【懐かしアニメ回顧録第27回】シンメトリーの構図と舞台装置が明らかにする、「帝都物語」と演劇の相関関係
アニメ映画「LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門」が公開中だ。監督の小池健はアニメーターとしてキャリアをスタートさせ、OVA「帝都物語」(1991年)では、作画監督補佐を務めている。
そのアニメ版「帝都物語」、参加しているアニメーター陣は、庵野秀明、鶴巻和哉、本田雄、樋口真嗣、前田真宏、増尾昭一、今掛勇、松原秀典……といった元ガイナックス周辺のメンバーに加えて、羽山賢二、大橋誉志光、岸田隆宏ら、驚くほど豪華な顔ぶれが揃っている。キャラクターデザインは、摩砂雪である。
荒俣宏による小説「帝都物語」は、1988年に劇場用映画として実写化されている。明治から大正、昭和を舞台に、帝都・東京の壊滅をもくろむ謎の怪人・加藤保憲と、彼と戦う人々を描いている点は、実写版もアニメ版も変わらない。
第一巻・魔都篇は、霊力をもった少女・辰宮由佳理を、加藤が連れ去るところで終わっている。演出は、片山一良が務めている。
シャープな仕草とシンメトリーの構図がもたらす威圧感
実写版「帝都物語」は、加藤の使役する“式神”や“腹中虫”といったクリーチャーやセットを使ったSFXが売りだった。アニメ版「帝都物語」は、「幻魔大戦」でエスパーたちの活躍を描いたりんたろうがシリーズ監督に立っているため、アニメーションならではの魔力、妖術描写が最大の見どころとなっている。
劇中、妖術を使うシーンで中心になるのは、怪人・加藤保憲だ。
“帝都改造計画”に向けて建設的なムードが流れる東京で、加藤だけが平将門の怨霊を呼びさまそうと破壊的な行動に出る。冒頭、加藤は平将門の霊が眠る“首塚”を訪れ、怨霊を蘇らせようとする。地面が割れて人面が出現したり、グロテスクな描写が続くが、シーンの異様さを高めているのは、加藤の仕草だ。
首塚の前に立った軍服姿の加藤は、ブーツのかかとカチッと合わせて、「気をつけ」の姿勢をとる。加藤の仕草は、1つひとつが儀礼じみている。初登場から「気をつけ」のカットまで、加藤をとらえたカットは8カット。うち5カットが、加藤を真正面・真上・真後ろから捉えたシンメトリーの構図だ。
次に加藤は、陰陽師である平井保昌の前に現れる。その際も、加藤の姿は真正面からとらえられている。以降も、「河川を進む船の上に立っている」「神社の木の上に立っている」など、加藤の登場シーンのほとんどに、シンメトリーの構図が使われている。
左右対称の構図を多用することで、加藤の存在に象徴性と威圧感が加わり、彼の行動が計画的で規律にのっとったものであること……すなわち、加藤の「手ごわさ」が伝わってくる。
敵と味方が同じ動きをすることで、演技が様式化される
辰宮由佳理を誘拐した加藤は、陰陽師の平井に行く手をはばまれる。河原で向き合う平井に、加藤は言う。「正義づらはよせ。貴様も、人を呪うもの。俺とは表と裏、光と影」。
同時に、画面左から右に、加藤の左足がジリジリと動く。戦いのために身構えているのだ。続くカットでは、平井の右足が画面右から左へとジリジリと動く。平井も加藤を迎え撃つために身構えているわけだが、同じ構図を反転して使っているため、「平井が加藤のペースに乗せられている」ようには見えないだろうか? また、加藤の左足と平井の右足、連続する2つのカットがシンメトリーを形成することで、加藤の「表と裏、光と影」というセリフを、視覚的に裏づけてもいる。
さらに、加藤と平井が同じ動きを繰り返すことで、シーン全体が様式化され、2人の戦いが舞踏のようにも感じられてくる。冒頭、加藤が“首塚”を訪れると、鉄門が左右に開く。木橋を渡る。月をバックに立つ……、加藤の登場シーンには、何かしらの舞台装置が用意されていることに気づく。
さて、このアニメ版「帝都物語」で加藤を演じているのは、嶋田久作。実写版の「帝都物語」で映画俳優としてデビューする前は、劇団「東京グランギニョル」の座付き役者だった。つまり、舞台俳優だったのだ。
加藤と敵対する平井を演じるのは、納谷悟朗。納谷もやはり、舞台俳優であった。アニメーションと演劇は意外と深いところでつながっていて、「表と裏、光と影」のような関係なのかもしれない。
(文/廣田恵介)
(C) 荒俣宏/東映ビデオ・オズ・角川書店
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