アンの生きる現実は、空想を使わないと描写できない――。「赤毛のアン」第12話を見る【懐かしアニメ回顧録第63回】

アニメ2020-02-09 12:00

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今月2020年2月21日より、富野由悠季監督の最新作、劇場版『Gのレコンギスタ II』「ベルリ 撃進」が公開される。その富野監督が絵コンテとして参加した作品が、「赤毛のアン」(1979年)だ。“とみの喜幸”名義の絵コンテは、ぜんぶで5本。その中から、第12話「アン・告白する」にスポットを当ててみたい。

マシュウとマリラのカスバート兄妹は、孤児のアン・シャーリーを家で預かることになる。空想好きで感情表現のオーバーなアンに生真面目なマリラは翻弄されるが、少しずつアンに気持ちを許しはじめる。
そんなある日、マリラが大切にしている紫水晶のブローチがなくなってしまう。ブローチに最後に触れたのはアンなので、マリラはアンが盗んだのではないかと疑う。アンはかたくなに疑いを否定するが、果たして……ここまでが、第11話。
第12話「アン・告白する」で、マリラに真実を告白する。


「現実のアン」から「空想のアン」へ


「私、紫水晶のブローチを盗りました」と、アンは告白をはじめる。この告白はアンの台詞から、具体的な回想シーンとして展開される。

■マリラの部屋に、ブローチを見つけるアン。
■部屋でブローチを服につけ、うっとりするアン。

ここまでは第11話と絵を兼用している。第12話では、鏡の前でくるくると回るアンの演技が追加されている。
ブローチをつけた自分の姿を鏡に映すアン。すると、鏡の中のアンは冠と白いドレスをまとった空想の姿となる。「ブローチをつけて、アイドルワイルドに行って、コーデリア・フィッツジェラルド姫のように振る舞ったらどんな素晴らしいだろうって思ったの」と、アンは自分の空想の道具にブローチを使ったことを説明する。

■“アイドルワイルド”と呼ばれる林の中を、ブローチをつけて歩くアン。
■足元の水面に映ったアンは、鏡の中でのように、冠とドレスをつけている。
■“きらめきの湖”にかかった橋を渡るアン。やはり冠とドレスをつけている。

つまり、告白の途中から「現実のアン」と「空想のアン」が同じフレーム内に同時に描かれはじめ、ついには「空想のアン」が「現実のアン」へと、取って代わる。アンの告白は現実に起きたことなのだろうか、途中から空想なのだろうか?
視聴者は、ここまでハッキリと絵で見せられても、アンの告白内容が本当か嘘か、判断することはできない。なぜなら、「赤毛のアン」は第1話から一貫して、アンのとりとめのない空想や心象風景を、具体的な“絵”として描きつづけてきたからである。現実も空想も、同じようにセルの上に線と色とで表現する――それが「赤毛のアン」の演出スタイルだし、セルアニメーションの宿命とも言える。


「息もつかせず話す」身体的リアリティを出すために


さて、アンの告白はマリラを激怒させるが、物語は思いもよらぬ方向へと進み、アンは楽しみにしていた日曜学校のピクニックへ参加できることになる。
ピクニックから帰宅したアンは、息もつかせぬ勢いで、その日がどんなに楽しかったか、マシュウとマリラに話しつづける。
このアンの台詞は、以下のカットにまたがっている。

(1)夕暮れの湖上を進む、アンたちを乗せたボート
(2)マシュウとマリラの待つ家の扉を開け、帰宅してくるアン
(3)マシュウとマリラのほうを向きながら、食堂から出ていくアン
(4)着替えて、食堂へ戻ってくるアン
(5)マシュウ、マリラと食卓を囲むアン

(1)~(3)でもアンの口は動いているのだが、台詞とシンクロしてはいない。台詞とアンの口の動きが一致しているのは、(4)と(5)のみのようだ。しかし、(4)と(5)の間には時間的な飛躍があり、立っていたアンがいきなり座っている。ということは、(5)で話されていた台詞が(1)までズリ上がって聞こえているだけで、それぞれのカットに直接的なつながりはない。
しかし、考えてみてほしい。絵がつながっていないのに、ひとつの台詞が途切れずに続いていたほうが、「アンが無我夢中で話している」感じが生々しく伝わってこないだろうか。
現実をありありと描くために、空想や時間の跳躍を活用する――。第12話「アン・告白する」には、映像作品の醍醐味が、豊かに詰め込まれている。魅力的なシーンは、ここには書ききれないほど、まだまだいっぱいある。


(文/廣田恵介)

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