PLUMの「1/80 中央線」は、昭和~平成の記憶を刺激するプラモデル【ホビー業界インサイド第53回】

2019年11月30日 12:000

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華やかではない通勤電車だからこそ、万人の心に残っている


中野 中央線を選んだ理由は、「使っている人が多い」からです。なじみのあるオレンジ色の中央線は、皆さんの青春ですとか就職ですとか、人生の節目節目にからんでいる電車なので、ライトユーザーにも訴求しやすいと思ったんです。マニア向けには、この201系という車両はカリスマ性があるそうなんです。国鉄時代とJR時代の過渡期に採用された、キャラクター性の強い電車とのことです。

── すると、もう走ってないんですか?

中野 はい、現役ではありません。だけど、引退したことを忘れてしまうぐらい、オレンジ色の中央線は皆さんの脳裏に強烈に焼きついているわけです。通勤電車なので決して華やかではないのですが、華やかではない日常のアイコンだからこそ、じっくり作りこんで手元に置いていただけるのではないかと思います。
今、模型業界に2つの潮流があって、ひとつは「日常をヴィネットに作りこむ系」、カーモデルの周囲に女性フィギュアを置いて小さな情景をつくる楽しみ方。もうひとつが「サクッと組み立てる系」、色分けされたパーツを簡単に素組みして楽しむ流れ。その中間あたりを「すみません」と通してもらえるような企画を狙っています。 また、今回の201系は鉄道模型のHOゲージとしては珍しく、テールライトの上にあるステップがモールドの板になっています。細い針金のようなもので再現することはできるので、あえて改造する余地として残してあります。へたに再現しようとしてもっさりしたステップになるよりは、板のままのほうが電車らしさが出るんです。ピンセットで神経質に組むよりは、すっきり気持ちよく組み立ててもらいたい、弊社の模型哲学のようなものもあります。

── ところで、キットは2種類、先頭車(クハ201・クハ200)セットと中間車(モハ201・モハ200)セットとが、別々に発売されるのですね。

中野 はい、先頭車と中間車のセットにしてしまうと、実際の編成を組みづらいですよね。中間車の数を揃えようとすると、先頭車が余ることになってしまいます。また、単独で飾るにしても、先頭車セットのほうが雰囲気を出しやすいと思います。それと、2セット4両、実はすべてディテールが異なるんです。


── そうなんですか? すると、わざわざ車両の型を4種類も作ったのでしょうか?

中野 素直に4種類も金型をつくると、大変なお金がかかってしまいます。ボディをよく見ると、うっすらとパーティングラインが走っています。金型を分割することで、ほんの細かなディテールの差異を出しています。別の車両を成形するときは、金型の一部を切り替えるだけで4種類の車両を成形可能です。

── 普通のプラモデルなら「切り取ってください」と、ユーザーに丸投げにするような些細なディテールですね?

中野 あるいは、エッチングパーツを付けて「接着してください」とお願いするようなディテールですよね。そうすると使う工具の種類が増えて、急にハードルが上がってしまうんです。お客様に負担をかけることは容易なのですが、それでは興味を示してくれたライトユーザーの方が遠ざかってしまいます。私たちには、金型屋としての意地もあります。

── 現役の電車ではないので、資料集めも大変だったでしょうね。

中野 つい最近まで走っていて、いつも手に触れていたはずの電車なのに、いざ模型化しようとすると正確な寸法も裏側のディテールもわからないんです。JR東日本さんにも、ちゃんとした資料は残っていませんでした。中央線は一般の方がよく覚えていて、個人的に撮影もしているので、写真ベースの記憶が皆さんの頭の中に残っている状態です。そこへ図面と写真のイメージをうまく融合させた、印象に近い模型がポンと飛びこんで来て、「よく似ているね」と面白く受け止めていただけているようです。電車も美少女フィギュアも“顔”が似ていないと駄目なので、そのあたりのデフォルメやアレンジは得意だと自負しています(笑)。



(取材・文/廣田恵介)

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