“宇宙用ヘルメット”を使って登場キャラクターの心情を描き出す、「プラネテス」の視覚効果【懐かしアニメ回顧録第50回】

アニメ2019-01-27 12:00

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今月から、谷口吾朗監督の新作TVアニメ「revisions リヴィジョンズ」がスタートした。その谷口監督が、2003年に監督したテレビシリーズが「プラネテス」。原作は幸村誠氏の漫画で、人類の生活圏が月面にまで広がった2070年代が舞台だ。主人公のハチマキは、宇宙開発によって生じたデブリ(宇宙ゴミ)を回収する会社に勤めているが、アニメでは、後にハチマキと結婚するタナベという女性が、第1話から登場する。

新入社員のタナベと、デブリ回収業に慣れているハチマキとの見解の相違は、第1話から歴然と描かれている。2人の“見解の相違”を効果的に描き出す小道具が、宇宙で行動するのに欠かせないヘルメットだ。

透明バイザーが「二重露光」と同様の効果をもたらす


第1話「大気の外で」のラスト、タナベとハチマキは、紛争国マナンガの平和を祈った記念プレートを、宇宙から地球に落として燃やす業務に出かける。タナベは、平和のためのプレートを燃やすことに反対だ。衛星軌道上で、タナベは軌道を周回する記念プレートが、軍事衛星を生かすために廃棄されることを知らされて、激怒する。
「でも先輩、軍事衛星ですよ? 戦争の道具じゃないですか!」と、ハチマキに抗議するタナベ。このタイミングで、タナベの顔面を覆っていたヘルメットがパカッと開き、透明なバイザーに覆われた彼女の表情があらわとなる。
タナベとハチマキが衛星軌道上で激しく口論するうち、タナベの頭上に記念プレートが現れる。プレートには、軍事衛星を運用している世界連合のマークが大きく刻印されていた。マークに続く文字をタナベは読む。記念プレートは、世界連合の偽善的なプロパガンダに過ぎなかったのだ。

■記念プレートを見るタナベの顔
■タナベが読んでいる記念プレートの文字

上記2つの要素を、透明バイザーを介すれば、ひとつのカット内で重ねることができるのだ。記念プレートに書かれた文字が、唖然と見つめているタナベの顔面にかぶさることで、彼女が受けているショックと、その理由が強烈なものとして一気に伝わってくるわけだ。
この演出は、対象物を反射する「透明バイザー」という特殊な装備なしには描きえない。


時には、過去を映す「スクリーン」ともなる透明バイザー


「プラネテス」には、「ヘルメットをかぶった人物の表情」「その人物が見ている物が映った透明バイザー」を、同時に映したカットが散見される。
第7話「地球外少女」で、怪我をしたハチマキは月面の病院に入院する。病室でハチマキは、ベテラン宇宙飛行士のローランドに会う。
白血病に侵されたローランドは病院から行方不明となり、退院したハチマキと彼の上司であるフィーが、偶然に月面で倒れている瀕死のローランドを発見する。
「俺ほど宇宙を愛している者はいないと言うのに、ずいぶんな仕打ちじゃないか」と、ローランドは宙に手を伸ばす。目を見開いたローランドのアップ……透明バイザーに、ローランドの両腕、そして真っ暗な宇宙が映る。「これで俺は、俺もお前の一部……」、虚空をつかもうとするローランドの両腕と彼の表情とを、同一カットで重ねたほうが「宇宙の一部」になりたい彼の気持ちが、ストレートに伝わってくるのではないだろうか。

第16話「イグニッション」で、作業中に宇宙で孤立したハチマキは、深刻な精神的危機に陥る。ハチマキは病院内の感覚遮断室で、宇宙服に身を包んだ不気味な男と出会う。その男のヘルメットが開くと、透明バイザーに奥にあるのは、もうひとりのハチマキの顔だ。バイザーには、彼が目の前にしている“本物のハチマキ”の小さな姿が映る。
さらに、“もうひとりのハチマキ”の透明バイザーはスクリーンとなって、これまでハチマキが目にしてきた場面を次々と投影する――。「プラネテス」において、透明バイザーはアニメーションの四角いフレームの中に設けられた、「もうひとつのスクリーン」だ。2つのスクリーンを使うことで、人と宇宙の関係は多層的になり、宇宙と心の中とを直接、視覚的につなげることもできるのだ。


(文/廣田恵介)
(C) 幸村誠・講談社/サンライズ・BV・NEP

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