イラストレーター・米山舞 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第26回)

アニメ2018-09-08 08:00

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変化と競争の激しいアニメ・ゲーム業界で勝ち続けるトップクリエイターたちの実像に迫る、インタビューシリーズ「アニメ・ゲームの“中の人”」。今回紹介するのは、アニメーター時代に培った抜群のセンスと技術を駆使して、感情表現豊かで魅力的なキャラクターを創り出す、イラストレーターの米山舞さん。ガイナックスで若手の即戦力として頭角を現した米山さんは、入社1年ほどで、名作「パンティ&ストッキング with ガーターベルト」の原画に昇格。「THE IDOLM@STER」、「ダンタリアンの書架」、「WORKING'!!」、「ペルソナ5」などでも才能を発揮し、「ブラック★ロックシューター」以降は作画監督として、「ソードアート・オンライン」、「キルラキル」、「パンチライン」、「リトルウィッチアカデミア」、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」などの各話数を担当。「HILL CLIMB GIRL」や「キズナイーバー」においてキャラクターデザイン能力を認められてからは、活躍の場をイラストに広げ、「うさぎ強盗には死んでもらう」、「学園交渉人 法条真誠の華麗なる逆転劇」、「海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと」といった小説のイラストを手がけている。筆者は、そんな米山さんを直撃し、ここだけのお話をたっぷりとうかがった。

 

アニメとイラストの技術を生かした創作活動


─お忙しいところ「アキバ総研」インタビューに応じていただき、本当にありがとうございます。最初はお仕事のやりがいについてうかがいたいのですが、アニメーターの醍醐味とは何でしょうか?


米山舞(以下、米山) キャラクターに命を与えて芝居を演出できることが、楽しいなと思います。要は役者ですね。


─現在は、イラストレーターとしても活躍されています。アニメーターと異なる魅力は、どういうところにありますか?


米山 イラストは最後まで面倒みられるところが違います。アニメも分業の楽しさ、化学反応的な楽しさはあるんですけど、イラストは自分が伝えたいことの純度を高く保ったまま、最後まで責任を持てるのがいいなと思いますね。


─アニメーターとイラストレーターの両立は大変ではないですか?


米山 イラストをメインにしてやっていきたいなと思っているんですけど、イラストで得たものをアニメに生かす逆輸入的なこともできたらいいなと思っています。たとえば、「ダーリン・イン・ザ・フランキス」(2018)は、完全にイラストの技術を応用しているんですよ。


私の場合は、アニメーターの腕やデッサン力を信用してお仕事を振ってくれるクライアントが多いので、そういうところに強みを持ってやっていければと思っています。昔からイラストはやりたかったので、「キズナイーバー」(2016)が終わったタイミングでイラストのお仕事を増やしていきました。


─影響を受けた作品は?


米山 技術うんぬんを意識していない幼少期に絵が好きだなと思った作品は、アニメの「美少女戦士セーラームーン」(1992~97)や「聖闘士星矢」(1986~89)です。本格的にアニメーターになろうと思った時には、「AKIRA」(1988)、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995)、「フリクリ」(2000~01)、「マインド・ゲーム」(2004)とかを観ていて、誰がどこをやっているのかを意識するようになりました。


─尊敬する方は?


米山 ガイナックス系になっちゃうんですけど、今石洋之さん、すしおさん、吉成曜さん、錦織敦史さん……ですかね。それぞれ絵柄は違ってそれぞれ影響を受けているんですけど、今石さんやすしおさんの「自分の好きなことを、最後まで誰にもそぎ落とされずに貫く」というところを、すごく尊敬しています。


アニメだけじゃなくてゲームもそうなんですけど、人に言われたりなんかして抑えられたりとか、そぎ落とされたりとかすると、やっぱり純度が低いというか、つまんない絵になっちゃうんですよね。今石さんはブレーキを外しているというか、頭がやわらかくて、私にはないんですよ。私は結構自分でブレーキをかけちゃうので、目標じゃないですけど、常に頭に置くようにしています。

 

感情芝居やケレン味で、キャラクターの魅力を引き出す


─お得意な作画やジャンルはありますか?


米山 訴えかけるような表情とか感情芝居が得意……かな。あとは、ガイナックス出身なので、ケレン味のある感じも描けます。


─「キズナイーバー」は感情芝居が鍵となる作品で、米山さんはキャラクターデザインと総作画監督を担当されました。第11話の勝平の泣き顔などは、今でも記憶に残っています。


米山 ありがとうございます。そこは見せ場で、原画さんもすごく上手で助かりました。

─「ビビッドレッド・オペレーション」(2013)では、対人恐怖症のひきこもり少女であるひまわりの登場回(第4話)に参加されていました。


米山 繊細なキャラはやっぱり気を遣いますね。どちらかといえば、「キルラキル」(2013~14)みたいなタッチのほうが早く描けますね。


─「キルラキル」はケレン味たっぷりの作品でしたね。


米山 この作品で今石さんやすしおさんに鍛えられました(笑)。


─2012年には「LUPIN the Third -峰不二子という女-」の原画(第6話)を描かれています。原作絵に近いデザインで、リアルタッチの作品でした。


米山 実はこっちのほうが得意です。不二子とイゾルテの百合シーンを描きました。アニメの整然とした線も好きなんですけど、漫画やイラストが好きなので、たまにアニメでこういうのができると、テンション上がったりしますね(笑)。


─線が多いと、作画が大変なのでは?


米山 線が多いといっても、デザインの線が多いパターンとタッチの線が多いパターンがあって、私はタッチの線が好きなんです。


─米山さんが作画監督をされた「パンチライン」(2015)第2話には、胸の形をしたプリンや愛のパンチラがありました。男性的にはアリでしょうが、米山さん的にはいかがでしょうか?


米山 ガイナックス出身なので、エロと激しいのはぜんぜん好きですね(笑)。


─米山さんは廃墟がお好きだとか。そういった背景も描かれるのでしょうか?


米山 あんまり数は描いてないですけど、好きですね。台湾に住んでいた時がありまして、台湾の街並みってノスタルジーな感じがあって、好きなんですよ。

 

緻密に考え抜かれたキャラクターデザイン


─アニメのキャラクターデザインで気をつけていることは?


米山 原作がある場合は原作のよさを消さないように、キャラ表を描く時には線の勢いが死なないように気をつけています。線が死んでいると、それを見た人がさらに原画を描いて、それをなぞって動画を描いてとなって、どんどん魅力がなくなってしまうんですよね。


それと、人に説明できないことはしないようにしています。なんでこの顔にしたのか、なんでこのキャラにしたのかと聞かれた時に、「彼女はこうだから」と言えないとダメかなと思っているんです。


─すべての線とデザインに理由があるのですね。


米山 私は細かいところまでコントロールしたい派で、口角の上げかたはキャラによって変えていますし、白目と黒目のすき間や眉毛も、ミリ単位で気をつけていたりします。人に与える影響はわずかかもしれないですけど、少しでも気をつけていれば、伝わるんじゃないかなと思うんです。


─拙連載でアニメーターの天﨑まなむさんは、求められるキャラデザが「誰でも描けるデザイン」から「この人じゃなきゃ描けない絵」に変わったと指摘されています(編注:https://akiba-souken.com/article/28637/?page=6


米山 昔はアニメーターさんの力が強いというか、好きに原画を描く方が多かったじゃないですか。キャラデザが決まっていてもカットでさらに魅力を付け加えて、「らんま1/2」(1989~92)とかそうじゃないですか。信用してくれているところも大きいと思うんですけど、今は言われたことしかやらない、考えない人が多くなった印象があります。だから、デザイン側でコントロールすることが結構重要なんですよね。


─過去のインタビューによると、「キズナイーバー」のキャラデザは、色まで決めておられたとか。


米山 アニメーターは色のセンスみたいなものを教わってないので、苦労しました。パーツの多いキャラクターの色を決めるのがすごく難しくて……。


─米山さんはとてもかわいらしい女の子をデザインされますが、いわゆる美少女キャラとは違ったよさがあると思います。


米山 美少女アニメのキャラって、開いていい口の大きさが決まっていたりするんですけど、自分の場合は、キャラクターの性格や声の幅に合わせて自由に変えたりしています。

─「HILL CLIMB GIRL」(2014)のキャラクターたちも、実に表情豊かでした。


米山 3Dアニメなんですが、「表情に幅を持たせて動かす」というのが課題になっていました。3Dってやっぱり破綻が許されないじゃないですか。でも、そこをあえて崩してみるみたいな。表情を崩すのも得意ですし、狭い感情の幅で繊細にやるのもすごく好きですね。


─体のラインの描き方にも魅力を感じています。


米山 そこは完全にガイナックスというか、今石さんやすしおさんの影響です(笑)。

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