだよ! 風評被害だよ!(笑)。

── 緩急という点では、アイキャッチやCパートもテンポよく見られた要因ではないかと。Cパートは初めから入れる構成だったのでしょうか?

雑破 結果的に全部に入っていたという感じでしょうか。だいたい1話につき原作エピソード3本くらいをまとめているので、どうしてもどこかで舞台転換を入れないとうまくいかないときが出てきます。そういう区切りを自然に見せるために、オープニングやエンディングも構成に使ったという感じでしたね。

益山 アイキャッチのテンポは正直、感覚です(笑)。雑破さんのシナリオにはなかったアイキャッチもいくつか入れさせていただいて。絵コンテを切っているときに「ここに場面転換がほしいな」と思ったら、区切りを作るアイテムとしてアイキャッチを使うようにしていました。


── 毎話スティーレに訪れるお客さんたちの濃い会話も、作品の鋭いスパイスになっていました。あの会話は雑破さんが作られたのですか?

雑破 いいえ、原作から拾った会話もありますし、演出で足す必要があれば現場で足していただきました。

益山 プラス、アドリブですね。第3話ではお笑い芸人の「やさしい雨」の松崎克俊さんにご出演いただいたんですが、全部アドリブでした(笑)。松崎さんは「アイドルマスター」シリーズがお好きで、その繋がりでもともと面識があったんです。ふと頭の中で「スティーレのお客さんで松崎さんに来ていただいたらすごくいいんじゃないか」と思いついてお願いしました。話題作りにもなって、ありがたかったです。

── 口調など、現代のオタクっぽい特徴をうまく切り取っていたと思います。

益山 「最高かよ!」とかは絵コンテを描きながら思いついたものです。割と思いつきでやっていることが多くて、第9話でキャラが使うSNSのアイコンをキャストさんに描いてもらったのも、もともとの予定にはなかったアイデアでした。「面白いんじゃないか」と思いついたのでプロデューサーに相談に行って、「OKが取れたらいいですよ」と言われたので、すぐに各所に連絡しました。キャストの皆さん、ご快諾してくださいましたし、思いつきを許してくれる「ブレンド・S」の懐の深さが大きいですね。

雑破 「最高かよ!」は、僕もかなり気に入っています。偶然の思いつきかもしれませんけど、あれで視聴者側も苺香のドS接客に対して「こう思えばいいんだ」という答えを提示できたのかな、と。だから苺香がその後にキツいことを言っても、「え!?」と引かずに「最高かよ!」って思えばいいんだ、っていう(笑)。いろんな意図せぬ歯車が噛み合ってうまくいった例だと思いますね。

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ブレンド・S

ブレンド・S

放送日: 2017年10月7日~2017年12月23日   制作会社: A-1 Pictures
キャスト: 和氣あず未、鬼頭明里、春野杏、種﨑敦美、徳井青空、前野智昭、鈴木達央
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