アニメ制作会社の群像劇—プロデューサーが語る「SHIROBAKO」Blu-rayヒットの理由

2015年07月01日 10:000

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海外連続ドラマのようなストーリーをアニメで作る難しさ


――アニメ制作会社という舞台の特性だけでなく、本作は"お仕事モノ"としてのドラマツルギーにおいても多くのファンを惹きつけたようです。

川瀬 この作品についてはストーリーが3線同時に動いていて、1つ解決してももう1つ問題が生まれるという、海外ドラマみたいな数珠つなぎの構成になっていて、キャラクタードラマとしてよく動いてくれたのでそこを楽しんでくれたんじゃないかなと思います。ただ、"お仕事モノ"ということで社会人の共感は得られても、若年~学生さんぐらいだと働いた経験がないから、主人公のあおいちゃんに共感がえられないのではないかという懸念はありました。ビジネス的な視点でいうと、購買層の年齢が上がってきているという現実がある中で、確信していたわけではありませんでしたが、ある程度社会を経験している人が共感してくれたら数字はついてくるんじゃないかなという考えもありました。また当初、視聴者からは「見ていて痛々しい」っていう意見もありましたが、それは共感してくれているゆえなのかなと思いますし、それでも見たいと思ってくれるのは、この子がその状況をどう逆転してくれるかを期待しているからだろうし、社会人ならそこにカタルシスを感じてこのフィルムに対しての共感は持てるのかなと。僕はこの業界に20年近くいるのですが、学園モノっていうのはやっぱりどのお客さんにとっても共通言語としてあるから間口が広くて有利だというのはわかっているのですが、今回の作品で、社会で働く女性を主人公に据えたドラマを描いて、おかげさまでご好評を得たものですから、学園モノにあまりこだわり過ぎなくても大丈夫だというエポックは見せられたかなという気はします。


――先ほど、海外ドラマ的な連続性のある構成をとったというお話をされましたが、アニメでこれまでこうした構成の作品はあまり作られていなかった理由には、作り方の点で実写とはさまざまな違いがあるからだと思います。今回はそれをどのようにクリアしていったのでしょうか?

川瀬 作り方において実写との違いがあるというのは、おっしゃるとおりです。古くは「ER緊急救命室」に代表されるような海外連続ドラマの手法が一般的にヒットしているというのはロジックとしては理解しているのですが、実際にアニメで作るとなると大変なんです(笑)。最近のアニメのシナリオ作りの一例を説明しますと、シリーズ構成がひとり立って最初の数話を書いて、あとは数人のシナリオライターがいくつかの話数を同時に動かしていくというやり方を採ります。それは時間短縮という面もあります。制作スタジオの立場から言うと、オンエアという期限が決まっている以上、できる限り時間的な余裕は持っておきたい。するとどうしてもシナリオ作成の時間は圧縮せざるをえないんです。でも、今作の場合は先ほど申し上げたようにドラマが3本同時に走っていて、ひとつのドラマを終わらせて次の話数で残りを解決させていくという作りにするには、シリーズ構成がちゃんと調整し、ライター間も連携しないと難しいわけです。もちろん、ライターさんもプロですからできるとは思いますが、それがちゃんと機能するのは少人数であったほうが意図が通りやすいと思うんです。なので、今回はシリーズ構成として横手美智子さんに立っていただき、横手さんに吉田玲子さんを呼んでいただき、ほとんどお2人で書いていただきました。


――制作の現場としてはシナリオだけでなく設定を用意するなど、ほかにもさまざまな調整もあるでしょうね。

川瀬 そうですね。まず監督がストーリーラインを理解して各話を担当する演出家にきちんと伝えていく必要があります。前の話数でこういう感情が起きていて、だから次の話ではこういうドラマになるという流れをきちんとわかっていないと物語として破綻してしまいます。撮影してから編集していく実写と違い、アニメは全部をいちから作るわけですからそのあたりをすべてしっかりとやる必要があります。その意味で今回の作品に対する水島監督の仕事量はものすごいことになっています。はたから見ていて本当に、「言うは易し行うは難し」だと思いました。


――シナリオ制作については、稿数を重ねた形でしょうか。それとも執筆以前の段階で念入りな構成を打ち合せてから向かった形でしょうか?


川瀬 両方ですね。まず、どういうことをやるかを決めるプロット制作に十分な時間を取りました。前後の話数だけでなく少し離れた話数にまたがってドラマやアクションを展開することもあったので、水島監督がその整合性をチェックしたり、堀川さんや永谷(プロデューサー)さんといっしょになってつじつまの合わないところを消していったりするといった作業も行ったため、稿数も重なりました。水島監督はセリフ1つ1つにもこだわって、「この子の今の成長具合だと、この言葉は決して出てこない」といったように直していきます。だからセリフがすごく人間臭いというか、等身大になるんですよね。

――そういったセリフやキャラクターの行動1つ1つの積み重ねが、作品全体のリアリティに繋がり、それが作品全体を通じて共感を呼ぶわけですね。

川瀬 そうですね。この作品自体をまったくのファンタジーな現場だとかギャグに振っていたら、面白いとは思ってもらえても共感をえるまでには至らなかったと思います。まったくトンデモな話を展開したのは第14話(「仁義なきオーディション会議!」)だけですから(笑)。それ以外に関しては、ファンタジーが多少入っていたとしてもセリフに関してはリアリティを気にしてていねいに作っていったからこそ共感を得てもらえたのかなと思います。

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関連作品

SHIROBAKO

SHIROBAKO

放送日: 2014年10月9日~2015年3月26日   制作会社: P.A.WORKS
キャスト: 木村珠莉、佳村はるか、千菅春香、髙野麻美、大和田仁美、西地修哉、松岡禎丞、山岡ゆり、吉野裕行、茅野愛衣、松風雅也、中原麻衣
(C) 「SHIROBAKO」製作委員会

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