アニメーター・中野裕紀 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第49回)

アニメ2021-08-14 10:00

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ライターcrepuscularの連載第49回は、アニメーターの中野裕紀さん。「くまクマ熊ベアー」のキャラクターデザイナーとして一躍知られることになった中野さんは、アクションやかわいい女の子の作画を得意とする気鋭のアニメーターだ。これまでも「干物妹!うまるちゃん」、「NEW GAME!」、「ガヴリールドロップアウト」、「私に天使が舞い降りた!」といった作品に参加し、日本の萌えアニメの発展を作画面から支えてきた。女性向けアニメでも確かな実力を発揮し、キャラデザデビュー作となった「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」では、デフォルメ、半デフォルメ、リアル頭身と3つのパターンを見事に描き分け、原作マンガに負けずとも劣らないハイクオリティなアニメへと昇華させた。その功績が認められ、現在は株式会社EMTスクエアードの社員として同社の屋台骨を支えている。当記事ではそんな中野さんのキャリア、作画論、キャラクターデザインのこだわり、制作エピソード、今後の挑戦などをお伝えする。ここでしか読めない単独インタビュー、ぜひ最後までお楽しみいただきたい。

 

「絵を動かす仕事」が一番楽しい


─日々のご制作でお忙しい中、ありがとうございます。現在はキャラクターデザイナーとしても大活躍の中野さんですが、どんな時にアニメーターのやりがいを感じますか?


中野裕紀(以下、中野) アニメの専門学校の体験入学に行った時、「自由に絵を動かしてみよう」という課題がありまして、それをやっていくうちにアニメを作る作業自体が好きになりました。だから今も、「絵を動かす仕事」をするのが一番楽しいと感じますね。自分の描いた絵が動くというのは、マンガや小説の挿絵では決して得られない経験ですし、家族に「テレビに自分の名前が載ったんだよ!」と言えるのも、アニメならではのことだと思います。


─創作活動にあたり、一番影響を受けた作品は?


中野 一番を決めるのは難しいんですけど、アニメーターになりたいと強く思ったのは、「NARUTO -ナルト-」(2002~07)で若林厚史さんが絵コンテ・演出・作画監督をされた30話、「蘇れ写輪眼! 必殺・火遁龍火の術!」を観た時です。自分の理解を超えていて、「こんなことができるんだ!」、「自分もこうなりたい!」と強い憧れを持つようになりました。あと、アニメーター個人でいうと、「NARUTO」30話でも原画を描かれた、松本憲生さんを尊敬しています。


─ご自身の作画で、松本さんの影響を感じる部分はありますか?


中野 そうですね……おもしろみのある画を作るようにいつも意識しています。「NARUTO」では割とシンプルめな影で表現していたんですけど、これは一般のアニメーションとはちょっと違った作り方なんですよね。もちろん作品に合うことが大前提ですけど、自分もそういったおもしろい画づくりをやっていきたいなと思っています。


─「おもしろみのある画」の例をいただけますか?


中野 「干物妹!うまるちゃんR」(2017)1話にサッカーをするシーンがあるんですけど、僕はシルフィンのスペース・ストリーム・グランドクロスで、風が起こって、うまるが吹き飛ぶところの原画を描きました。あれは自由に描かせていただきまして、とても楽しかったです。


─「ガヴリールドロップアウト」(2017)1話にも、サターニャがくるくる踊りながら教室に入っていくおもしろい動きがありましたね。


中野 このシーンは僕ではないのですが、とてもよい動きでしたよね。原画の三谷暢之さんの原画で、本当にうまくて勉強になりましたし、僕は作監として少しお手伝いした程度ですが、とても思い出深い仕事です。


─「くまクマ熊ベアー」(2020~)も、ユナの戦闘シーンなどアクションが盛りだくさんでした。


中野 僕個人でいうと、「くまクマ熊ベアー」はキャラクターデザイン・総作画監督で参加しているので多くはないですけど、原画も多少描きました。総作監として修正したのは、アクションもですが、エフェクトが多くて。たとえば、2話のクマをイメージした火属性魔法でユナが岩を溶かす2カットは、僕が修正したカットです。

アクションや女の子の作画が得意


─お得意な作画やジャンルはありますか?


中野 アクションが好きですね。あと男性向けというか、女の子がいっぱい出てくるようなタイトルも好きです(笑)。


―「ラクエンロジック」(2016)には変身シーンもありましたね。


中野 「ラクエンロジック」は本編の修正が大変だったので、変身バンクは描けなかったんですよ……。僕自身は戦隊ものも好きですし、「戦姫絶唱シンフォギア」(2012~)とかの変身するアニメも好きで、よく観ています。女性向けの作品も好きなので、「美少女戦士セーラームーン」(1992~)、「おジャ魔女どれみ」(1992~)、「ふたりはプリキュア」(2004~)とかも隠れて観ていました(笑)。


─キャラクターの芝居を考える時には、どういったやり方をしていますか?


中野 ストップモーションを自分で撮ってみるということはないんですけど、頭の中でイメージしたり、実際に動いてみたりはしています。学生時代には作画MADが流行っていたので、でいろんなアニメーターさんの作画をコマ送りして、研究したりもしていました。

 

デザインに「自分ならではのエッセンス」を


─キャラクターデザインのこだわりをお聞かせください。


中野 原作者の方の絵に合わせて描く、というのは当然なんですけど、その中で僕がデザインする意味というのを見つけるために、「自分ならではのエッセンス」というか、「これだったら原作の絵を変えずに、映えるものになるんじゃないかな」というのを考えて、毎回チャレンジしています。たとえば、細かい処理になりますけど、服のしわの入れ方、手の描き方、眼の中の処理などにはこだわっています。


─具体例をいただけますか?


中野 「くまクマ熊ベアー」の目でいえば、ほかのアニメだと使っていないような位置に色違いのハイライトを置いてみたり、普通の白いハイライトも少し大きくしてみたりと試行錯誤していました。「今までのアニメとはちょっとだけ違うものを、何か取り入れられないかな」と考えてデザインをした感じです。髪のハイライトの形に関しては、「私に天使が舞い降りた!」(2019)のキャラクターデザインをされた、中川洋未さんの影響も多分にあると思います(笑)。


─服にもやはりこだわりがあるのですね。「くまクマ熊ベアー」にはクマセットという、非常に個性的な衣装が登場します。


中野 学生の頃から服のしわが好きで、「どうやったら立体的なしわが描けるかな」とか、考えて描いていました。クマセットは、かわいくないと思われないように気を付けながら、ちゃんと綿が入った丸っこい印象のフォルムにしています。


─主人公のユナはクマの着ぐるみを着たかわいらしい女の子ですが、作中ではお姉さん的なふるまいが多いですね。


中野 大人のキャラからは少女に見られがちなんですが、フィナ、シュリ、ノアール、ミサーナ、フローラといった周りのキャラがさらに幼いので、お姉さんになるんですよね。このバランスは割と難しかったですね。


─ユナ以外の女の子のデザインはいかがですか?


中野 天真爛漫な感じが強いキャラは勝手に動いてくれるので、表情集が作りやすかったです。妹系のキャラのほうが表情が明るかったり、ちょっとオーバーリアクションだったりするので。そういう意味では、妹ではないですけど、ノアとかも作りやすかったと思います。フローラは、顔もですが、手なども子供の手を意識して描いていましたので、よりかわいらしいフォルムになっていたらいいなと思っています。


─サブキャラも含めて、全キャラをデザインされたのですか? サブキャラは、各話数の作画監督がデザインすることもあるようですが。


中野 どこまでがサブかというのもありますけど、村人などはほかの方にお手伝いしていただきました。EMTで設定を起こす場合は、サブキャラもデザイナーの方にお願いしています。

 

「ぼくはか」では、3つのパターンを提出


─「ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。」(2020)は、キャラクターデザインデビュー作ですね。


中野 「ぼくはか」では、男性キャラが男男しないように、中性的に見えるように描きました。


─ヒロインの澄楚さんもすごくかわいかったです。


中野 ありがとうございます。男性だらけの中の女性という感じだったので、かわいく見せようとがんばりました(笑)。


─メインターゲットは違いますが、「ガヴリールドロップアウト」でのご経験も生かせたのではないでしょうか? というのも、「ぼくはか」も「ガヴドロ」も、中二病キャラやいじりキャラが登場します。


中野 直接的ではないですが、「『ガヴ』と『うまるちゃん』のキャラクターを男にした感じをイメージしてください」といったようなお話もあったので、2作品を心の本棚に置いていたと思います。そのうえで原作に合わせた形で、骨格のラインだとか顔の配置を考えていきました。


─「ぼくはか」には、デフォルメされた表情やちびキャラもありました。


中野 原作でもがっつり表情が変わることが多かったので、そこは原作そのままに使っています。設定を起こす際にはデフォルメ、半デフォルメ、リアルの頭身と、3つのパターンを作りました。


─動物キャラも、中野さんのデザインなのでしょうか?


中野 「くまクマ熊ベアー」の「くまゆる」と「くまきゅう」に関しては、ラフを描いてくれたのは谷津美弥子さんです。僕はその上から多少線を乗せて整えて……みたいなことをさせていただきました。「ぼくはか」のケルベロスは、僕が描いていますね。

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