「がっこうぐらし!」でアニメ脚本のキャリアを磨く
──「がっこうぐらし!」といえば、おふたりはアニメ(2015)で脚本をご一緒されていますが、これはどういった経緯なのでしょうか?
深見 友達の漫画家であるRebisさんから、「深見さん、海法さんの新作、絶対読んだほうがいいよ!」と勧められ、連載開始時からずっとファンでした。
海法 ありがたい限りです。
深見 1話を読んだ時から「これはヤバイことになるぞ!」と思っていたので、ニトロプラスの関係者に会うたびにアプローチをしていました。
海法 私もそのことをお聞きしていたので、アニメ化の際にお手伝いに来ていただいたんです。
深見 「がっこうぐらし!」の時に得た教訓は、「好きなものは好きと言っても、損はしない」ということですね。「嫌いなものを嫌い」と言うと、損することがありますが(笑)。
──海法さんは第1話とは第12話、深見さんは第4話とは第11話を執筆されていますが、この理由は?
海法 シリーズ構成が最初と最後を担当するというのは、お約束です。1話を自分で書いてみて、他の作家さんの参考にしてもらうのです。シリーズ構成を作る際には、森瀬繚さんからも泊まり込みでアドバイスをいただいたりしました。
深見 残りの話の脚本は、海法さんのシリーズ構成を見ながら、最初の会議で皆で話し合って決めました。「この話はショッピングモールが出ているので、東出祐一郎さんでしょう」といった具合に。自分が4話と11話を担当したのは、アクションが多かったからですね。個人的には12話がすごく好きで、脚本を読んだ時には「これはいいなぁ」とすごく感動しました。いまだに12話を見ると元気が出ますね。
海法 あれは皆さんが11話まで盛り上げてくれたから、どうやっても12話が盛り上がるようにできているんですよ(笑)。
──深見さんの第4話と第11話の脚本を読まれた時、海法さんのご感想は?
深見 これはわかりますよ・・・。めちゃくちゃやったんで(笑)。
海法 「すごい深見さんらしいな」というか、とても面白かったので、後はこの面白さをどうすり合わせるかという感じでした。
深見 明らかに「これは出せないな」というのもあり、海法さんには申しわけないとも思いましたが、最初なのであえて書かせていただき、後で少し削ったりしました。
海法 ノリがいいのは大切で、そこはやはり深見さんに来ていただいた甲斐があったなと思います。削ったのは、「このアクションはかっこいいけど、ちょっと尖り過ぎだよね」という部分ですね(笑)。
深見 みーくんがすごく戦闘的になっていたり、「深見さんはくるみをどうしたいんだ?」と言われたこともありました(笑)。
海法 シリーズ構成はそこが胃の痛いところで、いろんな作家さんの面白い個性を拾いたいなと思いつつ、拾い過ぎてもな・・・と板ばさみになります。
深見 自分が「ゆるゆり さん☆ハイ」(2015)や「ベルセルク」(2016)のシリーズ構成をしている時は、原作も大好きなので尖り過ぎたり、自分の色を出し過ぎないようにしています。ただ、「がっこうぐらし!」の時は、原作者の海法さんがシリーズ構成をされていたので、思い切ってやらせてもらいました。
──アニメでは原作と違う設定や展開もありました。
海法 原作から離れ過ぎるのも問題ですが、今回は原作者がシリーズ構成をやるということで、割と自由にいじらせていただきました。たとえば太郎丸については、アニメでワンコがちょこちょこ動いているのを見てみたいという希望がありました。
深見 漫画的な表現がアニメに合っているかという問題もありますね。
海法 そうですね。
──安藤正臣監督とのやり取りで、特に印象的だったことは?
深見 担当した4話がスペシャルエンディングだったのには驚きました。脚本には全くなかったんです。くるみのモノローグの中に、「昔見た映画のエンディングみたいだった」というセリフがあるので、急に変わったのだと思うんですけど、ああいったセンスは監督独自のものだと思います。
海法 そうですね。あの部分は私も特に何か言ったわけではありません。オープニング映像の変化も、安藤監督のアイデアだと思います。脚本については、結構ノってくださって、ダメ出しをするというのではなく、いろいろと付け加えてくださって、ありがたかったですね。
深見 あと、安藤監督には「ガンダム」をたとえ話にすればわかりやすい、というのがありましたね(笑)。
海法 そうですね(笑)。
──今後別のアニメ脚本でご一緒される可能性は?
深見 実は「がっこうぐらし!」の流れで、「ダンガンロンパ3―The End of 希望ヶ峰学園―」(2016)の脚本のお誘いもいただいていたんですよ。でも、最初の打ち合わせの日程が「ベルセルク」とかぶってしまっていたため、残念ながらお断りしました。
海法 それは仕方ないですね。
深見 先行上映の評判などを聞いていると、「ああ~楽しそうだなぁ」と思いますね。それに、海法さんと一緒にやっていると、アニメ脚本家としても学ぶところが多いです。自分のアニメ脚本のキャリアは約5年と浅く、「がっこうぐらし!」の時は本当に勉強になりました。
海法 アニメ脚本のキャリアは深見さんのほうが長いので、私も勉強させてもらいます(笑)。
深見 初めてやった「PSYCHO-PASS サイコパス」は、虚淵玄さんとの共同脚本という、変則的なやり方でした。シリーズ構成さんの下で脚本を書くというのは、「がっこうぐらし!」が初めてだったんです。
小説家、特にライトノベルを書いている人は、脚本に向いている
──おふたりは小説家としてのキャリアのほうが長いわけですが、アニメ脚本特有の難しさはどんなところにあると思いますか?
深見 自分の場合は即実践で、自分が「PSYCHO-PASS サイコパス」の脚本を書いた時は、虚淵さんにどんどん直されて、それを見て、「そうか!そうするのか!」と覚えていきました。
海法 それはうらやましいですね(笑)。
深見 小説家、特にライトノベルを書いている人は、脚本に向いているというのが、自分の持論です。
海法 といいますと?
深見 作品って、世に出さないと経験値にならないと思うんです。アニメって、1本作るのに何億円もかかったりするじゃないですか。マンガは連載が終わるのに、すごい時間がかかる。これに対しライトノベルは、アニメよりコストが少なく、原稿用紙300~400枚ほど書いて1冊本を出せば、すぐに評価が返ってくる。ライトノベル作家ぐらいアイデアや自分の仕事を世に出して、反響を受けて、経験を積んでる仕事ってあまりないんじゃないかと思っているんです。
海法 調子がよければ、年に3~4冊は本が出せますね。要するに、サイクルが短いからたくさん作品を出すことができ、いろんなアイデアや経験値を積んでいけるということですよね。しかも、基本的にはオリジナルのネタですし。
深見 普通の人は年に原稿用紙1000枚も2000枚も書かないので、これは訓練としてすごくいいんじゃないかと思います。最近は、PCゲームのシナリオライターからアニメ脚本を書かれる人も多いですね。PCゲームのテキスト数もめちゃくちゃ多いんですよね。いずれにせよ、テキスト量が多いというのは修行としてわかりやすいです。
アニメ脚本の「設計図感」
海法 ただ、小説の手癖が出てしまう、小説では成り立つけれどアニメでは成り立たないというのは、やっぱりありますよね。たとえば「そのうちに」と書いた時には、「画面でどうやって「そのうちに」を表現するのか、書いてください」と言われました。
深見 確かにフワっとしたこと書くと、フワっとしたままになりますね。
海法 もちろん、「ここはお任せする」という強い意思を持った場合は別です。あと、ひたすら会話を連ねていくと、ラノベとしては成り立つけれど、アニメにすると「君たち、棒立ちになってないか」というのがありますね。
深見 「ここは画面が映えない」といった意見を出し合う、打ち合わせもすごい大切ですよね。
海法 そうですね。やはり風景などが見えているのは監督さんなので、監督さんの見えている風景に合わせて、いかに擦り合わせていくかということを考えないといけません。
深見 アニメや映像の脚本は、「設計図感」がありますね。
海法 ですね。
「翠星のガルガンティア」、「ラクエンロジック」、「ダンガンロンパ3」、「ベルセルク」について
深見 「翠星のガルガンティア」(2013)も面白かったですね。虚淵さんがシリーズ構成で何話か脚本を書いて、残りはほかの作家さんに任せるというのは、「ガルガンティア」が最初なんじゃないでしょうか。「魔法少女まどか☆マギカ」は全話脚本を書かれてますし、「PSYCHO-PASS サイコパス」は自分との共同脚本でした。「ガルガンティア」の打ち合わせは、どんな感じでしたか?
海法 割とすっきりしていて、村田和也監督の要件定義がはっきりしていました。「こういう理由があるので、この方向に沿って直してください」とおっしゃるので、すごくやりやすいんです。「ここはちょっと違うな」とか、「ここはこう変えてください」といったことはおっしゃらないんです。そして、作家さんたちが脚本的に難しいなと悩んだ時などは、虚淵さんが監督とも相談してくださったので、すごいスラスラ進んだ記憶があります。
深見 「ラクエンロジック」(2016)は設定協力として参加されているんですね。
海法 もともとTCGのほうでちょっとお手伝いをしていて、その延長線上でアニメ脚本のお手伝いもさせていただきました。
深見 「ダンガンロンパ3」はどうですか?
海法 シナリオ原案・総指揮の小高和剛さんの熱意がすごいので、毎回極限を突き進んでいる感じですね。
深見 同じクールに2本同時にやるという、すごい変則的なやり方ですよね。
海法 それぞれ関連する2本のシナリオを同時進行で毎週放映というのは、これまでなかったんじゃないかな(笑)。
深見 同じスタジオ(編注:Lerche)ですよね。事実上、1クールに1時間ものを作っているわけですね。
海法 1時間ものより、30分2本のほうが大変だと思います(笑)。
──深見さんは「ベルセルク」のシリーズ構成・脚本をされていますが、これはどういった経緯ですか? シナリオ上の見どころは?
深見 人づてでコンペのご案内をいただきました。何せ原作がすごいので、自分が語るような見どころはないですね。シナリオではアニメ的に映えるよう頑張りました。
海法 いきなり2話くらいでガッツが死んで、タイトルが変わるとか(笑)。
深見 それは・・・、仮に原作者の三浦建太郎先生がシリーズ構成をやっても、怒られますよ(笑)。