男の取り合いで消える友情なんてつまらない!? 女性ライターが脚本家に聞く「月がきれい」談義 脚本・柿原優子×南健プロデューサーインタビュー

2017年09月27日 12:000
(C) 2017 「月がきれい」製作委員会

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同じ男子を好きになるのは「女子あるある」なんです。


── この作品のキーパーソンとも言える千夏がどんなふうに生まれたのか気になって、柿原さんにぜひ伺いたかったんです。友達の彼氏だと知っていても、当人に「好きになった」と伝えるという人間像が、一女性の私からすると、ともすれば先々で縁を切りかねないギリギリのラインに映ったもので。

柿原 そうなんですか!? 逆に私は中学時代も高校時代も複数の友人と同じ男子に恋をしたので、仲良しグループ内で1人の男の子を好きになるなんて状況は、あるあるだと思っていたんです。でも結局のところ、学生時代の恋愛が大人になっても続くケースは少なくて、それよりは女同士の友情のほうが大事でした。そういった経験から、男の取り合いで消える友情なんてつまらない、という信念が強くあって。もちろん当時は嫌な気持ちにもなりましたが、リアルにぶつかりあったことは青春のひとコマとして素敵な思い出にできるんです。

 言ってしまえば、部活のライバルと同じようなものだよね。当時はライバルと必死に勝ちを争っていたけど、別にそれが今の職業に繋がっているわけではなくて。それに、本当は千夏より、茜の受け止め方のほうが普通じゃないんですよ。千夏を「ありえない!」という人は茜の立場に自分を置いただけで、本来なら茜のほうがありえないと思いますね。


── 以前、知り合いの女性と「月がきれい」談義になったのですが、その人は柿原さんとまったく同じ経験をしていて断然、千夏派だと言っていました。茜はなんだかんだでクラスのヒエラルキー上位に入っているし、周りからうまく助けられるという意味では女子から妬まれやすいキャラクターでもありますよね。

柿原 そうだと思います。小太郎については岸監督と南プロデューサーが、けっこうシナリオの段階から「こういう男子は嫌がられるんじゃないか」とチェックを入れてくれたんです。対して茜のほうは私自身、「これで大丈夫かな……?」と思うことがしばしばあって、もうちょっと茜も頑張ったほうがいいんじゃないか、モヤモヤ考えすぎじゃないかと迷うことがありました。「でも逆に女の子っぽくていい」とか監督たちから男子目線も意見をもらいながら、好感度を調整していましたね。ホント、茜が嫌われなくてよかったです。

── 私は千夏への好感度が毎週のように変わっていたんですが、決して千夏を嫌いにはならなかった理由がよくわかりました。柿原さんの信念がそこを支えていたんですね。

柿原 茜と千夏は一生、友達でいられると私は信じていますし、経験上こういう関係の友人同士に巻き起こる心の機微は面白いと感じていました。もし千夏の好感度を上げるために何話かいただけるんだったら、いくらでも千夏を好きになれる話を書けますよ。千夏が本当にイヤな子だったら嫌われてしまいますが、今回は茜と小太郎の目線が多かっただけで、要は切り取り方の問題なんです。あの子なりに悩んで下手くそに立ち回った行動だから、私は千夏をかわいいと思いながら書いていました。


── 茜と千夏はわかりやすく意見が分かれるところでしょうが、本作では大多数が共感するポイントも多かったと思います。たとえば小太郎や茜の家族との距離感はどのように作っていかれたのですか?

柿原 エンディングのLINEの会話で、旅行の話の時は「どっちの親はどのくらい知ってるんだろう?」という話し合いがありました。それについて「女側は、なんだったらお母さんとお姉ちゃんがうまく結託してお父さんを騙すくらいやりますよ」と言ったら、「お母さんってそんなに味方なの!?」と驚かれました。これも男女の大きな違いですけど、男の子は絶対に身内には相談しないらしいんですよね。肝心なことは父親や大地たちには言えないから、ちょっと年上の兄貴分として古本屋の大輔みたいな人物を置くんだ、と言われました。これが男のメンツとかプライドってやつでしょうか。

 でも、大輔的な人物に彼女を紹介するのは最後の最後だったりするんですよ(笑)。

柿原 男の作法があるんですねぇ。そういう男子のバランスは全然わからなかったので、書きながら教えてもらいました。小太郎と母親との確執にしても、「まだまだ意地張ってます!」と言われて、「まだ引っ張るんですか!? 男子ってメンドくさい!」と思ったものです(笑)。


 特に14、15歳の男子なんてメンドくさい以外の何者でもないですよ。これは大人になって結婚した人にとってはあるある話でしょうが、嫁の母親とは仲良くできても父親とはなかなか難しい。それはこちら側の問題というわけではなく、向こうも同じ男性だからっていう感覚があるんですよ。

柿原 そういう新旧入り交ぜた男女観は、雑談も含めてずっと話していましたよね。もちろん家庭の環境はさまざまあるんでしょうが、特に小太郎と茜は多くの方が共感できそうなところを狙っていました。逆に、Cパートを作ったのは「そういう子ばかりじゃないよね」という、視聴者の皆さんが自分を投影しやすい人を見つけてもらう意図がありました。いろんな子がいることで、物語を絵空事だと思わず今も皆が生きていると感じてもらえるように注意を払ったつもりです。

 いろんな人がアニメを見ると考えた時に、全然ティピカル(典型例)でいいんだけど、ある程度こちらが「いろんな人を配置してありますよ」と見せてあげることも大事だと思いまして。私自身が子供の頃、中学生がたくさん出てくるドラマを見ても「この世界に俺の居場所はないな」って感じがして、あんまり共感できないことがあったので、誰もがこの作品のなかで居場所を見つけられるようにしたかったんです。

── Cパートでの登場が多かったクラスメイトの中で、もうちょっと描いてみたいキャラクターは誰ですか?

柿原 本当はみんなもっと書きたくて設定もガッツリ決めてあったんですが、小太郎と茜がなかなかもどかしくて12話かかっちゃいましたね(笑)。まあでも、反響が大きかったのはろまんかなあ。実はろまんにはビジュアル面でのサンプルがいらっしゃって、岸監督から写真を見せてもらいながら「こういうふわっとした子がいると面白いね」という話になったんです。

 ろまんは便利な妖精ポジションとして置きましたけど、声優を担当した筆村栄心くんがまたピッタリで。中学生時代にファンクラブがあった、というほどのビジュアルで、男子なのに趣味がコスメだって言うんですよ。そんな感じなのに一級小型船舶操縦士とか危険物取扱主任とかの免許を持っているというギャップの持ち主。こんな人材が見つかったのも、ろまんの勝因だと思いますね(笑)。


柿原 まさに生けるろまんくん! 現実はファンタジーを軽く越えていきます。こういう子が本当にいるから、勇気を持っていろんな設定をキャラクターに乗せられるんです(笑)。

── では最後に伺いたいのですが、お2人のキャリアの中で「月がきれい」はどんな作品になったと思いますか?

 柿原さんは先に脚本作業を終えて次の作品に取りかかっていらっしゃると思いますが、私にとっては最新作で、まだ距離を置いて見られる感じではないですね。だからキャリアの中での位置づけはまだハッキリしないけど、「今回も金字塔を建てたな!」とは思っています(笑)。毎回、やったことのない作品を作りたいので、「月がきれい」もその考えにのっとっただけ、と言えばそれまでなんですが、今回は実在しそうな子たちを作って、ありそうな会話をさせて、結果としてリアルに感じてもらえる作品を作ることができて、本当に自分が好きなものができ上がったなぁと感じています。

柿原 私は“奇跡の1作”とでも言いましょうか。本当にアニメではありえない間尺やセリフの少なさで、今までのセオリーとは違った作品でした。よろこんでもらえるのかずっと不安でしたが、こうして岸監督たちによって素晴らしく仕上げていただき、視聴者の皆さんにも楽しんでもらえました。また、オンエアが終わってからもこうして取材していただいたりしますし、別の現場でもこの作品の質問をよく受けるんです。細かい内容というよりは「企画はどのように通したんですか?」、「どうやって作ったんですか?」というプロデューサー目線の質問が多く、それを受けて改めて「この作品は状況が許さないとなかなか作れるものじゃなかったんだな」と後になるほど実感しています。そして、視聴者がこの作品を好意的に受け止めてくれたことも私の中ではすごい奇跡でした。どんなにモチベーション高く作っていても、見てくれる人がいなかったら作品は成り立ちません。本当に第1話のオンエアまでは緊張しっぱなしでしたが、よろこんでくれる人がこんなにいたんだとすごくうれしかったです。応援してくださる皆さんに対しては同志のような気持ちで、「ありがとうございます」と伝えたいですね。


(取材・構成/奥村ひとみ)
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月がきれい

月がきれい

放送日: 2017年4月6日~2017年6月29日   制作会社: feel.
キャスト: 千葉翔也、小原好美、田丸篤志、村川梨衣、筆村栄心、金子誠、石見舞菜香、鈴木美園、千菅春香、井上ほの花、広瀬裕也、石井マーク、白石晴香、熊谷健太郎、岩中睦樹、東山奈央、岡和男、井上喜久子、岩田光央、斎藤千和、前川涼子
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