【懐かしアニメ回顧録第35回】キャラクター描写にまで関与する、「THE ビッグオー」のすぐれたロボットデザイン
2017年10月12日より、テレビアニメ「いぬやしき」が放送される。総監督は「TIGER & BUNNY」(2011年)や「神撃のバハムート VIRGIN SOUL」(2017年)の監督ほか、実写作品の監督もこなす多芸多才のさとうけいいち氏。
そのさとう氏がキャラクターデザインとメカニックデザインを手がけたアニメが「THE ビッグオー」(1999年)である。現在は全26話となっているが、放送当初は全13話で完結していた。しかも、主役ロボットのビッグオーが3体もの敵ロボットに戦いを挑むところで終わるリドル・ストーリー(謎を残したまま終わる物語)であった。3年後に後半13話が制作されたのは、米国でのセールスが好調だったためである。
さて、今回は前半13話の中から、第12話「Enemy as Another Big!」の戦闘シーンにスポットを当ててみよう。サブタイトルが示すように、主役のビッグオーと同じタイプの敵ロボット、ビッグデュオが登場するエピソードだ。
“空を飛ぶ強敵”の見せる断末魔
ビッグデュオは、ほとんどビッグオーと同じ外見をしているが、大きく異なる部分がある。ビッグオーは人間と同じように5本の指を持っているが、ビッグデュオの指は作業機械のような4本のマニピュレーターだ。そのマニピュレーターをプロペラのように高速回転させることで、ビッグデュオは空中を飛行する。
ビッグオーは地下鉄の線路を使って、物語の舞台となる“パラダイム・シティ”のどこへでも、地中から現れることができる。対して、ビッグデュオは自在に空中を舞って、ビッグオーを窮地に陥れる。「マジンガーZ」や「機動戦士ガンダム」でも、空を飛ぶ敵に味方のロボットが翻弄されるシーンは見られた。空を飛ぶ敵=強敵の図式は、いわばロボットアニメの様式美だ。
ビッグデュオが強いのは、空を飛べるからではない。実際、腰のアンカーを使って空中へ移動したビッグオーによって、ビッグデュオはなす術もなく地面に叩きつけられ、倒されてしまう。
右腕と頭部を失ったビッグデュオから、操縦者のシュバルツバルトが逃げ出す。だが、操縦者を失ったにもかかわらず、ビッグデュオはみずからの意思で動き出し、戦場となったドーム都市の中央建造物に左手を伸ばす。ゾッとさせられるのは、その次の瞬間だ。4本の指を震わせながら、建造物に腕を伸ばすビッグデュオ。いよいよ力尽きて倒れるのだが、その寸前、4本の指がプロペラのように少しだけ回転するのだ。
つまり、生き物のように動いていたビッグデュオが、断末魔の瞬間だけメカニックとして備わっていた「指をプロペラにして飛行する」機構を見せる。こと切れる寸前、フッと意志のともなわない反射運動をする。その機械的な動きが、かえって生き物らしい“死”を強く感じさせるのだ。
ロボットと操縦者が共有する、外見的特長
そもそも、ロボットとは人間の形と動きを模したマシンである。
“リアル”と呼ばれる「機動戦士ガンダム」でも、赤い軍服を着たシャアが赤いザクに乗ることで、シャアの精神的強さとザクの性能が色によって相乗され、“強さ”が表現されていたのではないだろうか。
同じように、ビッグデュオは操縦者のシュバルツバルトといくつかの外見上の共通点を持っている。シュバルツバルトは元新聞記者で、物語の舞台“パラダイム・シティ”の秘密を探るうちに大やけどを負ってしまった。そのため、全身を包帯で覆っている。ビッグデュオも、初出現時には全身が包帯に包まれていた。
もうひとつ、シュバルツバルトは怪我のため、左目を金属のカバーで覆っている。右目は包帯の間からむき出しになっている。同じように、ビッグデュオの顔面も左右不対象だ。顔の右側が黒く、左側が白い。外見上の共通点により、シュバルツバルトの狂気がビッグデュオに乗り移ったかに見える。外見から生じる操縦者との一体感こそが、ビッグデュオの“強さ”なのである。
そして、シュバルツバルトはビッグオーの操縦者であるロジャー・スミスと初対面としたとき、「君も同じ姿になってくれればよかったんだがね」と、包帯に覆われた顔を見せつける。
そして、シュバルツバルトの操縦するビッグデュオが、ロジャーの乗るビッグオーの顔面をつかんだとき、ビッグオーの右目を覆っていた透明のカバーが砕けて、右目のカメラがむき出しになる。すなわち、ビッグオーの右目はシュバルツバルトの包帯からむき出しになった右目と、外見的特徴を共有してしまうのだ。
この描写は、「ビッグオーに乗ったロジャーまでもがシュバルツバルトと同じように“パラダイム・シティ”の秘密を知り、狂気に陥ってしまうのではないか?」という不安を呼び覚ます。そして、つづく第13話で、ロジャーは“パラダイム・シティ”の過去に興味を持ち、ビッグオーは断末魔のビッグデュオと同じく、操縦者が不在のまま動き出すのである。
すぐれたロボットデザインや戦闘シーンは、キャラクターの立場や心情の変化をも描写し、ストーリー展開を牽引し得るのだ。
(文/廣田恵介)
(C) サンライズ
※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。
関連記事
-
【懐かしアニメ回顧録第34回】サイレントとトーキー、ふたつの文法が交錯する「ラーゼフォン 多元変奏曲」の悲劇的プロット
アニメ 2017-09-10 -
【懐かしアニメ回顧録第33回】「月詠 -MOON PHASE-」で描かれる “ウソだからこそ平和な”日常生活
アニメ 2017-08-11 -
【懐かしアニメ回顧録第32回】“乗り物”から読み解く「魔女の宅急便」の面白さ
アニメ 2017-07-09 -
【懐かしアニメ回顧録第31回】“見る”ことと“聞く”ことで深化する「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の世界
アニメ 2017-06-24 -
【懐かしアニメ回顧録第30回】躍動的な「破裏拳ポリマー」の世界と、視聴者とを媒介する“動けないキャラクター”
アニメ 2017-05-05 -
【懐かしアニメ回顧録第29回】セルと3DCGとの共存は可能なのか? OVA「青の6号」が混沌のすえに獲得したテーマとは?
アニメ 2017-04-09 -
【懐かしアニメ回顧録第28回】メカニックの“呼び分け”によって生じる「機動戦士ガンダム」の多面的リアリズム
アニメ 2017-03-11 -
【懐かしアニメ回顧録第27回】シンメトリーの構図と舞台装置が明らかにする、「帝都物語」と演劇の相関関係
アニメ 2017-02-12 -
【懐かしアニメ回顧録第26回】生命を媒介する“液体の色”が「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の世界観を決定する
アニメ 2017-01-09 -
【懐かしアニメ回顧録第25回】物語の深層をすくいあげる「十兵衛ちゃん -ラブリー眼帯の秘密-」の「対決の構図」
アニメ 2016-12-30 -
【懐かしアニメ回顧録第24回】「アリーテ姫」の提示する、「線と色」で構成された魔法の価値
アニメ 2016-11-05 -
【懐かしアニメ回顧録第23回】“漫符”で聞かせる、「ハチミツとクローバー」のバラエティ的音響効果
アニメ 2016-10-08 -
【懐かしアニメ回顧録第22回】キャラクターの“歩き方”で幼少時代を描く、細田守の「デジモンアドベンチャー」
アニメ 2016-09-10 -
【懐かしアニメ回顧録第21回】「人物が何に触れていたのか」気にするとわかる、「ほしのこえ」の距離感
アニメ 2016-08-19 -
【懐かしアニメ回顧録第20回】「勇者王ガオガイガー」の合体シーンに見る、ロボットの「人格」と「主導権」
アニメ 2016-07-10 -
【懐かしアニメ回顧録第19回】アニメにおける「メカ」の役割を、「ジャイアントロボ 地球が静止する日」で考えてみる
アニメ 2016-06-11 -
【懐かしアニメ回顧録第18回】背景美術をセル画が支配していく爽快感! 「クラッシャージョウ」の60年代カートゥーン的魅力とは?
アニメ 2016-05-03 -
【懐かしアニメ回顧録第17回】「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」をつらぬく、重力と無重力の対比
アニメ 2016-04-09 -
【懐かしアニメ回顧録第5回】映画第1作「うる星やつら オンリー・ユー」!! 思春期にトラウマを残した悪夢の試写イベントとは!?
アニメ 2015-05-02 -
【懐かしアニメ回顧録第16回】なぜ、「ゼーガペイン」は第6話からが面白いのか? ボイスオーバーによる異化効果
アニメ 2016-03-12 -
【懐かしアニメ回顧録第15回】プレスコ方式によって生じる音楽性 パターンにとらわれない「紅」の演技の振れ幅
アニメ 2016-02-14 -
【懐かしアニメ回顧録第14回】90年代末の混迷期を堪能せよ! デジタル化されていくアニメ界で“真実”を追い求めた「ガサラキ」!
アニメ 2016-01-10 -
【懐かしアニメ回顧録第13回】松崎しげるのハスキーボイスにむせび泣く! 冷たく美しい「スペースアドベンチャー コブラ」の抽象性
アニメ 2015-12-19 -
【懐かしアニメ回顧録第12回】手描きによるメカ作画の威力! 88年版「ドミニオン」の戦車描写に胸を熱くしろ!
アニメ 2015-11-14 -
【懐かしアニメ回顧録第11回】新房演出の源流は、「コゼットの肖像」に息づいている!
アニメ 2015-10-18 -
【懐かしアニメ回顧録第10回】初代「ルパン三世」の傑作エピソードは、「引き算」でできている!?
アニメ 2015-09-23 -
【懐かしアニメ回顧録第9回】30年前の“いちばんいい時代”を描いた「メガゾーン23」は、単なる懐古趣味とは言い切れない!?
アニメ 2015-08-01 -
【懐かしアニメ回顧録第8回】“パクり”と指摘するのは野暮! 海外SFX映画ブームの中で生まれた「バブルガムクライシス」の浮遊感覚に酔いしれろ!
アニメ 2015-07-10 -
【懐かしアニメ回顧録第7回】小学1年生の感じた背徳と困惑! 元祖サイボーグ美少女アニメ「キューティーハニー」に漂う昭和のドキドキ!!
アニメ 2015-06-13 -
【懐かしアニメ回顧録第6回】「警察+ロボット」ものの元祖!? 朝1回のみ上映された「テクノポリス21C」の発する“色気”の正体!!
アニメ 2015-05-23 -
【懐かしアニメ回顧録第4回】「タイムボカン」王道コメディシリーズの第1作目!
アニメ 2015-03-06 -
【懐かしアニメ回顧録第3回】セルアニメ版「アップルシード」。唯一の実写映像付きOVA!!
アニメ 2015-02-27 -
【懐かしアニメ回顧録第2回】CGアニメ黎明期に制作!モバイルネットの近未来を描いた「プラトニックチェーン」
アニメ 2015-01-17 -
【懐かしアニメ回顧録第1回】「艦これ」の原型はここにあった!? 太平洋戦争が舞台の海戦アニメ「アニメンタリー 決断」
アニメ 2014-11-21