ジャンクハンター吉田が突撃!「Detroit: Become Human」デヴィッド・ケイジが語るAIの未来像──、そして次回作は!?

2019年09月23日 18:000

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先日無事に閉幕を迎えた「東京ゲームショウ2019」。その会期中に、昨年リリースされ世界中で大ヒットを記録したPlayStation4用アドベンチャーゲーム「Detroit: Become Human」ディレクター兼シナリオライターのデヴィッド・ケイジ氏が来日した。

今後、「Detroit: Become Human」はPC版のリリースが予定されており、再び本作が世界中を席巻することは間違いない。そこで、アキバ総研はデヴィッドとコンタクトを取り、改めて「Detroit: Become Human」の開発エピソードや、本作で扱われたAIが将来どのような社会を築いていくのか、という展望をうかがった。

インタビュアーを務めたのは、デヴィッド氏の大ファンというゲーム・映画コラムニストのジャンクハンター吉田(当日は、私物のPS2用ソフト「ファーレンハイト」を持参して取材に臨んだ)。彼ならではの、ほかでは聞けないディープなインタビューとなった。

 

どうなる!? PC版「Detroit: Become Human」!

――近日、PC版「Detroit: Become Human」のリリースが予定されますが、先行で発売されているPS4版とは何が違うのでしょうか?

 

デヴィッド ゲームの自体に変更はありません。本作はPS4で最適化して作っていたものなのでPCへの移植は大変でしたが、スペックの低いPCでも動作するように3Dのレンダリングエンジンを変えて移植しているんです。

 

――ということはPS4版のように、物語がヒエラルキーで別れるなどの選択肢はないんですね?

 

デヴィッド それもありません。中身はすべて同じに作りました。

 

――「Detroit: Become Human」はA.I.をテーマに作られた作品でしたが、シナリオを書く上で何か意図はあったのですか?

 

デヴィッド 若いシナリオライターは影響を受けた映画などをリ・クリエイトする傾向があります。ですが、歳を重ねるとその作品からどの様な影響を受けて、どのようなことを心の底から伝えたいのかという”メッセージ部分”をゲームへ反映させて行くものだと私は思っているんですね。私も本や映画をたくさん見てきましたが、それを再現するという形だけにはしたくありませんでした。そこでアンドロイドを善、人間を悪としたスタイルでアンドロイドの視点から物語を作っていこうとシナリオを構築していったのです。

 

 

――A.I.が暴走する映画ですと古くはデニス・ジョーンズの小説「コロッサス」を映画化した「地球爆破作戦」(1970)や有名なところではジェームズ・キャメロン監督の「ターミネーター」(1984~)シリーズのスカイネットが思い浮かびます。「Detroit: Become Human」には「エイリアン2」(1986)でビショップというアンドロイドを演じたランス・ヘンリクセンさんが出演しているんですが……それは狙っての起用だったとか?

 

デヴィッド もちろん(笑)。それらを含めたさまざまな映画を観て研究しましたが、私としては新しい視点で見たアンドロイドというものを描きたいと思い、そしてA.I.についてのストーリーというよりも、マイノリティや権利を獲得するためのアンドロイド側の戦いをテーマにしたいと思いました。

 

――デヴィッドさんは今後AIというものはどのような形へ発展していくと考えていますか?

 

デヴィッド うーん、非常に難しい質問ですね。今後もAIは発展していき、私たちが予測している以上に考えも及ばないような進化を遂げていくと思われます。「デトロイト~」はAIが発展していくことで人間社会にどのような影響を与えてしまうのか、をプレイヤーへ考えてもらうべく描いた内容なんです。例えば……いつかAIが音楽を作曲をするようになったり、本を書くようになったりして人間が不要な世界が訪れるかもしれません。人とアンドロイドがそっくりになって、アンドロイド側が妥協や面倒臭い存在である人間との共生を拒否して、知能を持ったアンドロイドたちが独立するかもしれません。そういった事があると人間はさらにわがままになっていくかもしれませんし、技術への依存がさらに高くなる可能性も否定できません。コンピュータやA.I.の機能が人間に近づいていることは大変興味深く、AIが自意識や自我を持つと権利を主張するようになるかもしれないという考えを抱いてもいいかと思いますね。

 

――政府が兵器として秘密裏に開発した少年型のアンドロイド、ダリルが主人公の「ダリル」(1985)という映画があったんですが、このダリルは運動や勉強含め何でもできる万能型アンドロイドだったんです。AIの発達でこのようなアンドロイドの時代はやってくると思いますか?

 

デヴィッド 「ダリル」のようなAIの発達による運動能力の進化は面白いと思います。が、現実的にそれは我々が考えるよりずっと複雑だと思います。環境を把握する能力、重力や周りの人の動きを予測する能力が求められますので非常に難しいでしょうね。特にボストン・ダイナミックス社は将来的に優れたロボットを開発していくと思います。AIが進歩していくと危険な部分もあるので私自身は望みませんが、おそらく最初の応用は軍が兵器として開発し、それを実戦配備できるかテストするため最前線へ送り込むのでしょうね。普及後は老人や身体の悪い人を介助や補助できたりすることが可能な、生活に役立つロボットが誕生していくと私は考えます。

 

――「Detroit: Become Human」もそうなんですけど、デヴィッドさんの作品に共通するのが、デヴィッド・ガスマンさんという方がボイスアクターとして全部の作品に参加されるんですが……どのようなご関係なんでしょうか?

 

デヴィッド 彼は25年ほど前に出会ったアメリカ人の俳優ですが現在はパリに住んでいるんです。その頃の私はサウンドエンジニアをしてて、その頃にガスマンと知り合いました。長年連れ添った同僚というよりも同志という関係で、私と共にいろんな仕事を一緒にやってきました。最初のゲーム「Omikron: The Nomad Soul」(1999)、「ファーレンハイト」(2005)、「HEAVY RAIN 心の軋むとき」(2010)、「BEYOND: Two Souls」(2013)でボイスアクターを務めてくれた後、「Detroit: Become Human」では警官役で出演してもらいました。非常に仕事もしやすくいい人で、完璧にこなしてくれる素晴らしい俳優ですよ。

 



クアンティック・ドリーム、俳優起用のポイントとは?

――クアンティック・ドリーム起業前の1995年にデヴィッドさんはスーパーファミコンやメガCD(海外のみ発売)の「タイムコップ」でコンポーザーを務められましたが。

 

デヴィッド よく知ってますねぇ。実はゲームデザイナーを目指すのではなく、プロのミュージシャンになろうと16歳の時から音楽の勉強をしてバンドを組んだりしていました。ジャン=クロード・ヴァン・ダムさんとは会っていないけど……「タイムコップ」のゲームでは……私はあまり誇れる仕事をしていないので苦い思い出です(苦笑)。なぜならば私自身、作曲家としてビデオゲームの仕事を初めたばかりで、とにかくいろんな仕事をやっていこうとガムシャラな時代だったんです。音楽も作れたし、ゲーマーでもあったので関わっただけだったんですよ。その後クアンティック・ドリームを立ち上げる時に作曲家の道を選ぶか、それともゲームデザイナーの道を選ぶか考えました。結果としてゲームデザイナーの道を選んだわけですが、今でも少しは作曲をしてましてショートムービーや各ゲームのオープニング曲は私が手掛けたりもしてます。

ちなみに「Omikron~」のストーリーを思い浮かんだ時に、これを絶対にビデオゲーム化するぞ、との強い意志があってクアンティック・ドリームを1997年に創業したんです。どこかのゲーム会社がこのアイデアを起用して作ってくれないかとパブリッシャーを当たったんですけど……どの会社も開発してくれなかったため、それだったら自分で開発会社を立ち上げようと奮起してクアンティック・ドリームを立ち上げざるを得なくなって今に至ります(苦笑)。今後もコンポーザーの仕事を続けながらショートムービーも作り続ける路線は変わらず並行していこうと考えてます。ビデオゲームを作っていく上でプロトタイプな骨子となるショートムービーの制作は、シナリオ執筆していく傍ら、アイデアを膨らませていくのにちょうどいいんですよ。個人的にもショートムービーの制作は大好きなので、刺激も得られますしね。

 

――その「Omikron~」ではミュージシャンのデヴィット・ボウイさんを起用しましたが、どういった経緯で参加されたのでしょうか?

 

デヴィッド 私たちが今までと違ったゲームを作ろうと思ってミーティングを開いた時、開発チームの面々で「音楽は誰に担当させようか?」と有名ミュージシャンたちをあげていき、”夢のリスト”を作っていったんです。その一番上に位置していたのがボウイだったんです。ダメ元で早速オファーをかけようと連絡したら、意外にもビデオゲームへ興味を示してくれて「20分だけ時間を作る」と急遽ロンドンで会うことになったんです……が、結果として2時間30分話すことができました。ストーリーからゲームシステム、世界観、そして彼に完成したゲームをプレイしてもらいたいことなど熱意タップリに説明すると、彼のほうがドンドンと興味を抱いてくれて逆にいろいろな質問をしてきたんです。その質問すべてに回答した後「わかった、一緒にやろう!」と喜んで引き受けてくれた結果、音楽だけじゃなくキャラクターとしても登場することになりました。

 

 

――「Omikron~」から「ファーレンハイト」まで6年の期間がありましたが、その空白の間は何をしていたんですか?

 

デヴィッド ちょうどこの時にインタラクティブ・ストーリーを考えて「ファーレンハイト」の作成に取りかかっていたんです。シナリオ含め、その後の私にとって大変大きな飛躍だったんですね。「ファーレンハイト」を皮切りにシナリオ重視なアドベンチャーゲームの要素を生み出して今の「Detroit: Become Human」もそうなんですけど、デヴィッドさんの作品に共通するのが、デヴィッド・ガスマン」にまで反映させてきているんですが、やっぱりこの長かった6年間はその後のクアンティック・ドリームを左右させるための熟考するいい時間だったと思ってます。その後は4年の開発期間で「HEAVY RAIN-心の軋むとき-」を作り出し、さまざまなノウハウを得て今ではモーションキャプチャーのスタジオをウチの会社で運営するようになったぐらいです。

 

――モーションキャプチャーのスタジオを自社で運営しているということは、映画会社や他社のゲーム会社などにも使用させているんですか?

 

デヴィッド はい。そうです。映画やテレビなどの他、ゲーム会社だとUBIソフトさんはお得意さんです(笑)。フランス界隈のいろんな会社に活用してもらってますよ。ただし、フェイシャルモーションだけは特別なので私たちの会社でしか使っていません。他社さんにはボディモーションのみスタジオで使用させてますね。

 

――「BEYOND: Two Souls」では、エレン・ペイジさんとウィレム・デフォーさんをハリウッドから招いてゲームに起用されていましたが、起用した理由とは?

 

デヴィッド まず脚本を書いていた時に、どの役を誰にやってもらうべきかを頭の中で考えました。しかし、主要キャストの顔が浮かんでこないと脚本の執筆が進まない。そこで最初に女優から起用を考えた時、どういうわけかエレン・ペイジさんが頭に浮かんできて、これから書こうとしている脚本の声にピッタリだと感じたんです。非常にラッキーなことにすぐにロサンゼルスで彼女に会うアポイントが取れたので、即座にフランスから向かいました。ストーリーやキャラクターの話をすると熱心に聞いてくれるも、ビデオゲームの仕事なのでちょっと考えていたのですが、最終的に「Yes」と答えてくれたんです。はるばるフランスから飛んでいった甲斐がありましたよ(笑)。ウィレム・デフォーさんも彼女とほとんど同じ感じでしたね。科学者の役を探していて彼しかいないと思い(注:おそらく2002年公開のサム・ライミ版「スパイダーマン」の影響があったのでは!?)、コンタクト取ったら当時イタリアに住んでいるとのことだったのでローマで会い、口説き落とし起用に至りました。

 

――著名な方を口説いて起用するにはどのような手法を?

 

デヴィッド 私たちのようなストーリー主導型のアドベンチャーゲームの素晴らしいところは、まずスクリプトありきで、どういうストーリーなのかと役者にとって非常に説明しやすいため、自分が演じる役も大変イメージしやすく感じていると思うんですね。シューティングゲームだとこうはいかないです。スクリプトがあるからこそキャラクターやストーリーのイメージがしやすい……つまり、役者側は映画に出演する台本を読んでいる感覚になってもらえるはずなんです。

 

――やはり起用する開発側もエモーションが重要ってことですね。

 

デヴィッド そうです。特に私たちが非常に気にしていることがありまして、参加してもらう役者陣にはおカネ目当ての人はパスしてもらっているんです。とにかくビデオゲームに興味を持ってもらえて、そこにパッション、エモーションを感じられる俳優にやってほしいと思っているんです。というのも「Detroit: Become Human」もそうなんですけど、デヴィッドさんの作品に共通するのが、デヴィッド・ガスマン」の撮影現場はとても過酷で物凄い時間がかかり、いろいろ難関な部分がありました。労働時間が長いことからおカネ目当てで現場へ来てしまうと情熱が失われてしまい、結果としてできあがったものが残念なものになってしまう。なので、やる気のある方、興味のある方、そしてビデオゲームの世界観を理解してくれる方を非常に重んじています。私はオーディションの時に「僕らの仕事は大量の資料を暗記させるし、とにかく疲れるし、要求はものすごく多い。この仕事は本当に大変だよ?」と威嚇して驚かせるんです。それで面食らう人はもう不合格ですね。そんなキツい現場でも一緒に仕事したいと付いてきてくれる人は、仲間として起用しています。

 

 

――では、最後になるんですが……この流れを考えると次回作も当然アドベンチャーゲームですよね?

 

デヴィッド えーっと、それは言えないよ。どんな作品になるかも言えないしどんなジャンルかも言えないよ(笑)。近いうちに発表できるかもね。

 

――言えないってことは……やっぱりアドベンチャーゲームですね!? 違ったらハッキリ「違う作品になる」って言うはずだし。誘導尋問に引っ掛かりましたね(笑)。

 

(取材・文/ジャンクハンター吉田)

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